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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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恩を返すだけ

 暫しの沈黙が二人の間を包み込む。その沈黙を破ったのは雄大の方であった。

「そこまで仰るのなら、ええ、一緒に参りましょう。玲奈殿から咲希殿が救ってくれたことは事実ですし、恩を借りたままではいられませんから」

 覚悟を決めたような、強い眼差しとは言えなかった。彼は自信なさげで弱々しいまま。だけれど、一葉の熱心な言葉に心を動かされ決意したのだ。

 絶対に城を動かないとまで言った。意志の弱い彼が、絶対とまで言い切った。それでもめげずに頼み続けてくる一葉に、遂に雄大は咲希の救出へ向かおうと決める。

「雄大殿……。ありがとうございます。ありがとうございます!」

 数々の戦場を走り抜け、敵を蹴散らし咲希を守ってきた一葉。とはいえ、一人で林太の元へ侵入し、咲希を救出して帰ってこれるとは思っていない。ただでさえそれなりの大国である林太の軍。彼は警戒を怠らないから国に入ること自体容易ではないし、何より林太のところには天才最強の川上楓雅がいる。

 それを考えたら、十分な兵力を持って攻め込んだ方がより効率が良いという思考へと至る。しかし雄大が治めるこの国は、戦なんてほとんど経験がなかった。攻められたことがないとは言わないけれど、少なくとも雄大が継いでからは、他国を攻めたことなど一度もない。それが、戦慣れした林太軍の大軍を相手にして、戦いになるわけがなかった。

 策を仕掛けようにも、楓雅がいては見抜かれてしまう。咲希の救出だけを目的に忍び込もうにも、楓雅がいては自分も捕まってしまうだけだろう。軍を連れて攻め込もうにも、戦力でも戦術でも叶わず、呆気なく滅ぼされてしまうだけ。守ることすら出来なかったのに、取り返すなんて出来るはずもなく、対抗する力など何も持っていなかった。

 だからって一葉は、諦めるわけじゃない。無理なら仕方がない、なんてなるわけがない。雄大を説得したのにも、彼女なりの考えがあってのことだった。

「用意を済ませて下さい。少しの距離がありますから、出発は明日にしますか。整備した道を選んで通るつもりはございませんから、服装も考慮なさって下さい。ゆっくりしっかりと、体を休めておくように。それでは」

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