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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
19/85

二つの主従関係 1

 冷たい牢屋の床を撫で、和輝は一人溜め息を零していた。仲間たちがどれだけ優れているかは知っているから、すぐに救助が来てくれると、彼は無邪気にも信じていた。不安にならなかった訳ではないが、仲間のことを強く信じていた。

「和輝様、暗い顔をなさらないで下さい。さあ、林太様がお呼びですから、こちらへいらっしゃって下さいますか?」

 癒されることのない孤独の中で、沈む気持ちを励ましていた和輝に、柔らかい声が掛かった。無機質で感情の籠っていない、けれど寂しさに包まれる空間では柔らかく感じられる声。穏やかで、優しげで、悲しげで、機械的であり何も語らない声。勿論、楓雅のものである。

 暗闇の和輝は人と会うのは久々な気がしていたが、実際にはたった一日も経っていない。囚われてから一度も食事を取っていないのだが、腹が減ってきたと感じるその程度であった。

「急がないと、林太様がお怒りになります。林太様のご命令ですから、多少の強引さをお許し下さい」

 牢屋の鍵を開くと、細い腕で楓雅は和輝を抱きかかえる。そして人間とは思えないような速さで、和輝を抱いたまま走り出した。和輝はそんな状況だというのに、近付いた楓雅の端正な顔に、こすれ合う二人の服に、胸をときめかせてしまっていた。

「林太様、和輝様を連れて参りました」

 長らく暗闇に閉じ込められていた為、急に明るい場所へ連れ出されて、和輝はあまりの眩しさに目を瞑ってしまっていた。やっとその明るさにも慣れてきて、目を開いた彼は驚愕することになる。

 そこに用意されていたのは、彼にとって馴染みのないものばかりだった。ゲームや本などで見たことはあるけれど、実物は見たこともないようなものばかりであった。そこに目は釘付けになっていたけれど、漸くその周りにも目を向け、彼は更に顔を歪めることとなってしまう。

 二日ぶりに会う咲希の、豪華な衣装に包まれた美しい姿。どこか大人びているけれど、なんだか子供っぽくて、元気で優しい咲希とは別人のようであった。確かに美しいのだけれど、彼女の表情は今までに見たことがないほどに暗く沈んでいた。

 その表情もまた、美しさを感じさせる材料になる。普段と違う姿に美を感じ、和輝は少し照れてしまいそうになるけれど、そんな場合ではないことくらいはいくら彼でも分かった。そして彼女には笑顔が似合うのだと思い直す。

 彼女の隣にいるのは、太り気味の男性だ。和輝は彼のことを見たことがなかったのだが、すぐにその男が林太であるのだと気が付いた。以前、咲希から聞いた太ったという情報から。今、咲希が向けている腹立たしげな視線から。丁寧に自分を下ろした楓雅が、即座に彼の元へ駆け寄り、自然と彼の太い腕の中に収まったことから。

 様々なことが、いかにこの男が傲慢であるかを感じさせる。平等な愛を謳う和輝も、林太のことが少し憎く思えるようだった。平気な顔で多くの人を傷付けてきたということが、何を聞かずとも分かったから、少しだけ憎みたくもなる。

「いつまでわしに逆らっていられるだろうか。ふん、楽しみだなぁ。精々、楽しませてくれよ」

 咲希と和輝に性格の悪い笑みを向けると、林太は腕に抱く楓雅に暴力的な接吻を落とすのであった。

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