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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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表面の笑み

「深雪様、殿がお呼びでございます」

 状況を飲み込もうともせず、ただ呆然としていた深雪の元に、そんな声があった。動くことさえ許されないような状態だから、苦しそうに呻きながらも、深雪は目線だけそちらに向ける。

「あ、ありがとね」

 彼女の動きを縛っていた鎖を解かれ、久しぶりに動くことを許された体でちょっとした準備運動をすると、深雪は軽くお礼を言う。そうして優しい微笑みを貼り付けると、浮かべている深刻な表情を完全に隠した。固まらせていた思考を、漸く巡らせ始めた。

「死神、よく来たな。ふん、わしの手に掛かればこんなものよ」

 どうしてこんなことになってしまったのか。考え込む深雪は、そのまま林太の元へと連れて行かれた。どっしりと椅子に腰掛けて、林太は腕を組みほくそ笑んでいる。その言葉から、その動作から、その言動から、どれほど彼が深雪に悔しさを抱いていたのかが、誰の目にも明らかになった。

 しかし、それさえも林太は気にしない。というよりも、咲希を自らのものとしたその喜びが、未だに彼の中を満たしているとしか言いようがなかった。周りの視線も、深雪のことも対して気にならないようだった。

「そうだね。ジュッキーのせいにしてもいけない、認めるよ。この深雪が捕らえられるなんてありえないって、調子に乗ってたかも」

「……さすがは死神。よくわかっておる」

 かなり上機嫌だったようだが、さして危機感さえ感じていないような深雪の言葉に、林太は少し不機嫌になる。ただ一度とはいえ、深雪は風雅を破り林太の元からまんまと書類を盗み込んだ実績がある。そして林太はそれを悔しがっていたのだから、深雪にも同じように悔しがって欲しかったのだ。

「まあ、いつまでそんな平然とした顔をしていられることか。守り続けてきた愛しい咲希様も、今はわしの手にあるのだ」

 林太は意地悪く笑う。その笑みに顔を青くするかと思えば、一方の深雪は揺るがない微笑みを浮かべていた。彼女の余裕を、林太が望まないと知っているから……。

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