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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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扉を開けて

「日良様、元気を出して下さい。日良様は悪くありませんから、気に病む必要などございません」

 引き籠ってしまった主人の部屋の戸を叩き、野乃花は必死に呼び掛けた。先日から一歩も部屋を出てきていない。食事も取らないのだから、このままでは死んでしまうと、野乃花は必死であった。それでも、部屋の鍵が開く気配はない。

 いっそのこと、扉を破壊してでも、そんなことを思ったがすぐに考え直す。日良に従順な野乃花に、そんなことが出来る訳もなかった。日良の命令とは違う行動、彼女は取る訳に行かなかった。

 それに、彼女は日良の意思で部屋を出て来ない限り、出て来ても日良は食事を摂ることなどしないと思っていたから。

「そこにいらっしゃるのですよね? 日良様、日良様? 日良様! せめて、返事だけでもなさって下さい」

 こんな状況じゃ、野乃花だって仕事も手に付かない。遂には心配で心配で、野乃花は日良の部屋の前、一晩中日良が出てくるのを待ち続けていた。それからまた太陽が昇り、今はもう昼過ぎである。


 原因が梓の報告であることは分かっていた。彼女が何を報告したのかまでは、さすがの野乃花だって知らない。しかし、報告を受けた日良の顔を見れば、それが良い報告でなかったことは容易に分かる。日良は、酷くショックを受けた様子で、自室へと去っていった。

 そのときは、夕飯の頃には出てくるだろうと思っていたのだ。だがそんな野乃花の予想とは反して、日良は一向に部屋から出てくる気配を見せない。そのまま時間は流れて、丸一日が過ぎようとしているという訳だった。

 こうしていれば、そのうち野乃花だって飢えて死んでしまうだろう。それでも、彼女は彼女で、日良様と一緒じゃなきゃ食事は摂らない、と頑なに食事を拒んできた。もう空腹も眠気も限界なのに、野乃花は日良の名前を呼び続けた。


 日良に心から仕える、野乃花だからこその行動だった。

 日良以外には仕えまいとする、野乃花だからこその選択だった。

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