深雪の巻
暗闇の中で、少女は目を覚ました。仰向けに寝かせられて、手首と足首に硬い金属が。完全に拘束されて、彼女は全くもって身動きを取れない状態にされていた。
少女の名前は長谷川深雪。暗い焦げ茶色の髪は、真っ暗な闇の中では明るくさえ見える。普段は闇よりも黒く輝く瞳だが、今はただ黒く絶望だけを映していた。
とても質が良いとは言えない薄い布地の着物を、彼女は身に纏っている。それは変わらないのだが、冷たい地面や金属に、肌寒さを不安を危機をも感じていた。
忍びとして生きているだけあり、彼女は暗闇の中でもある程度は見える。見ようと思えば辺りの様子も見えただろうし、考えればそれなりの情報を把握することが出来たかもしれない。しかし彼女はかつて感じたことのない恐怖に、目を閉じて思考を停止させてしまっていた。
「ジュッキー」
瞳から清らかな雫を零し、口からはそう声を漏らした。そして親友であり君主である何よりも大切な存在の前に、その名を呼んでいた自分に驚愕した。そんなことを考えている場合ではないと分かっているからこそ、悲しさを感じてしまっていた。
変わってしまいそうな自分に、死神に相応しくない存在へとなってしまう自分に、悲しさを感じていた。