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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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会いたかった

「和輝君、良かった、無事だったんだね。どれだけ心配したと思っているの? やっと会えたのに、また会えなくなってしまう。そう思うと、怖かった、……怖かったよぅ……」

 海人を連れ去った楓雅は、そのまま和輝のいる部屋まで連れて行った。希望を持ちながらも、疑いや恐怖が渦巻いていた海人の心が、一気に晴れやかになった。敵中に一人攫われたというのに、護衛兵も野乃花も門に残したままだというのに、和輝に会えたことだけで、海人は嬉しくて仕方がないのであった。

 瞳に涙をいっぱい溜めて、和輝に抱き着く。和輝からも訊ねたいことはあったろうし、彼だって驚いてはいただろうが、まずは海人を落ち着かせなければいけないと、優しく背中をさすっていた。そうして海人が満足するまでの間、二人は抱き合い続け負の感情を全て温かいものに変えてしまった。

「不思議だな。和輝君に会えたら、もう何もかも、どうでも良いみたいだ」

 抱き締める腕を離してからも、幸せそうに頬を綻ばせ、海人はそんなことを言っている。このままだといくらでも幸せに浸っていそうで、さすがに呼び戻さないといけないと思ったのだろうか。心配を掛けていた当人だからこそ、珍しく和輝の方が状況の深刻さを理解していたらしい。

 海人は理解し過ぎているがゆえに、考え過ぎているがゆえに、恐ろしくなって逃げてしまっている。そういった可能性もあるが。

「でもどうして海人がこんなところにいるの? もしかして、野乃花ちゃんや日良ちゃんも?」

「のんたんはここまで一緒に来たし、まだ門のところで待っているのか、入れて貰えたか。どちらかは僕もわからない。まさか日良様はいらっしゃらないよ。あの人は城主なんだから、そう簡単に敵地へ行かせはしないさ。城で咲希様が帰ってくるのを待っている。見ている方が痛々しいほど、ひどく、心配なさっているよ」

 和輝の言葉を聞いて、急に現実へ引き戻されたというように、海人は表情を一変する。幸せそうな面影は消えており、日良のことを想って言う彼も、見ている方が痛々しいほどに、ひどく心配そうな表情なのであった。

「そっか。それじゃあ、日良ちゃんを安心させてあげる為にも、早く帰らないといけないんだね」

 微笑む和樹はあまりに優し気で、海人は溜めていた涙を溢れさせる。咲希は勿論のこと、楓雅は和輝のことも、海人のことだって逃がす訳にはいかないだろう。敵対関係にあるのだから、それは当然であった。

 しかし非情と言われても、林太の命令のみを信じ、これまで機械的に任務を熟してきた楓雅。そんな彼も、今回ばかりは二人をここに閉じ込め続けることを、躊躇ってしまう。もっと悲しい出来事だってあったが、決して揺るぐこともなく鬼であり続けた楓雅の心も、異世界からの”変態”には揺らいでしまったのだろう。

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