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小暮亜矢の冒険  作者: 真白もじ
第三章 魔法の鏡の向こう側
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第三章 魔法の鏡の向こう側 【1】 

 鏡よ、鏡。鏡さん。

 世界で美しいのは~、なんてフレーズは頭から吹き飛んだ。

 鏡に映った光景に私もモンテも仰天して、その場に硬直している。

「ティアズゲームって、王様を決めるゲームでしょ? なんでまたやろうとしてるのよ!」

「し、知りませんっ!」

「あの後ろの人、誰?」

「アシャーテ様がいるので、第三王子かと……」

「だっ、第三王子ってナギルの味方になってくれた? え? なんであそこに?」

 わけがわからない。

 お姉ちゃんは鏡の中でたいしたことでもないようにイスに腰掛け、対戦を始めた。

「ぎゃああああああ! まずい、まずいですぞぉぉぉぉ!」

 横で絶叫をあげられて、私のほうがビクッと引いてしまう。な、なになに? なにがまずいの?

「二度もゲームを受けるなどと、妖精と何か取引をされているに違いありません!」

「それってやっぱりダメなんじゃないの!」

 私は鏡へと手を伸ばした。

「うぅ、お姉ちゃんにこっちの声が聞こえれば」

 鏡の表面に触った刹那、ずるりと私は「向こう側」へと落ちた。



(第三王子のところだけやけに静かだな)

 警備の目をかいくぐり、由希は様々なところへと潜入していた。

 それもこれも、亜矢が引き寄せる数々の事件のおかげで鍛え上げられたスキルだった。

(警備も手薄だし、なんか……変だ)

 メイド姿のまま、いかにも新人で入った風を装って色々話を聞いてきたが、アルバートの意見と、ここでの意見では合致しない部分が多い。

 王位に最も近いのはやはりアルバートで、二番手は第二王子。第三王子は身体の不自由からあまり表に出てこない。

 しかしアルバートは傀儡にするには第三王子が一番だろうと言っていた。だが、妙なのは傀儡になるほど第三王子が気弱なタイプではないとここの者たち……特に第三王子に仕えている者が言うのだ。

 室内から滅多に出てこない第三王子。名はエルイス。

(あーあ、俺ってあんまり戦闘向きじゃないんだよなー。後方支援だぜ、ゲームとかだと)

 と、ばったり廊下でナギルに出会った。

 ぎょっとしたのはナギルのほうもだが、由希は頭をさげて廊下の端に避ける。

 ナギルがここに来たということは、ここが一番きな臭いってことじゃないのだろうか?

 様子をうかがっていると、ナギルは第三王子に面会を申し出たが、拒否されていた。

(ん? いないのか?)

 控えていた由希はすかさず身を隠し、そのまま今度はアルバートの元へと向かった。

 なんだろう。何かが動いている。自分たちの知らないところで。

 これも亜矢の事件吸引体質のせいだろうか?

(亜矢姉、大人しくしてるといいんだけど)

 あの姉が動き回ったらろくなことにならない。それだけが気がかりだった。


 アルバートはフレイドの説得には成功したらしいが、戻って来た由希にびっくりしていた。

「ゆ、ユキ殿?」

「ああこれ? ちょっとした趣味だよ趣味」

「趣味というか……別人では……」

「それより、美和姉の行方つかめた?」

「それが、フレイドは関係ないみたいだった。ミワ殿はどこへ……」

「手がかりナシか……」



 私は振り向いて、「モンテさん!」と叫んで鏡の壁をドン! と叩いた。

 鏡の向こうのモンテさんは慌てて何か叫んでいるけど、声が聞こえない。

 なんだろう、この真っ暗な場所。

 ジェスチャーしてるけど、ぜんっぜん意味わかんないわ……。なに。待ってろってこと?


 しょうがないから座り込んで待っていると、ナギルが護衛を連れてやって来た。

「あや」、と口が動いている。

 …………やっぱり呆れるよね。

 なんだろう。なんか……本当にこんなのばっかり。

 お姉ちゃんや由希だけじゃなくて、今回巻き込まれてからこんなに頻繁に誰かに迷惑をかけることになるなんて……初めてかもしれない。

 鏡の向こうではナギルがモンテに怒鳴ってる。途方に暮れている私を指差し、何か支持を出していた。

 モンテは反対しているようで首をしきりに振ってるけど、ナギルが猛烈に怒っているのがわかった。

 …………心配、してくれてるのかしら?

 まぁ……一応婚約者だし。

 とそこで、彼が「愛を誓ってやる」って言ったことを急に思い出してこっぱずかしくなった。

 心配そうにこちらを見てくるナギルと目が合う。

 ……腹立つくらいに美形だ。

 普通だったら、こんな人に仮にでも「愛を誓う」とか言われたら嬉しいものなんだよね。……第一印象最悪だけど。

 ……現実世界で、あのことさえなければ「付き合ってもいい」って返事をしそうよね。まぁ、お友達からってことだけど。

 ナギルはこちらへと近づき、モンテに合図をした。刹那、ずぶりとこちらに腕が入ってくる。

 掴まれってこと? 私は立ち上がって腕にしがみついた。

 鏡の向こうではナギルが頷いて腕を引き抜こうとしているけど、びくともしない。

 ……? なんで? どうなってるの?

 もしかしてこれ、一方通行じゃないわよね?

 怖くなって冷汗がどっと出てくる。相当青い顔をしていたらしく、鏡の向こうのナギルの表情が険しいものになった。

 ずぶりと彼がこちらに入ってくる。

「大丈夫か、アヤ」

「な、ナギル?」

 全身じゃないけど、身体の半分はこっち側に来てる。そんなことして大丈夫なの?

「だ、ダメよ、そんなことしちゃ。危ないんじゃないの?」

「おまえ一人をここに残していけるわけないだろうが!」

 え、偉そうに言ったってダメなんだから! こ、怖いけど、怖いけど……我慢しなくちゃ。

「今はお姉ちゃんのことを優先して。だから戻って」

「ミワ殿より、おまえが優先だ」

「え?」

「愛を誓っただろうが」

 それって、適当に言ったあれのこと?

 きょとんとしていると、ナギルが完全にこちらに来てしまった。

「おまえ、オレを見くびり過ぎじゃないか? 愛を誓った女を放置していくほど、薄情に見えるのか」

「そ、そうじゃなくて……」

 ど、どうしよう。私、いま顔真っ赤だよ絶対に。

「それに、王族としてするべきことは今はない。だったら、おまえを優先させるのが当然だろう」

 さも当たり前みたいに言われて、私は不覚にも胸が少し高鳴った。

 び、美形ってずるい。

「愛愛って、愛してないくせになに言ってんのよ! 恥ずかしいわね!」

 恥ずかしさに我慢できなくて、そんな風に言ってしまうと、彼はしばし沈黙してしまう。

 ……なに、その沈黙?

「………………」

「え。ちょ、なんで言い返さないの?」

「…………べつに」

 渋い顔つきになってそう返してくるので、私はわけがわからなくて疑問になってしまった。

 えーっと……つまり、ナギルの優先順位の一番は婚約者である私なわけだ。…………いいのかな。

 だって嘘の婚約者なのよ? 私。それなのに……こんな…………迷惑千万な感じで…………。

「べ、べつにって……」

 うぅ、どうしよう。顔が熱い。私、なんでこんなに恥ずかしがってるの? 否定してよ! なんで否定しないの!

 俯いていると、ナギルが鏡の向こうを見遣っているのに気づいた。モンテさんが喚いているのが見える。

「あの……ここ、鏡の中よね?」

「そうだな」

「も、戻ろう?」

「戻れない」

 きっぱり言われて、思わず私は「う?」と素で返してしまった。

「この鏡は特製なんだ。『精霊の鏡』という。妖精たちから送られたものらしい」

「よ、ようせい……?」

 いま、お姉ちゃんがゲームで戦ってる相手よね? あの、な~んかふわ~っとした声をしてる?

 ナギルは暗いこちらの世界を見回し、何か考えて呟く。

「行くしかないな」

「ど、どこへ?」

「迷宮だ」

「めいきゅうぅ?」

 こんな真っ暗な迷宮なんて冗談じゃないわよ!

「い、嫌よ! そ、そうよ。お姉ちゃんにも由希にも、あんまり動くとろくなことないって言われてるし、ここで救援を待ってるほうがいいに決まってるわ!」

「先へ進まねば、ずっとここに居る羽目になるぞ?」

「な、なんでそうなるのよ~! だ、だいたいね、私はこの世界のこと、あんまりっていうか、ほとんどっていうか、全然わかんないんだから、しょうがないっていうか」

 大混乱で、自分でなにを言っているのかわからなくなってきた! ああもうイヤ! なんでこんな風にこんな目にばっかり……!

 ナギルは腕組みして、尊大にこちらを見下ろしていた。

「だからオレがここにいる。おまえの姉や弟より、こちらの世界に詳しいんだが」

 不機嫌丸出しの声に私は「えっと……」と、目をぐるぐるさせて返す。

「そ、そうだけど……だけど、でも……」

「なんだ。魔術が使えないとそれほど不安か?」

「ま、まじゅつとかワケわかんないもののほうが不安よ!」

「………………」

 怒鳴ると彼は目を丸くし、その後フッと不敵に笑った。ず、ずるーい! 美形がやるとすごいかっこよく見える!

「ではオレを頼れ」

「た、頼れって……言われたって…………」

 あれれ? 頼る、ってどうすればいいんだっけ?

 急に文字を思い出せない人みたいな感覚になって、私は戸惑ってしまう。

「た……頼り方って、どうやるんだっけ……?」

 バカみたいな問いかけに、ナギルは無言で歩き出した。ど、どこに行くの? やめてよ! 一人にしないで!

 慌てて彼の衣服の裾を掴むと、彼はすぐに立ち止まって振り返ってきた。

「ソレが『頼る』ということだ。わかったか、馬鹿者」

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