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近未来都市の代償  作者: 求めるS
1/3

リルド


何もかも手に入れた時

求めるものが無くなった時

その時人は本当に幸せと思えるのだろうか。

「ー姉ぇちゃん、ここの外から来たってのかい?」


50代前半だろうか。

口ひげを少しはやし、白髪混じりのおじさんが

車のミラー越しにチラッと私を見る。



「ええ。多分。ここは・・・えっと、なんて所だったかしら。」



「¨リルド都市¨さ。」


「リルド・・・」


「しっかし、行くあても無くとにかく乗せてくれなんて

こんなお客さん初めてだよ。」


「・・・それでも乗せてくれるなんて・・・

おじさん変わってる」



「別に、俺も暇だったからな。

今やタクシー使うやつなんざ極僅か。

声をかけられるのなんて数ヶ月ぶりだったから嬉しくて。


ーあぁ、ホント数年前は良かったなぁ。

いきなりだもんなぁ。


あの頃はこんなにデケェ建もんも無かったし、

タクシーもまだ需要があった。

変な機械もなかった。

変わっちまったよ。まさに未来都市、だけど

ここまできちゃあなぁ」



窓から外を見てみると、

銀はもちろん、ピンク色高層ビルや、

黒く長細い大きな棒が立ち並んでいて、

上を見上げてみても、車からでは見上げきれないくらい

今にも天に届きそうなくらいの建物ばかりだ。




「でもそれなら何故まだタクシーに乗ってるの?」



「それはもちろん、この仕事が好きだからさ。

今は需要も少ないし、乗る人が少ないけど、

人によって行きたい場所が違うだろ?

こうやって話もできるしな」



「なるほどね」



「まぁあんたは変わってるけどな

大体みんな乗る時は行き先が決まってるモンだ。

それが無くて乗るなんてナァ・・・


・・ー行くアテがないなら、俺が1番好きな場所に

連れて行ってやるよ。


俺が好きな場所のひとつさ。」



おじさんはそう言うと、

中心部から離れて、左、右とくねくねしながら

その場所まで走った。


程なくして、車が止まった。

20分ほど走っただろうか。


「ほら、ここだよ。」


おじさんはそういうと、運転席の方から

あれは、商店街だろうか?ピッと指を指した。



遠目からでも雰囲気が少し分かる。

先ほどの都市とは打って変わって、

レトロな雰囲気をかもしだしていた。



「あそこはなぁ、俺みたいな古い奴の溜まり場さ。

昔俺が働いてた食いもん屋もあそこにある。

すげぇ美味い蕎麦があるんだよ。

嬢ちゃんも食ってきてみな。ほら、これ。」



そういっておじさんは、ポケットの中から

くしゃっとなった千円札を私に渡した。


「そ、そんな!受け取れないですよ!」


私が千円を返そうとすると、

「いいんだよ、何があったかしらんが、疲れてるようだし、

俺はこの車に乗ってきてくれた事を嬉しく思ってる。

美味いモン食って元気だしな。んで、

行きたい場所が見つかったらまた乗っけてやる。」



おじさんはニカッと笑うと、

後部座席のドアを促すように開けた。



「あ、ありがとうございます。」


私はおじさんにお礼を言って、

車を降りた。


「じゃーな」とおじさんは言うと、

そのまま真っ直ぐに走り去って言った。



私はおじさんの車が見えなくなるまで

見送った。







周りはどこも

まるで捨てられたモノのように、

廃れた建物でいっぱいだった。


廃れた建物に挟まれるようにして

その商店街はあった。まるでトンネルだ。


あたりを林で囲まれ、

薄暗い灯りで、まるで出口はここのみと、

人を誘い込むトンネル。



行く宛も無い私、どこでどうなろうと関係ないが、

あのおじさんが美味いと言った蕎麦が

どうしても気になって。


私はその薄暗いトンネルへと

1歩、また1歩と足を進めた。


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