案内人
「………………えっ!?」
ここはどこでしょう。
私は夏休み課題をやっていて、………あれ?記憶がない。いつの間にか眠ってしまっていたのかな?
空から色とりどりの星が吊り下げられていて淡く輝いている。月は見当たらないけど夜のようだ。
私の周りは何もないさら地。強いて言えば地面はコンクリートで四角い白線が沢山引いてある。多分駐車場だ。車は一台もないし、コンクリートは小さな子供が描いたような落書きばっかりだけど。チューリップとか動物とか微笑ましい。私もよくお兄ちゃんと描いていたなあ。
私は今遠くに見える高い建物を正面に立っている。左方向には木々が沢山生えている。その反対、私の右手側から正面にかけてには巨大なショッピングモール。その向こうにこの辺で一番高い塔のような建物のてっぺん付近が見えるわけだ。
でもこんなところ私の住む街になかった気がする。ううん、もう空の星が点々として見えるわけじゃなくて星形に見える時点でおかしいんだ。
「……夢か!あはは」
笑っている場合じゃなかった。
頬をつねっても一向に夢が覚める様子はない。
どうしたらいいのかわからずきょろきょろしているとショッピングモールの入り口で誰かがこちらに向かって手を振っているのが見えた。遠目でよくわからないけど露出の多い派手な赤のドレスを身にまとっている。
いつもならあまり関わりたくない人だけど他に人はいない様子だし行ってみよう。
と言っても私とその人との距離は結構あって、たどり着く頃には私は肩で呼吸していた。
「来てくれてありがとう。アナタ体力ないのねえ」
艷やかで聞き取りやすい声をした女性は奇抜な姿をしていた。
右目は前髪で隠していて見えない。顔の左半分はモノクロの仮面で覆われている。ふっくらした唇は血を塗ったような紅。白いメッシュの入った黒髪は後ろで盛ってタワーみたいになっている。手袋した手で持っている傘はレースが沢山付いているし、露出が多い赤いドレスから覗く引き締まった足は病的に白い。
まとめると人間じゃないみたい。
そう思ったのが顔に出ていたのか彼女は唇を弧の形にした。
「そんなに警戒しなくてもダイジョウブよ、オサカナのお嬢さん。いいえ、社小毬。取って食ったりしないわ。ワタクシたちはアナタたちに干渉できないから…ウフフフフ」
さ、魚??そう言われて私は一気に困惑した。
私って魚顔だったりするのかな!?そんなこと一度も言われたことなかったよ!目が大きくて背は小さくて可愛いとはよく言われたけど魚みたいって意味だったの!?それとも魚臭い!?お夕飯はハンバーグだったよ!
制服の袖の匂いを嗅いでみるけどそんな匂いしない。
「ウフフ、そんな意味で言ったわけじゃないわ。アナタは子リスみたいに可愛いわよ」
「そっ、そうなら、よかったです!」
長身の彼女を見上げると、彼女は微笑みながらぱっと傘を広げた。
「ワタクシははハートの女王と呼ばれている、この世界の案内人の一人よ」
聞いたことある。不思議の国のアリスに出てくるキャラクターだ。
というか夢に案内人とかいるんだ。
「あの、訊きたいことが沢山あるんですけど…」
「ウフフ、よくってよ。訊かずともワタクシが一から説明して差し上げる。案内人ですもの」
そう言って彼女は腰を屈め私と同じ目線になってから語り始めた。