咲希の巻
暗闇の中で、少女は目を覚ました。立ち上がって暗闇を歩き出そうとすると、彼女はやっと自分の左足が何かに繋がれていると気が付いた。それは冷たく硬い金属で、すぐに自分がどのような状況にあるのかを理解した。
少女の名前は藤原咲希。膝上くらいまで真っ直ぐと伸びた髪も、吸い込まれそうなほど綺麗な瞳も、暗闇よりも深い漆黒。人形以上に整っている美形の顔には、まだあどけなさを残している。
身に纏っている衣装は、華やかさなど欠片もない、質素で地味な着物であった。彼女が眠りに付いたときにはその筈だったのだが、今の彼女が纏っているものは違っていた。ベースは黒だが黄金の蝶が輝いて、煌びやかな印象を与えるような衣装である。
暗闇に目が慣れてはきたけれど、どのような服を着ているかまでは分からない彼女。しかし自分が着ていた筈の服ではないことは、見えなくても分かった。今まで着ていた服のどれよりも、触り心地が最高に良かったからだ。
「和輝」
募る不安のあまり、彼女はその名を呼んでいた。そして信頼出来る忠臣の前に、その名を呼んでいた自分に驚愕を覚えていた。そんなことを考えている場合ではないと分かっていても、照れ臭さを感じてしまっていた。
変わってしまった自分に、姫らしくなってきている自分に、照れ臭さを感じていた。