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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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ギャップ萌え?

「美味しいですか? 料理はあまりしないのですが、和輝様に食べて頂きたいと思い、挑戦してみたのです」

 そう、美しく笑う楓雅。和輝の前には、大きな机いっぱいの豪華な料理が広がっていて、そのどれもが彼にとって、食べたことがないほどに美味しいものだった。

「うん、とっても美味しいよ。これを全部、楓雅ちゃんが作ったの?」

 敵に攫われた状況であるにも拘らず、数十分前まで自分を拷問に掛けていた相手に、和輝は無垢な笑顔を向けるのであった。さすがの和輝だって、戦争と言うほどではないにしろ、人が殺し合う姿を何度も見た。いつまでも呑気なままでいられる訳でもない。

 しかし彼は、”美味しいものを食べている今”が、幸せなものだからと、笑顔を浮かべることが出来るのであった。恐怖に歪んだ少し前の表情と、今浮かべている満面の笑みが一致しなくて、珍しく楓雅も困惑気味だ。

「料理は得意じゃないので、全てではなく、少し手伝っても頂きました。……誘拐という形で無理矢理連れてきてしまいましたが、こちらとしてはきちんとしたおもてなしをしたいのです。好ましい相手を自らの手に入れたいと思うのは、当然だとは思いませんか?」

 困惑気味とはいえ、表情からは見ている人が読み取れない、その程度の困惑ではあるのだが。人の表情を読むのに長けた和輝も、楓雅のその表情には気付かない。変わらない無表情に、見惚れているのであった。

 そして不意に楓雅のことを抱き締めた。突然過ぎる和輝のその行動に、楓雅は小さく首を傾げた。もういい加減和輝の笑顔にも慣れたからか、完全に楓雅の表情から困惑の色は消えていたのだが、また彼は困惑し戸惑ってしまう。今度は、和輝の目で読み取れるほどの困惑であった。

「驚いている楓雅ちゃん、可愛いね。あっ、いきなり抱き締めたりして、ごめんね? でもさ、好ましい相手を自分の手に入れたいと思うのって、当然のことだと思うでしょ?」

 素直なだけの男だと思っていたのに、不敵な笑みを浮かべそんなことを言われてしまっては、楓雅としても心が揺らぐというものである。好ましい相手、和輝にそう言われたことが、楓雅は嬉しくなってしまっていた。自分のしたことの惨さは理解していたし、嫌われて当然と思い、それを望んでもいたからだ。

 楓雅が大切に想い、従わんとするのは、守らんとするのは、林太その人一人だけ。周りも本人も、そう思っていた。だからこそ楓雅は、和輝の笑みに魅せられた後、少し不機嫌そうな表情を浮かべたのであった。

「和輝様は、……馬鹿ですね」

 呟く当人にも聞こえないような声で呟き、楓雅は「ありがとうございます」と、無機質な声で機械のようにお礼を告げた。

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