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小暮亜矢の冒険  作者: 真白もじ
第一章 異世界からの訪問者
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第一章 異世界からの訪問者 【5】

 なんでこうなっちゃうの!?

 呆然として牢の格子を掴むと、すごく冷たかった。なんかカビ臭いし、ここ。ちゃんと掃除してんの!?

「出してよ!」

 そう訴えても、出してもらえそうにない。代わりに、弟は冷静だった。

「変だよね、亜矢姉」

「変よ! 大変なのよ!」

「そうじゃなくてさぁ、俺たちを捕まえるメリットだよ」

「はあ?」

「いくら不審者って言っても捕まえるのおかしいでしょ。これってさ、ナギルの関係者だってバレてんじゃない?」

「…………だから?」

「つまりさ、ナギル自身、かな~りヤバめってこと。亜矢姉って変なとこバカだよね」

 なにいきなりひとのことバカにしてんの、こいつは!

 私は目を吊り上げるけど、由希は「しぃ」と静かにの合図をする。そういえば小声で喋ってる、由希は。

「美和姉の言うことが本当なら、第一王子ってナギルのことも殺そうとしてるってことじゃん?」

「そ、そうね」

「で、ナギルは亜矢姉と婚約をとりあえずは結んでる」

 う。思い出したくない事実をこいつ……。

 苦い顔をするけど、由希は気にせず続けた。

「亜矢姉のこと、どっかで知ったんだろ、たぶん。ここ、牢にしては綺麗なほうだと思うしさ」

「どこが?」

 寒いし、いい環境とは言えない。

「バカだなぁ。もっと汚くて臭い監獄とかあるんだぜ? 見た感じ、そんなに環境悪くないと思う、ここ」

「牢屋に環境の良し悪しなんて、いらないわよ」

「そうじゃなくてぇ、亜矢姉は名目上不審者で捕まってるけど、それなりの扱いを受けてるって言いたいんだよ俺」

「……お妃候補としてってこと?」

「そういうこと」

 頷く由希が、視線を格子の外へと走らせる。そこには見張りの姿はない。私たちをここに入れて、捕まえた人たちはそのままどこかへ行ってしまったのだ。

「言葉がまず通じないんだけど、俺たちの相談事って向こうには通じないって思わないほうがいいな」

「は?」

「ここに居る下っ端はいいとしても、インコさんの件があるじゃん」

「ん?」

 どういうこと?

「翻訳機だよ。そういうの、あるんじゃないの? ナギルももらってたじゃん」

 ああ! あれか!

 そっか。あれがあったら、私たちの言葉もバレバレよね、そういえば。

「つけたヤツに聞かれたら厄介だし、声は小さめにしよう。美和姉が気づいてくれないわけはないと思うんだけどさ」

「でもお姉ちゃんは日本にいるのよ? 助けを呼ぼうにも、無理じゃない?」

「まどかちゃんもいるし、なんとかするんじゃない?」

 いや、戦う坊主はまず異世界に来る方法がわからないんじゃないかしらね、私たちと同じで。

 私は嘆息して天井を見上げた。あ、くもの巣発見。ばっちぃなぁ。

「トイレとかもないし、ここって一時的に捕まえておく場所みたいだなぁ」

 由希は一人で牢の中をうろうろし始めた。ほんと、なんて神経なのかしら。一緒に居るとある程度安心するけど、無茶はしないで欲しいわ。

 そもそも私たちがここに居て、なんの意味があるわけ? 勝手に婚約者扱いしてるのはあっちなんだし、関係ないっての。

 ……ここでまた私たちがこんなところに居る説明を入れなきゃいけないわけだけど、いい加減にして欲しい。

 もー。殺人事件に当たった時も思ったけど、ほんと私って運がない。パワーストーンでも買ってこようかしら?

 気づけば私は由希に起こされていて、状況を説明された。

 気絶していた私と違って、どうやら一緒に巻き込まれた由希は異世界に召喚されたのだとすぐにわかったらしい。

 私たちが現れた場所は教会のような建物の近くで、ひと気もなく、壁や床に色んな紋様が施されていたという。

 そこから出られないことを知って諦めた由希の元へ、兵士らしき装備の人たちがやって来て、ここまで連行されたらしい。

 ……なんか由希が魔法陣がどうだの色んなこと言ってたけど、半分以上意味がわからなかった。ごめん、ファンタジー小説、そんなに得意じゃないのよね……。

 溜息をついて思い返していたら、突然背後でパシャッ、と音と光がして私は振り向いた。なっ、なに!?

 驚いていると、デジカメを構えて由希が写真を撮っている最中だった。

 なにやってんのよ、あんたはこんな時に! てうか。

「なんでデジカメ持ってんの?」

「いっつも持ち歩いてるけど?」

 だからってここで使うな!

 睨むけど、由希はケロッとしてる。

「牢屋に入れられるなんて珍しいじゃん。資料になるかもだし」

 なんの!?

 フィギュアに使うわけ? あんたどこまで熱心なのよ! ばかばか!

「ケータイもあるけど、やっぱりアンテナ立ってないなぁ」

 当たり前だ! ここは地球圏外なんですからね!

 頭を抱えたくなってきて私はうめく。

「しっかし亜矢姉ってとことんトラブルメーカーだよね」

「なによ。なにが言いたいの?」

「見つかるの早すぎだよ。しかもこんな簡単に捕まってるし」

「……私のせいって言いたいわけ?」

「そうだよ。亜矢姉の不運吸引体質が悪い」

 なにそれ。変な体質名、つけないでくれる?

 顔をしかめると、由希が晴れやかに笑った。

「ま、俺は飽きないからいいけどさ。美和姉がいるから安心だし」

「まあね。お姉ちゃんがいなかったらと思うと、ゾッとするわね」

 多大な信頼を寄せられている木暮美和という人物は、やっぱり私だけじゃなくて由希にとってもメシアみたいね。


 しばらく二人でしりとりとか、山手線ゲームをして過ごしていると、看守がやって来て鍵を開けた。出ろってことみたい。

 そのままぴったりと、兵士らしき男の人たち三人ほどで包囲されて歩く羽目になった。ど、どこに行く気なのかしら?

 私たちは窓もない地下牢とさよならをし、そのまま階段をあがっていく。地階から地上へ出ると、窓があるので日の光を久しぶりにあびた。太陽光に手をかざす。ま、まぶしい!

 そうしていると背後から押された。わかってるって、歩けばいいんでしょ!

 建物から外に出され、玄関らしき場所に用意されていた馬車に無理やり乗せられる。馬車はそのまま発進した。

 私と由希は並んで座ってるけど、向かい側に見知らぬ男が二人ほどくっついている。……だれですかあなたたち。黒服着た、エイリアン退治のプロ?

 やだなぁ、と思わず顔を逸らしていると、由希がにこにこと笑顔でいることに気づいた。明らかに友好的な態度だ。なに考えてんの?

 しばらく馬車で進んで、やがて停車した頃には……たぶん、3時間は経ってたと思う。車だともっと早くて快適なのに。どうしよう、普通に腰とおしりが痛い。

 降りろっていう動きでまた無理やり降ろされる。もう、なんなの一体!

 降りた先には大きな屋敷があった。え? ど、どこ、ここ?

 困惑していると、屋敷の玄関からなにかが出てきた。

「ぎゃああああああーっっ!」

 悲鳴をあげて由希の後ろに隠れる。あ、頭がトカゲなんですけど! 怖いし、気持ち悪い!

 私の奇声に周囲の人間はびっくりしたようでびくっとしている。由希だけは慣れたもので、平然としていた。

「ゆ、ゆゆゆ由希! と、トカゲ人間!」

「まぁインコさんもいるし、トカゲが居てもおかしくはないかなぁ」

「なんで楽しそうなの?」

「んー。美和姉いないから、ヤバめな感じがどうもね」

 はあ? あんた危険な時は楽しいわけ? そんなマゾな体質じゃないでしょうが! あんたはサディストでしょ!

「ナギル様の婚約者のアヤ様ですね?」

 ぎええええええー! こ、言葉が通じるじゃん!

「そうでーす。アヤ様と、その弟です」

 こらぁあああ! なに勝手に返事してんのよ!

 怒りで由希を揺するけど、無視された。

 トカゲはうやうやしく頭を下げる。

「ある方の密命であなたがたをかくまうことにいたしました。ペキと言います。よろしくお願いします」

「折れちゃいそうな名前だね」

 由希が本当に小さな声で呟く。聞こえたらどうすんのよ、あんたは!

「あ、ある方?」

 恐る恐る尋ねる私に、ペキさんが小声で言う。

「第一王子、アルバート様です」

 っ!

 驚いて硬直してしまう私と違って、由希は「へぇ」と洩らした。

 ナギルを可愛がっているという第一王子。でも、美和姉の直感では第五王子暗殺の犯人。

 そ、そんな……。ど、どういうこと?

「ナギル様の婚約者様を第二王子から引き離すのが目的です」

 屋敷の中と案内しながら早口でペキさんが説明する。

 でもその第二王子と第一王子に繋がりがあるのはわかってる。

 あー、やだやだ! 巻き込まれるなんてまっぴらごめんよ!

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