はじめのよる2
「えー。夏季休業期間はー、くれぐれも事件に巻き込まれないようにー」
マイクから響く校長の声はいつもより間延びしていてこれから始まる夏休みに抗っているようだ。全校生徒が集められた体育館はむさ苦しく座らされている生徒たちはうつむき気だるげ。はやく夏休みが始まらないかとうずうずしている生徒もいる。
かく言う俺,胡月紡もそわそわしている。
このクソ暑い体育館での終業式が終わったら夏休みだ。成績不良の補習もないし、あいにく部活にも入っていないので期間中は自由の身。これから始まる自由時間を考えれば少しくらい校長の話が長くても許せてしまう。課題は発表された時からコツコツと取り組み九割終わっている。抜かりない俺のサマータイム。
友達と海、プールもいい。遊園地でもいいな。彼女でもいればよかったのだが夏を待たずして別れてしまった。
そんなことを考えていると時は過ぎ去り放課後。俺は教室に置いていた私物片手に帰宅途中だった。
これからの予定を友人と話していたらすっかり日は暮れ、午後七時をとっくに過ぎていた。一人暮らしなので帰りが遅くても怒鳴られることなどはないが、夕食を用意しないといけなと考えると億劫である。
コンビニでも寄るか…?しかし手荷物が邪魔だな、そう思考をめぐらせているとちょうど通りかかった公園のブランコに何かがいるのが見えた。
「…………?」
薄暗いので目を凝らしてみるとそれは子供のようだった。うつむいていて、鼻をすする音が聞こえる。
あれ。これはデジャヴか。どこかで見たことあるような光景だ。でもいつどこで見たか思い出せない。
こんな時間に小さな子ども一人で危ないだろう。そう思って声をかけようとした瞬間…、
何の前触れもなくその子は夜の闇にとけていった。