救出隊出動
咲希が攫われてから、四日が経った。救出の目処は少しも立っていない。
「まずは正確な情報が必要となります。咲希様と和輝君がどこにいるのか、それすら知れないうちは、動くことも出来ないでしょう。人質を取られているようなもの、闇雲な捜査は出来ますまい」
すっかり軍師らしい表情で、海人はそう告げる。
場所は日良の部屋の隣りにある、空室。大切な客が城に泊まっていくときに、貸し出しをする客間としても使われている。それだけあって、普段は使われていないというのに、豪華な机に椅子に、寝具が整えられていた。掃除もしっかりと隅々まで行き届いている。
椅子は一つしか用意されていないので、部屋の真ん中に設置し、そこには日良が座っている。そしてその足元に、海人と野乃花が正座しているという状態であった。
「そもそも、咲希様が攫われたという情報は、間違えのないものなのでしょうか。梓たんの勘違いとかでは?」
「ないと思います。私も最初はそう思いたくて、雄大様のところへ確認に行かせましたから」
微かな希望を込めて発した海人の言葉を、残念そうに日良は否定する。しかし海人は一瞬だけ項垂れてみせたのだが、その後すぐに顔を上げて、「まいったなぁ~」なんて頭を掻いている。全く危機感など感じていないかのような、呑気な言い方である。
「咲希様の居場所も探ってこられるくらい、梓が優秀ならば、救出だって容易であったでしょうに。梓で救える程度ならば、もう既に深雪様によって救い出されていることでしょうね」
一方の日良は悩み苦しんでいる様子で、重い溜め息を吐いた。ちなみに梓が貶されたことを、野乃花が小さく笑っていたことは、日良には内緒のことである。海人は気が付いているようだったが。
「そっか。敵はそんなに強いんだ。でしたら、僕が行きましょうか?」
なんでもないことのように海人が言うので、日良は驚いてしまう。賢い海人ではあるが、楓雅の優秀さは知らないから、そんなことを言ったのだと思ったのだ。
「無茶です。海人、危険ですよ」
「いいえ、大丈夫です。僕にお任せ下さい」
海人を失いたくないので、すぐに日良は止めようとする。しかし海人は日良の言葉を否定し、大丈夫であると断定したのであった。
不安そうにしている素振りは滅多に見せない海人だが、こうして断定することは珍しい。いつも自信を持っているようであるが、その意見を押し付けようとすることはせず、一度否定されたなら新しい手段を即座に提供する。だからこそ、日良は海人が”いいえ”と口にしたことに、驚いてしまった。
「分かりました。海人がそこまで仰るのは、何か根拠があってのことなのでしょう。海人に命じます。咲希様を、助けて下さい……」
俯きがちに言う日良を、海人はクスッと笑った。その笑みの中に無邪気さが見えたようで、呆気に取られた日良は、真面目に悩んでいるのが馬鹿らしく思えたのか、同じように笑みを浮かべた。
「それじゃあ、命令じゃなくてお願いですよ。日良様らしいですね。あっそうだ、日良様、考え込むよりも、楽観的に見た方が、案外上手く行きますよ」
そう言って部屋を去ろうとしていた海人を、野乃花が止めた。言おうか言うまいか躊躇っている様子だったが、海人が行ってしまおうとするので、咄嗟に隣りにあった海人の右腕を掴んでしまったとのことらしい。
「一緒に来てくれるの? それなら大歓迎だよ。僕より強そうだし」
腕を掴んでおきながら、なおも野乃花は躊躇っているようだったので、海人の方からそう尋ねてやる。すると野乃花はなぜ分かったのか不思議そうにしながらも、コクリと頷いて、嬉しそうな表情をした。許可するという意味で、日良も大きく頷いてみせた。
「出発は明日、それまでに準備を整えておいて下さい。必ず咲希様を、和輝君を助けて参ります」




