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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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置き去り

「なんなのよ。あいつら、あたしから逃げたっていうの?」

 城に泊めた筈の二人がいなくなっていることに気付き、玲奈は不満気に零す。夜のうちに逃げられたのではないかと、彼女は腹を立てた。

「深雪、あいつの仕業ね。悔しいけれど、彼女の忍びとしての力は認めざるを得ないわ」

 二人がいなくなっていることを知り、玲奈は酷く不機嫌だった。逃げられた悔しさ、彼女も周りの人々も、そのせいで不機嫌なのだと思っていた。玲奈の中にある気持ちに、誰も気付いてはいないのであった。

 信じて貰えなかった、寂しさ。去ってしまった、寂しさ。もう敵同士に戻ってしまう、寂しさ。突き放してしまった、寂しさ。心の中に溢れている、寂しいという感情に気付くことはないのであった。

 美味しい食事を取れば、いつもは機嫌を直してしまう。しかし玲奈は不機嫌なままで、仕事にも手を付けないといった様子だった。本当の気持ちを全て掻き消して、悔しさに玲奈は叫ぶ。

「もうっ! どこに行ったのよ! 帰るんだったら、一言そう言ってくれても良くない?! あたしが用意した部屋に不満があったっての?! たった一晩すら、あたしのところにいるのは嫌だったっての?!」

 怒りや悔しさのものだったが、途中からは悲痛の叫びにも近かった。誰もに好かれ誰もに崇められる、そんな風に生きてきた玲奈だからこそ、寂しくて――。全てを怒りに任せて、吐き散らすことしか出来なかった。

「まさか、そのようなことがあるとでも本気でお思いなのですか? 玲奈様がご用意して下さったものに、不満があるものなどいましょうか。玲奈様の元にいられることを、嫌がるものなどいましょうか」

 玲奈の怒りを鎮める手段を、誰も持っていなかった。確かに怒りっぽい玲奈だが、ここまで激しく怒り散らすことは始めただったからである。

 あまりに玲奈の様子がおかしいので、代表として幸久が彼女を宥めに向かった。自信家な彼女のネガティブ発言に、心配そうにしながらも熱く語る。本当に玲奈のことが大好きだし、言葉にする全てが本当のことだったから、玲奈に自信を取り戻させようとするように自信を持って語った。


 軽率なその行為が、反対に玲奈を傷付けてしまうとは思いもせずに。


「嫌じゃないなら、どうしていなくなったりしたのよ……」

 小さく呟いた玲奈のその声は、あまりに悲しげだった。

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