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第10話:連弾 エンブルスファイト

 青空はトリガーを引いて銃弾を連射した。逃げる怪人を追って銃弾の嵐が火花を散らしながら地面を走っていく。怪人は走りながら音羽に近づくと、盾として利用する為に音羽を突き飛ばして自分の代わりに銃弾を浴びせた。


「グワァッ!」

「……あっ」


 銃弾が音羽に当たる事で火花が散って同時に煙が広がる。その煙が晴れた頃には、怪人の姿は跡形もなく消えていた。恐らく隙を見て飛んでいってしまったのだろう。

最後に怪人がいた音羽の背後まで駆け寄るが、辺りを見回しても怪人はもういない。青空は溜息を吐くと音羽を見下ろして小声で話し掛ける。


「貴女のせいで逃げられたんですけど……先輩」

「……えっ」


 音羽は普通に自分に話し掛けて来た青空に困惑して言葉に詰まる。しかも、彼女は今何と言った?

聞き間違いで無ければ先輩と言ったはずだ。まさか、彼女はウィクターの正体を知っているのだろうか。確かめようにも、近くに皆がいるからペラペラ喋り続ける訳にもいかない。

音羽はひとまずこの場を離れる事にして、店の裏側へと逃げ出した。


 それを見届けると、青空は変身を解除して自分の髪を弄り始めた。

様子を伺っていたジュン達は、怪人が去った事を確認すると青空に近づいた。ジュンは青空に詳しい事を聞くために話し掛ける。


「真白……お前は一体何者なんだ」

「別に話してもいいですけど、いいんですか? まだ来てないじゃないですか……魔法先輩」

「お前……」


 意味ありげに音羽の事を口にする青空に、ジュンは固唾を呑んで硬直する。この少女は一体どこまで知っているのだろう。

訳が分からないサスケ達は、困惑しながらこの様子を見守る事しか出来なかった。






 最初に集まる予定だったファミレスは、スペイジョンが現れた騒動ですぐには営業を再開出来そうに無かった。皆でご飯を食べるという空気でもなくなった為、近くの喫茶店に寄る事になった。

皆と合流した音羽は、どこに居たのかと聞かれて適当に誤魔化す事にした。その間も、青空の事が気になって仕方なかった。


 一体彼女は何者なのだろう。そんな疑問を抱きながら、店に到着した音羽は皆と一緒に席に座った。

音羽と青空が向かい合う様に座って、音羽の隣にジュンとヨウ、青空の隣にスイコとサスケが座る。

それぞれが飲み物を注文し終えると、ようやく落ち着いて話が出来るようになった。まずは一番気になっていた事をジュンが質問する。


「真白、お前が変身したアレは一体なんだ?」

「エンブルス。私の家が作った対スペイジョンを想定した戦闘システムです」


 青空はその質問にあっさりと答えた。その内容に、ジュンはすぐには信じられなかった。

スペイジョンと対等にやりあえる武装を作るなど、そんな簡単には出来ないはずだ。だが、ヨウは何か心当たりがあるのか、青空に尋ねた。


「真白、お前はまさかマイエンスの出身なのか」

「はい」


 マイエンス。それはマジングと違い魔法よりも科学が発達した世界だ。マジングがここまで豊かになったのはマイエンスの科学技術を教えられたおかげであり、マイエンスもマジングの魔法を取り入れることでより画期的な発明が生まれるようになった。

だが、いくら科学が発達した世界といえどスペイジョンを倒す兵器はそう簡単には作れないはずだ。


 スペイジョンには通常兵器の類は通用しない。何かしら魔力を使わなければ攻撃が届かないのだ。

だからマイエンスといえどもそう簡単にスペイジョンは倒せないはずだ。ジュンはそう考えたが、ヨウはそんなジュンにある事を伝えた。


「マイエンスにある一大企業があるんです。いち早く魔法を科学に取り入れて発展した優れた一家が経営する会社……その一族の名前が、確か真白だったはず」

「大正解。私の家は魔法と科学の融合を誰よりも早く技術として確立した、真白です」


 青空は自分の家が優れている事に誇りを持っているのか、自信に溢れた態度だった。スペイジョンに対抗出来るシステムが作られた理由は分かった。次に疑問として浮かび上がったのは、どうして青空がこの世界にやって来たかだ。

マイエンスにもスペイジョンは時々現れているはず。わざわざマジングにまで来る必要は無いはずだ。


「真白、お前はどうしてこの世界にやって来た? 目的はなんだ?」

「……全部お話するとは言っていませんよ、赤川先輩」


 突然青空は席を立ち、化粧室に行くと言って去ってしまった。あの様子だともう質問には答えてくれないかもしれない。

しかし、今まで素直に話してくれていたのにどうして突然答えなくなったのだろう。


 音羽は気になって仕方がなかった。あの子はウィクターの正体を知っているかのような素振りで話し掛けて来たし、さっきも一瞬私を見てから席を離れた。

もしかしたら私にしか話せない事なのかもしれないと思い、音羽も化粧室へと向かった。




 化粧室に入ると、洗面台に青空が退屈そうに腕を組んで座っていた。音羽が入ってくると、青空は口元に笑みを浮かべながら話し掛けてくる。


「感謝してくださいよ、気を利かせて黙っていてあげたんですから。魔法先輩」

「青空ちゃん……君は、私の事を」

「知ってますよ。先輩がウィクターだって事」


 音羽は呆然と立ち尽くした。どうして青空がそんな事を知っているのだろう。

もしかして、既にウィクターの正体は色々な人にバレてしまっているのだろうか。そんな事を考えていると、青空がつまらなさそうにしながら音羽に話し掛ける。


「安心していいですよ。貴女がウィクターだって調べたのは私個人が勝手にやった事ですから」

「ど、どうして」

「真白はスペイジョンに対抗するシステムに、ウィクターを参考にする事を思いつきました。だからウィクターの戦闘データを取りに時々この世界に調査のために来ていたんです。それで、その調査に付き添った時に誰がウィクターなのか気になって調べていたんですよ。それで、貴女が変身する所を目撃したんです」


 そんな事されていたなんて、全く気がつかなかった。


「他の人はウィクターの正体を探ろうとしなかったの?」

「真白は戦闘データにしか興味がありませんでしたから、全然調べようとしていなかった。それに、捕獲するより泳がせておいた方が色々面白いものを見せてくれますからね」

「ほ、捕獲……」


 どうやら一歩間違っていれば大変な事態になっていたようだ。

だが、当面の心配は晴れた。とりあえずやばい人達に正体がバレたとか、捕獲されそうになっているとかは無く、今まで通り過ごせる。

何より青空という頼もしい仲間が出来たと音羽は浮かれて手を差し出した。


「……何ですかコレ」

「握手だよー。これから一緒に頑張ろうね、青空ちゃん!」

「……私と先輩が一緒に何するんですか?」

「……え? 私と一緒に戦ってくれるんじゃないの? その為にこの世界に来てくれたんじゃ……」


 音羽がそう言うと、青空は鼻で笑って溜息を吐いた。呆れたような顔で音羽を見ると、自分がこの世界にやって来た理由を話し始める。


「私がこの世界にやって来たのは、単にここの方が多くのスペイジョンが出現するからです。個人的にウィクターを調べたいという理由もありましたが、それももう終わりました。貴女の底は知れてます」

「私の底?」

「成績は下位、頭も悪くて性格は雑で大雑把。褒めるところが見当たりません」

「そんなー、そこまで景気よく罵倒されると照れちゃうよー」

「あと女の子に言い寄るのも気持ち悪いです。これ以上貴女に関わるのは不快です」


 青空は音羽から顔を逸らして顔を合わせようとしない。ちょっとふざけてみたが、あまり意味は無かったようだ。

だが、このままふざけたまま別れる訳にはいかない。真面目なトーンで青空に頼み込む。


「でも青空ちゃん、一人で戦うより協力した方がいいよ。その方が安全だし、戦いだって楽に……」

「私は一人でパーフェクトです。そんな私が、なんで貴女なんかと一緒に戦わないといけないんですか。もう、先輩に出番はありませんよ」


 青空は話は終わったと言わんばかりに、ずかずかと近づいて来たかと思うとそのまま音羽を押しのけて外に出て行ってしまった。

これは中々頑固な子だなぁと、音羽は肩を落とした。あの子の心を開くのは大変そうだ。






翌日、放課後に音羽は中庭にある東屋に座って空を見上げていた。そこには雲一つ無い晴天が広がっていたが、反対に音羽の心はモヤモヤとした物が溜まっている様な感じがして気持ち悪かった。

折角一緒に戦ってくれる仲間が現れたと思って喜んでいたのに、正面から拒否されてしまった。せめて自分がもうちょっとしっかりしていたら少しは相手してくれたのかと残念に思う。


「でも、仕方ないよねぇ……」


 悲しくはあったけど、後悔はしていない。元より自分を偽るのが苦手なタイプなので、下手な事をしても無意味だろうと音羽は自覚していた。それに、どうしようもない奴だと言われるのには慣れている。

だが、それにしては落ち込みすぎていると音羽は自分の事を不思議がっていた。女の子から情けないとか頭悪いとかはよく言われているはずなのに、何故か今回は今まで以上にショックを受けている。


「やっぱり戦いの事だからかなぁ……青空ちゃんの事気になったのも、青空ちゃんがエンブルスだったから……?」


 今回に関しては音羽も分からない事だらけだ。疑問ばかりが頭の中をグルグルと掻き回して、纏まりを無くしていく。

そうして悩んでいる所に、突然後ろから声を掛けられた。


「あんまり上ばかり向いていると、首を痛めるわよ」

「あっ、御言園先輩」


 星が近くに来た事に気が付いた音羽は、背筋をピンと伸ばして姿勢よく座り直す。星はそんな音羽の隣に腰掛けると、一体どうしたのかと尋ねた。

音羽は話そうと口を開きかけたが、まだ青空の秘密の事を打ち明けるのは早いと思って口を閉ざす。どこまでなら話していいのか許可も取っていないし、それとなく悩んでいる事だけ話そうと決める。


「あの……今ちょっと落ち込んでるんですけど、何で落ち込んでるのか分からなくて」

「……本当、貴女って変な人ね」


 星は口元を抑えてクスクスと笑い出す。音羽自身も自分が変な事を言っていると自覚してはいるが、本当なのだから仕方がない。


「いいんじゃないかしら、ちょっと落ち込むくらい」

「え?」

「貴女っていつも自由奔放だけど、一応まだ子供なんだもの。ちょっとくらい悩んだりしてもおかしくないわ」


 星の言葉は目から鱗だった。確かに、ウィクターとして戦っている内に色々隠し事が増えて秘密が増えたから、それをバレないように立ち回っている内に自分の事を大人だと錯覚していたのかもしれない。

そうだ、まだ分からない事があってもいい。いずれは分かる事だろうし……今こうして冷静に考えると一つだけ分かったことがある。


 気分が晴れた音羽は星にお礼を言う。


「ありがとうございます、御言園先輩。おかげでちょっと楽になりました」

「どういたしまして……それと、星でいいわ。遠慮しないで」

「はい、星先輩!」


 音羽は星の両手を握ってブンブンと上下に振りながらお礼を言うと、その場から素早く立ち去って行ってしまった。台風が通り過ぎた後のようにしんと静まり返った東屋で、星は音羽の後ろ姿を見ながら思わず吹き出してしまった。

本当に不思議な子だと、音羽の背中を見つめていると笑みを浮かべてしまうのだった。





 青空は街外れの空き地でスペイジョンを待ち構えていた。昨日からの目撃情報を頼りに、その行動を予測していたのだ。そして暫く待っていると、怪人が飛んでいる姿が視認出来た。エンブルスに変身する為のアイテム、プログラムキーを取り出して構える。


『Stand by』

「変身」

『Liberate』


 プログラムキーをベルトに連結させて捻り、回転させる。青空はエンブルスに変身すると、シンパニッシャーの銃撃で怪人を撃ち落とした。

地に堕ちた怪人に接近すると、シンパニッシャーの剣撃で怪人の体を次々と切りつけていく。怪人が反撃に裏拳で殴りかかって来たが、青空はそれを剣で受け止めて左手で怪人の顔面を殴り飛ばした。殴り飛ばされて吹っ飛んだ怪人を、すかさず銃で追撃する。地面に落ちるまでの間に銃弾を浴び続けた怪人は、ダメージが蓄積して思うように起き上がれない。


 青空はトドメを刺す為にシンパニッシャーの十字架の中央にあるパニッシャーキーを引き抜いて、ベルトの右側へと差し込む。開いたプログラムキーに差し込まれたパニッシャーキーが奥まで差し込まれると、ウィクターがシンフォニーストーンを差した時と同じ透明音が流れる。


『Soul Charge』


 シンパニッシャーに膨大なエネルギーが流れ込み、バチバチと激しい電気が溢れ出す。この状態のまま銃口を怪人に向けた青空は、狙いを定めると引き金を引いた。銃口から水色の人一人分程の大きさのエネルギー弾が発射されて怪人に直撃した。

怪人にこの攻撃を耐えることなど出来るはずもなく、呆気なく爆散して消え去った。


 これで終わったと青空が油断した瞬間、何者かが青空の背中にぶつかって来た。突然の衝撃に青空は地面に倒れる。

一体何があったのか確認するために、青空は起き上がって周囲を見回す。


「フゥッフゥッフゥー」

「フルルッフフー」


 先ほど青空が倒した怪人と同じ姿をした怪人が二体、羽を広げて構えていた。青空が倒した個体は白い体だったが、この二体はそれぞれ茶色と黒色だ。


「二体か……」


 面倒な事になったと、青空は舌打ちする。剣を構えて二体の怪人と対峙した青空は、そのまま駆け出して攻撃を仕掛ける。

黒い怪人を斬りつけて受け流すと、茶色の怪人の拳をシンパニッシャーの表面で受け止める。背後から迫り来る怪人の蹴りを同じく蹴りで弾くと、茶色の怪人を斬りつけて黒い怪人に射撃を仕掛ける。


 銃弾は黒い怪人に直撃するが、怪人は二体とも空中に飛び上がると両腕の翼を思いっきり広げる。二体の怪人から羽が雨のように降り注ぎ、それを喰らった青空の体から火花が飛び散る。


「ああっ!」


 全身に広がる痛みに耐えながら、青空は空中にいる怪人を銃撃で撃ち落とす。怪人はそのまま地面に墜落するかと思ったが、地面スレスレを飛行して空に接近して体当たりを仕掛ける。

それは回避できたが、続けて二体の怪人がきりもみ回転をしながら突っ込んでくると避けきれずにボディに直撃を喰らう。


「うあっ!!」


 二体分の攻撃を喰らった青空は、ダメージの大きさにすぐには起き上がれなくなる。怪人はゆっくりと青空に向かって歩み寄ろうした瞬間、ここに近付いてくる何者かの存在に気づき振り向いた。

そこには、バイクに乗ったウィクターが真っ直ぐとこちらに向かって走行している姿があった。


「フゥー!」

「フルー!」


 二体の怪人を轢いた音羽はそのまま通り過ぎて青空の傍へとバイクを停める。青空はここにやって来た音羽を不審に思って苦い顔をして尋ねる。


「どうして……」


 どうして一人で充分だと言ったのにわざわざ来たのか。あんな事を言った自分を何故助けるのか。

青空の心は疑問で一杯だった。そんな青空の問いに、音羽は微笑みながら答える。


「知らない? 私、人の忠告すぐ忘れちゃうんだ」

「……そうですか」


 呆れた青空はシンパニッシャーを握り直すと剣先を黒い怪人に向けて構え直す。音羽も狙いを茶色い怪人に定めると真っ直ぐと駆け出した。

茶色い怪人は自分に向かって来る音羽に向かって両手から羽を飛ばして攻撃する。


「はああー!」


 だが音羽は避けたりせず、正面から走り続けながら羽の嵐を耐えて走り抜ける。動揺した怪人の顔面に、音羽は渾身の右ストレートを撃ち込んだ。

青空は冷静に黒い怪人が飛ばしてきた羽を銃で撃ち落とし、続いてシンパニッシャーを怪人目掛けて投げ飛ばした。飛ばされた剣は怪人の脇腹を掠めて地面に突き刺さる。


 怪人が怯んだ隙にその側まで接近すると怪人を殴りつけ、シンパニッシャーを回収するとそれで近距離から射撃を叩き込む。

怪人が怯んだ隙に、二人はそれぞれ必殺技を決めに掛かる。


 青空は先程差したキーを引き抜くともう一度差し込む。


『Soul Charge』


 シンパニッシャーに再度電撃が流れ出し、エネルギーが溢れ出す。燃え盛る太陽をバックに青空は目を閉じて集中力を高め、やがて目を見開くと両手でシンパニッシャーを握りしめる。太陽は剣に吸収され、赤い灼熱のエネルギーを纏った剣撃で怪人の体を真っ二つに切り裂いた。


 音羽はホイストーンをレッドバットに咥えさせて魔石を共鳴させる。


「シンフォニーストーン!」


 周囲が月夜に包まれ、茶色い怪人は動揺して周囲を慌ただしく見回す。その隙に、音羽は天高く飛び上がり月をバックに必殺の飛び蹴りを繰り出す。右足のブーツから翼が生え、魔力の循環を効率よく高めた高威力のキックを怪人の腹に直撃させる。

怪人が爆散して跡形もなく消え去ると同時に、夜が晴れて昼に戻る。


 音羽と青空は正面から向き合うと互いに変身を解いた。




「本当に馬鹿でお人好しですね。私言いましたよね、私だけで充分だって」


 両腕を組んで不機嫌そうな顔で悪態をつく青空に、音羽は笑いながら話し掛ける。


「放って置けなかったんだよ」

「ああ、人助けの為ですもんね? ご立派ですよ」

「そうじゃなくて……まぁ、それもあるけど、一番は青空ちゃんの事だよ。心配だったから」


 その答えが納得出来なくて、青空はつい強い口調で言い返してしまう。


「だから私は一人だけでもパーフェクトですから、心配いらないって言ったでしょう! しつこいですよ」

「ごめん。でも私、青空ちゃんの事好きだから」


「……………………はぁ!?」


 暫く硬直して呆然としていた青空だが、一瞬で顔を赤く染めるとわなわなと体を震えさせて大声で叫んだ。突然告白し出した音羽の思考回路が青空には理解出来なかった。

動揺した青空に、音羽は笑いながら詳しく説明する。


「音羽ちゃんに一人で平気だって断られた時、結構ショックだったんだよ? でもその時はなんでそんなにショックだったのか分からなくて……でもやっと分かったんだ。青空ちゃんの事好きだから、ショックだったんだなぁって」

「な……な……」

「ほら、青空ちゃんって可愛いでしょ?」

「あ、当たり前です。私はパーフェクトですよ!」


 音羽は自分のバイクに近づいてもたれ掛かり、話を続ける。


「だから一目惚れしたのかなぁ……ずっと気になってて、そんな子に面と向かって拒否られたからへこんじゃったんだ」

「さ、さすが年中ナンパしてるだけありますね。そういう事他の子にも言って回っているんでしょう!?」

「うん。でもこんなに悩んだのは青空ちゃんが初めてだよ!」

「も、もう知りません! 私はそんなに軽い女じゃありませんから!!」


 青空は音羽を突き飛ばすようにして肩をぶつけて通り過ぎて行ってしまった。突然押された事で音羽は倒れ掛かるが、なんとか踏みとどまる。

振り向いてみると、青空が背中を向けたまま立ち止まっていた。どうしたのかと見ていると、小さな声で青空が呟いた。


「……今日は、ありがとうございます」

「うん」

「でも、次はありませんから! 今度こそ私一人で戦えますから、助けは不要です!」


 青空はそれだけ言い捨てると、この場を走り去って行ってしまった。

音羽がその後ろ姿を眺めていると、レッドバットが音羽の肩に止まって話し掛けて来た。


「やれやれ、厄介な奴だなあの嬢ちゃん」

「いいんだよ赤バ。大変だけど……そういう相手ほど燃えるから」

「へいへい、頑張れよ」


 まだ心に距離はあるけれど、大丈夫。

今日話した感じだと、決して分かり合えない訳じゃない。いつか本当に仲良くなれるといいなと、音羽は思うのだった。

今日の夕日は、なんだか一段と輝いている気がした。


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