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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
20/85

二つの主従関係 2

「楓雅、やれ」

 低い声で林太が指示を出せば、楓雅は立ち上がり、なんの躊躇いもなく用意されていたものを手に取る。連れてこられたそのときから、和輝が目を離せなかったもの。それは、拷問器具の数々なのであった。

「えっ? 何をするつもりなのさ。楓雅ちゃん、ねえ楓雅ちゃん、やめてよっ」

 途中から悲鳴のようになりながらも、和輝は近付いてくる楓雅を拒絶しようとする。しかし楓雅が可憐な微笑みを浮かべるものだから、逃げ出すことは出来ないでいる。楓雅の浮かべる残虐な笑みは、他のときには見られないくらい、美しく輝いていたのだから。

 それが人を傷付ける笑みだとしても、その刃の向く先が自分だと分かっていても、後退るくらいのことしか出来ないのであった。恐怖で足は震える。目からは涙すら出ず、瞬きすることも忘れ、楓雅の笑みと手に持ったものを見比べる。そして、否定の意を込め首を横に振るのであった。

「おい豚っ! 和輝に何をするつもりだ!」

 さすがの咲希も見ていられなくて、叫ぶと林太に襲い掛かろうとする。林太に襲い掛かったところで、楓雅を止めることも出来ず、大きな腕に払われて終わりだと分かっている。だから、飛び掛かることすら出来ず、林太の前で叫ぶだけだったが。

「わしのものになると誓えるのなら、あの男は助けてやっても良い。だが、そう誓えるまでは、大人しく苦しむ姿を見ているが良いさ」

 冷静を装っていた咲希が懇願する姿に、気分を良くして林太は笑う。生意気な態度を取り続けていた彼女が、跪き自分のものとなることを想像して、更に気分を良くしたのか、下品で意地の悪い笑い声を上げた。

 咲希はそれが悔しくて、林太を睨み唇を噛む。負けず嫌いな彼女だから、悔しくて悔しくて、そんなことを誓える訳がなかった。林太に屈服する理由が和輝だということも、また咲希は悔しくて仕方がなかった。

「和輝様? 私のことを好いて下さっているのならば、逃げずに私に従って下さいませ」

 内容とはとてもそぐわない穏やかな声で、楓雅は和輝に歩み寄る。林太に命令されたからだと本人は主張するだろうけれど、彼は本当に楽しそうに、縄で和輝の体を縛り吊るし上げた。手首と足首を全て後ろで纏められ、天井から吊るし上げられているので、和輝はあまりの痛さに声も出せなかった。

「ねえ、林太様、いかがですか? 和輝様が細身であるからかもしれませんが、今回のものは成功ですね」

 天井に設置されている金属を指差して、林太にそう言う楓雅は、彼を知るものならば誰もが驚くほどに嬉々としていた。拷問室以外の場所では出来なかったことなので、林太の前でも出来るようになったのが、彼はよっぽど嬉しかったのだろう。

 しかし楓雅が笑っていようとも、和輝はそれを見て微笑む余裕などない。痛みに悶えることしか出来ないのであった。それを見ていられなくて、咲希も目を伏せてしまうのだが、林太はまっすぐ見ろと咲希の顔を固定させる。

 嫌がる咲希の顔を見て、林太は嬉しそうに笑った。苦しむ和輝の顔を見て、楓雅は幸せそうに笑った。

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