余裕の笑み
「咲希様、殿がお呼びでございます」
状況を飲み込めずに、ただ不安そうにしていた咲希の元に、そんな声があった。起き上がることさえままならないような状態だから、苦しそうにしながらも、咲希は顔だけそちらに向ける。
「ああ、ありがとう」
彼女の動きを縛っていた鎖を解かれ、自由になった足に少しの安心感を覚えながらも咲希はお礼を言う。そうして一瞬だけ優しい微笑みを浮かべると、その顔はまた深刻な表情に戻された。固まっていた思考を、漸く巡らせ始めた。
「藤原咲希、やっと手に入れたぞ。やっとこのわしの手にっ!」
どうしてこんなことになってしまったのか。考え込む咲希は、そのまま林太の元へと連れて行かれた。どっしりと椅子に腰掛けて、林太は両手を広げ口元に笑みを浮かべる。その言葉から、その動作から、その言動から、どれほど彼が咲希を欲していたのかが誰の目からも明らかになった。
しかし、それさえも林太は気にしない。いつもは不機嫌そうにして、自分以外の為に何をすることもないと思われていた林太。今回咲希を強請ったことだって、新しい玩具が欲しかっただけだと思われていたからこそ、その喜びようには誰も驚愕した。
「五月蝿い。なぜお前みたいな豚が、この私を手に出来ると思ったんだよ、バーカ! 調子に乗るな、豚」
「んだとっ!」
かなり上機嫌だったようだが、恐れを知らない咲希の言葉に、林太はすぐに顔を赤くさせる。それとは対照的に、周りにいた誰もが顔を青くさせた。ただ、林太だってそこまで馬鹿じゃない。嘲笑うような咲希の表情を見て、冷静に戻って席に深く座り直した。
「まあ、そう言っていられるのも今のうちだろう。咲希が逆らうことにより、大切なお仲間たちはどうなると思う? そのこともよく考えておくと良い」
林太は意地悪く笑う。その笑みに腹を立てるかと思えば、一方の咲希も似たような表情を浮かべていた。彼女の余裕を、林太が好まないと知っているから……。




