救出のため
「本当に、それ以上は何もご存じないのですね?」
絞り取れるだけの情報を雄大から残らず全て聞き出すと、一葉は最後に確認をする。そして立ち上がると、雄大のことも立ち上がらせる。
「一緒に行きませんか? 雄大殿は何をそんなに恐れていらっしゃるのです。恐れるものなど、本当は何もないのですよ」
手を差し伸べられたので、思わず掴んでしまい、そのまま立ち上がらせられてしまった。しかし手を引いて歩き出そうとする一葉に、連れて行かれるわけにはいかなかった。自分は決して動くつもりがないという、意思表示も込めて、彼は固い決意のもとに動こうとしなかった。
普段は流されるがままに動きがちの、臆病な彼。それでも今だけは頑なに動くまいとし、どんなに一葉が手を引いても動きはしなかった。彼女の呼び掛けにも反応を示さず、逸らすこともせず、ただまっすぐに彼女の目を見つめていた。
「行きません。絶対に行きません! 今更、救出に行こうというのを止めはしませんが、決してここを動くことはしません。行くならば、勝手に一人で行って下さい」
いつになくはっきりと言葉を発し、行かないと言い切るものだから、一葉は驚いてしまう。雄大の口から、絶対に、なんて言われるとは思っていなかった。そこまでの否定をされるとは思っていなかった。雄大を勘違いしていたのかもしれないと、一葉は彼のまっすぐな目に、同じくまっすぐな視線を向ける。
急いで咲希のところへ行かなければならない。本来ならば一葉には、こんなことをしている暇などないはずなのだ。そして雄大だって、一葉に全てを話してしまった時点で、咲希が救出されず一葉が捕まった場合には、自分の立場も危うくなることがわかっている。もう関係ないとは言えないところまで来てしまっていることも、わかっていた。
「どうして……? 私では雄大殿を守る力がないのだと、そう仰るのでしょうか」
意地の張り合いになってしまっていたので、行こう行かないの言い合いを終わりにして、一葉は雄大に問い掛ける。それに対して雄大は、哀しそうな、何かを恐れているかのような表情で、俯くことしか返せなかった。




