安心の眠り
倒れそうになるけれど、日良は歩いた。自分を救ってくれる人を、そして何よりも、野乃花を救ってくれる人を求めて。細い脚は折れてしまいそうなくらいに、震えを繰り返しているのだけれど、日良はそれでも歩いた。距離など、ろくに進めてもいないのに。
「あっ、日良様! 良かった、良かったぁ。ご無事だったんですね。あぁ、日良様ぁ」
ヨロヨロと歩く日良が最初に会ったのは、饅頭を食べ歩く海人であった。心配な心に押し潰されそうで、苦しくて……。糖分補給という名目で、海人は甘いものを食べ続けていたところなのだ。
しかし日良の無事を確かめたところで、一つ安心したらしい。彼は頬を喜びに綻ばせ、嬉しそうな表情で彼に饅頭を差し出した。食欲よりも先に、日良の飢えを満たさなければいけないのだと、本能的に意識せずして彼は差し出していた。
「ありがとうございます。気持ちは嬉しいのですが、私はそれを受け取れません。野乃花に差し上げて下さい」
受け取らないという姿勢を貫こうとする日良に、海人は無理矢理押し付けた。というよりも、日良の口を開かせ、そこに押し込んだのであった。そして少し強引だとは思いつつも、食べさせると海人は一生懸命に走り出す。
「急いで二人分の食事を用意して! 日良様のお部屋へと、早く運んでっ!」
いつも呑気に微笑む優しい海人だから、そんな彼が走ってきて、声を荒げている姿には誰も驚きを隠せない。その理由が言葉からすぐに知れたので、当然手際良く指示通りの行動を取る。
完成して十分な食事が運ばれたことを確認すると、急に疲れが襲ってきたようで、海人はその場に倒れてしまった。どうしたら皆を救えるのか。頭を悩ませ続けた彼は、一先ず日良と野乃花が救われた安心感で、急激な睡魔に襲われて眠りについてしまった。
「海人にも、迷惑を掛けてしまいましたね。感謝します。ここでは目覚めたときに体が痛むでしょうから、布団を敷いて、部屋で寝かせて差し上げなさい」
食事を終えた日良が海人のその姿に気が付くと、優しく声を掛けてあげる。そう言う彼の方も疲れていたはずなのだが、海人と野乃花を労った後、部屋に戻ると死んだように眠りについた。今度は、ちゃんと数時間後には目覚める眠りに。




