第三章 魔法の鏡の向こう側 【10】
光を抜けたそこは懐かしの木暮家のリビングだった。
ミラはテレビに向かって何かを呟いている。
「ボクちんはあっちに帰るけど、強力な封印をしておいたから、あっちからこっちへ来る人はもういないと思うよ」
「え?」
その言葉に私は唖然とした。
…………なんだろう。
また、会えるとか、勝手に思ってた。
でもお別れって本当に突然くるんだ。
なんだか……ちょっと悲しい。ちょっと? ううん、かなり悲しい。
「あ、ありがとうミラ」
精一杯言いながら、なんで流れてくるのかわからない涙をふく。
お姉ちゃんと由希は、そんな私を黙って見守ってくれてた。
たった土日の大冒険。だけど、すごい体験だった。
顔をあげてミラに言う。
「ミラ、ナギルが大変だろうから助けてあげてね! 私の代わりに、お願い!」
「……男を助ける趣味はないんだけど、かわいこちゃんが言うなら仕方ないね」
ウィンクをしてくるミラの姿が半透明になって消えてしまう。
しん、と静まり返った中で、私たちは各々動き始めた。
まず、お姉ちゃんは部屋で寝始めた。相当疲れていたようで、全然起きてこない。
月曜日はちょうど祝日だったようで、私たちは充分に休みをとれる。よかった……。
戻ってきていきなり学校とか本気でやばかったもんね……。
玄関の鍵は一色さんが持って出てくれたようで、預かってくれているらしい。まぁ、あの人悪用しないからいいけど。
由希が取りに行くと出かけていったので、私はそれを見送った。
手を振って、由希が去っていく姿を見つめる。
通りかかる自転車。歩き去っていく親子。見覚えのある景色だ。
…………ほんと、夢だった。
夢みたいな、もの。
でもできれば二度と経験したくない。
…………ナギルには、ちょっと会いたいけど。ううん………………。
「すごく会いたいな」
小さな呟きを残すように、私は玄関のドアを閉めた。
*
ドアに背中を当て私は考える。
きっとあっちの世界ではナギルやアルバートさんと、ついでにモンテさんが奮闘していることだろう。
……もしかして。暗殺とか、されてないよね?
怖い考えが過ぎってしまうけど、ミラが完全にこちらの世界への行き来を封じた以上、私たちにできることはない。
ミラの姿ももう、見えない。
すべての後始末をあちらの人に押し付けてきてしまった。
でも、ナギルはあの作戦を実行する前に言ってきたのだ。
「おまえは悪くない。悪いのは、おまえたちを巻き込んだオレなのだから」
だから責務があるのは自分だと言っていた。
ナギル、元気かな。
私は天井を見上げた。
あっちはあっち。こっちはこっちできっと色々大変なことが待ってる。
私だってそろそろテストの準備をしなきゃいけない。
ナギルたちはその比じゃないと思うけど。
「でも……がんばろ」
がんばろう、お互いに。
できることだけ、精一杯に。




