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第7話:暗雲 パワーオブパワー

 星は毎日早起きするよう心がけている。今日は生徒会の仕事は無かったのだが、日直の仕事があった。チョークの補充や花瓶の水を入れ替えたり、色々とやらなければならない。

もう一人の登板の子に教室での仕事を任せるとチョークを取りに移動する。今日は珍しく弓子も用があるからと側にいない。いつも一緒にいたから、たまにいなくなると奇妙な感覚に囚われる。

もっとも昼には合流するから心配はない、いつも通り過ごせばそれでいい。


 そう思っていた星だが、いつもと違う事が起こり足を止めた。吹奏楽部も合唱部も朝練の無い時期だというのに、どこからかバイオリンの音が聞こえてくる。

朝から許可なく騒音を鳴らす生徒がいるのかと、星は溜息を吐くと無視して去ろうとした。だが、教室へと向かって足を進める度に音が段々大きくなってくる。最初は無視しようと思ったのだが、こうも道の途中に原因があると分かってしまうと構わずにはいられなかった。

文句がある訳ではないのだが、このまま答えを知らずに過ぎ去る事は気分が良くないのでしたくなかった。


 バイオリンの音が聞こえる教室を突き止めると、星は足を止めてプレートを確認した。そこは空き教室で、立ち入り禁止のはずの部屋だった。

今部屋にいる人が犯人かは分からないが、誰かが鍵を開けて入れるようにしたのだろう。それも後でどうにかしなければと思いつつ、星は扉を開けて教室の中に足を踏み入れた。

部屋の中でバイオリンを演奏している人物を見て、星は思わず口を開けて呆然としてしまった。



 音羽は来訪者に気づいてはいたのだが、途中で演奏を止めるのはあまり好きではなかったので曲が終わるまで続ける事にしていた。

星は自分が見ている光景が信じられなくて、暫く思考を止めてしまっていた。だって、星にとって魔法音羽という人物はおおよそバイオリンとは結びつかないからだ。

彼女の事は殆ど知らないのだが、星から見た音羽の印象とは多くの女子に声を掛けては玉砕する軽い人だった。その上成績も芳しくなく、努力しているという話も聞かない。


 この手の遊び人が嫌いな星からしたら、音羽はまさに苦手な人だった。

そんな音羽がバイオリンを持ってしかも演奏しているというのはにわかには信じられない事実だった。

彼女の家は実は裕福だったりするのだろうか。だとしたらせめてバイオリンを教える前にもう少し勉強を頑張らせて欲しいとか、色々な事を考えていると演奏が終わって音羽が目を開けた。

音羽はバイオリンを持ったまま照れくさそうに笑いながら星に尋ねる。


「どうでしたか、御言園先輩。私の演奏」

「……あ、ごめんなさい。ちょっと考え事していてあまり聞いてなかったの」

「えー!」


 音羽は深く肩を落とすとがっかりして落ち込んだ。せっかく星が来たからと張り切って演奏を続けたというのに、当の本人が聞いていなかったとは。

音の感じから星が来たのだと感じて、ドキドキしながら演奏をしたというのにその気持ちが全く伝わっていなかったと知って、音羽のショックは相当大きくなる。だがこの程度で諦めはしない。

むしろ改めてやる気が満ち溢れてくる。絶対虜にしてみせると音羽は誓うのだった。



「魔法さんはどなたにバイオリンを習ったの?」

「お母さんです。今でも別の世界でバイオリニストとしてツアーコンサートをやってるんですよ、私のお母さん」

「そう。趣味があるのはいい事だから続けられるといいわね」


 もしかしたら初めて星と雑談が出来ているのではないだろうか。今までずっと弓子に阻まれて追い返されていたし、弓子がいない時も星は音羽とは関わろうとせずに立ち去ってしまう事が多かった。

だからこうして会話が出来るのは本当に嬉しかった。今ほど嬉しい事は中々無い。音羽はこの時間がずっと続けばいいと思っていたが、星は適当な所で話を切り上げて去ろうとする。

そろそろ教室に帰らなければいけない。やるべき仕事がまだ残っているのだから。


 残念そうな顔をした音羽を見て、星は呆れながら注意する。


「魔法さん、遅刻する前に教室へ行く事。あと無断で空き教室へ立ち入らないように」

「はい……」


 また会いましょうとか言ってくれると期待していたら、残念な事に注意を受けるだけで終わってしまった。

やっぱりちょっと嫌われているのかな、と音羽は落ち込むのだった。






「はいはいはい! 創刊号、もとい記念すべき第一特集はスペイジョンとウィクターについて調べるのがいいっス!!」


 サスケは大声で騒ぎ立てた。皆は耳を塞いで我慢して、サスケが喋り終えるのを待つ。

新聞部の皆で最初の記事は何について調べようか皆で意見を出し合う事になったのだが、真っ先にサスケが自分の希望を捲し立てたのだ。

サスケほどではないが、ヨウとスイコもこの意見に賛成らしい。二人とも最近スペイジョンとウィクターについて興味が出てきたらしく、乗り気なようだ。


 ある程度予想できた事だが、いざなってみると頭を悩ませる事態だ。ジュンはこそこそと音羽に耳打ちする。


「で、どうするんだ。このまま調べさせていいのか?」

「嫌だけど……いい断り方が思いつかないんだもん」

「そうだな。下手に却下すれば逆に疑われそうだしな……」


 いまやスペイジョンの脅威とウィクターの活躍は誰もが注目している出来事だ。それを調べたいと思うのは当然だろう。

となれば断る理由が無い。皆が知りたがっている事を調べないようにするというのは、どう考えても不自然だ。

できる限りウィクターの正体を探らない方向に誘導すれば大丈夫だろうと判断し、ジュンはホワイトボードに大きく見出しを書き出す。


「よし、じゃあスペイジョンとウィクターについての特集に決定だ。何かいい資料があればいいんだが……誰か心当たりは無いか?」


 ジュンは皆に資料のありかを尋ねた。実際に記事にしようと思うなら、それなりに信憑性のあるデータが必要だ。サスケなら普段から取材して回っていそうだが、それだけに頼る訳にはいかない。

全員が困って黙り込んでいると、スイコが何か思い出したのか顔を上げてジュンに提案した。


「生徒会の友達から聞いた事があるんだけど、生徒会室にはスペイジョンに関する資料がいくつか揃えられてるって聞いた事があるわ」

「……生徒会室に?」


 ヨウが不思議に思って首を傾げたのだが、それは他の皆も同じだった。どうして生徒会がそんな資料を集めているのか検討がつかない。

何はともあれ、そんな身近に資料があるなら、是非一度調べなければ。そう思ったジュンは皆に席を立つように言うと取材に出かける事に決めた。


「よし、じゃあ生徒会室の鍵は三年の主任の先生が持ってたはずだから、お願いしに行こう」

「おー!」


 新聞部のメンバーは手を挙げて了解した。なんだか本格的に新聞部らしくなってきたと、音羽は胸を躍らせる。それは他の皆も同じで、どこか顔が緩んでいる気がする。

全員で部室である準備室を出ると職員室へ向かって足を運ぶのだった。






「失礼します」


 扉をノックすると、ジュン達は扉を開けて職員室へと足を踏み入れた。全員で押しかけても迷惑だろうから、サスケとヨウを外で待機させて三人だけで先生の元へ向かう。

そこには先生の隣に星も立っていて、二人で何かを話している最中だった。先生は何の用で来たのかとジュンに尋ねた。


「どうしたんだい赤川君。何か用か?」

「はい、生徒会室にスペイジョンに関する資料があると聞いたのですが……」

「そりゃ、まぁあるが……」


 先生は星と目を合わせると戸惑いながらもジュンの発言を肯定した。どうしてそんな事を聞くのか不思議なのだろう。

その疑問を星が代わりに尋ねる。


「どうしてそんな資料の事を気にするのかしら?」

「新聞部の特集で、スペイジョンについて調べる事になったんです。その為に資料を探していて……」

「ああ、部活動の一環か。そういう事なら構わないよ。但し外に持ち出さないように、見るだけだよ」


 先生はジュン達が興味本位でなく部の活動として動いていると分かると、資料を見る許可を出してくれた。

ジュンは先生にお礼を言うと鍵を受け取った。そのまま引き返そうとしたところで、スイコは星が自分達を渋い顔で見つめている事に気が付いた。気になって尋ねてみる。


「どうかしたの?」

「……あまり感心しないわね。人の命を奪っている怪物について、興味本位で動くのは」

「え?」


 星が厳しい事を言うのには音羽は慣れていたのだが、ここまできつい口調で言われるのは初めてだったかもしれない。先生やスイコも一体急にどうしたのかと星を見つめる。

音羽はこの雰囲気をどうにかしようと思ったのだが、その瞬間高く響き渡る音を聞いて動きを止めた。

胸が高鳴って熱くなり、同時に襲い掛かる心がざわつくような焦燥感……間違い無い、スペイジョンが現れたという知らせだ。


 音羽はジュンに話しかけるとその場を走り去った。


「ジュン先輩、私ちょっと行って来ます!」

「あ……ああ、行ってこい」


 ジュンは少し驚いたが、すぐにスペイジョンと戦いに行くのだと察して見送った。

突然走り去って行ってしまった音羽に、周囲の人達は呆然とする。


「ねぇ、音羽ちゃん一体どうしたの?」

「え、いや……トイレだろ多分」

「トイレなら、そんなに急がなくても反対側にあったと思うんだけど……」


 スイコが音羽が進んだ方向と逆を指差した。確かに音羽は部屋を出て右へ走っていったが、すぐ左側にトイレがあるのだ。これは明らかにおかしい。

ジユンは咄嗟に言い訳をして誤魔化そうとする。


「忘れてたんだろ、あいつ馬鹿だから」

「……まぁ、音羽ちゃんだものね」

「まあ魔法だからなぁ」


 スイコだけでなく先生までもが納得してしまった。誤魔化すのが簡単すぎるというか、あまりにも酷い扱いにジュンは複雑な思いに駆られた。






 音羽は玄関で靴を履き替えると校舎から出て裏側へ回る為に走り続ける。


「音羽、この反応……」

「うん、近い。裏側にいる!」


 スペイジョンの反応が相当近くまで来ている。恐らくこの周辺で突然生まれたのだろう。裏の森辺りにいるはずだと思って探索していると、大きな音がして地面が震える。

何事かと思って音がした方へ近づくと、そこにはサイの姿をした怪人と倒された木があった。木は地面から1メートル程で折られて倒されている。この怪人が暴れて倒した物だろう。

音羽はレッドバットを自分の元へと呼びつける。


「レッドバット!」

「ぶっ倒してやろうぜ! リチュアル!」


 レッドバットが左手の魔石に噛み付くと音が響き渡って変身の準備が整う。

音羽はレッドバットをベルトに装着して、止まり木に止まらせる。


「変身」


 音羽の体が光に包まれ、それを振り払うと同時に姿がウィクターへと変わる。

音羽は腰を落として構えると怪人と睨み合う。怪人は余裕があるのか胸を張ったまま動かず、不敵に笑ってみせる。挑発に乗る訳ではないが、睨み合いしているだけでは始まらない。

怪人に向かって駆け出し、先に攻撃を仕掛ける。


「ハァッ!」


 音羽は地面を蹴ってジャンプすると空中から怪人に殴りかかる。その拳は怪人の肩に命中するがびくともしない。続けて何度か殴るが怪人は動じず、逆に音羽に殴りかかる。

両手でガードをして防ぐものの、あまりの力強さに押されてふらついてしまった。そこへ怪人はタックルをかまして音羽を吹っ飛ばした。音羽の体は木に叩きつけられて地面へと落下する。

音羽はなんとか起き上がると今度は空中からキックを叩き込もうと正面から足を突き出す。怪人はキックを両手で上へ弾くと、攻撃を崩されて無防備な音羽をまたタックルで吹っ飛ばした。


 何度か喰らうと痛みで動きが鈍り始める。このままでは埒が明かないと思った音羽はベルトからホイストーンを取り出してレッドバットに咥えさせる。


「サーペントストーン!」


 周囲に緑色の光が広がると同時に海ヘビ型のモンスターがエネルギーとなって音羽の体に乗り移る。

グリーンサーペントフォームへとフォームチェンジした音羽は右手にサーペントシューターを掴むと怪人へ向かって発砲した。


「はぁっ、はぁっ、やっ!」


 何度もトリガーを引いて射撃するが、怪人は身を固めて射撃を防ぐ。怪人の屈強なボディに、サーペントシューターの水弾は効果が薄いようだ。

音羽は顔をしかめて射撃を続けるが、やはり効かない。


「グッフッフッ」


 怪人は余裕の笑みを浮かべて嘲笑うと、地面を強く踏みしめた。その瞬間、一瞬だが強烈な重力が発生して音羽の体は地面へと叩きつけられる。

怪人の特殊能力だろう。重力によっと倒れた所へ、怪人はまた得意のタックルを仕掛ける。音羽はそれを間一髪で回避する。そして続けてタックルを仕掛けてきた怪人に射撃を喰らわせるが、怪人の勢いは止まらない。

勢いが衰えないまま強烈なタックルを受け、鋭いツノが音羽の胸に直撃してしまう。激しい火花を散らしながら音羽の体は宙に浮いて、勢いよく吹っ飛ばされてしまうのだった。


「うわあぁぁ!」

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