異世界トリップ六日目その1
新しい年明けは一人寂しく明けた。
実際俺がこの世界に来た時は日本はまだ夏のさなかだったので実感は無いしこの広い離宮でおばちゃんに世話されるだけで娯楽もないので暇を持て余すしかない
こんな事ならもう少し時期をずらすかゲームでも持ってくれば良かったと後悔するが遅い
「せめてマッキーさんがいればな~」
それだけで胸がわくわくしてバラ色の時間を過ごせるだろう
優しいマッキーさんならもしかすると耳掃除をねだったらしてくれるんじゃないだろうか
恥ずかしそうに長椅子に座りその膝に頭を乗せて耳掃除をして貰う
時々チラリと上を見上げれば零れ落ちんばかりのオッパイ!!
出来ればあの胸で圧死出来れば
「うぅ~~~~ 堪らん!!」
長椅子に寝そべりっている俺はクッションを抱き締め顔を埋め妄想する。
朝食を済ませると何もする事のない俺は一人寂しく自室でマッキーさんで妄想するしか楽しみがない
このクッションがマッキーさんのオッパイならと顔を擦りつける。
そんな事ばかり考えていると自然と生理現象が起きてくる訳だが
この世界にティッシュが無い!
トイレにある紙は硬くて揉みほぐして使わなければならず嫌だしな
そう言えば抜いたのはリューリンさんの家以来だがあの時はポケットティシュがあったのだが全部使ってしまったのだ
ここは仕方なく妄想を止めて屋敷の中でも歩こうかと起き上がろうとした時
「お兄ちゃま誰?」
「へっ???」
目の前に五歳位の子供が立っている。
しかも天使の如く美しい
髪は少し暗い赤でワインレッドで肩までの長めのオカッパで瞳は明るいエメラルドながら虹彩に金色の筋がが幾重にも見える不思議な色合い
将来はお義兄さんぐらいの美形になりそうだ
あまりの美しさにうっとりと見惚れてしまうがそれどころでは無い
この離宮にこんな小さな子供はいないはず
姉ちゃんが知っていたら絶対手元から離さず抱きしめまくっているはずだしな
「お前は何処から来たんだ? お母さんは?」
この子の母親なら凄い美人に違いないので捜して連れて行けば美女に会える事間違いなし
「ぼくチョンルイグゥイ お兄ちゃまは」
お兄ちゃま…初めて呼ばれたぞ
目をキラキラさせながら聞いて来るがマジ目が眩しい!
それより名前からして亀族だ。
だからこの離宮に入れたんだろう
「俺か… 俺は橘健斗 ケントでいいぞ」
「ケントちゃまは可愛いの」
「はっ???」
小さな子に突然可愛いと言われ面食らう
しかもお兄ちゃまからケントちゃま…ありえね~~~
「王妃様と似てるの」
「そりゃー 弟だからな」
姉ちゃんを知っているようだが姉ちゃんはなんとか可愛いと言えなくもない容姿だが俺は男で可愛いか????
「抱っこして」
子供は手を上に上げて抱っこをねだるので持ち上げて抱き上げると思ったよりズシリと重い
小さい子を抱っこした事がないが小さい体がスッポリと嵌り込むのが確かに可愛いく感じその上子供は俺の首に手を回ししがみ付く
どうやら懐かれたようだ
「それじゃチョンルイのお母さんの所に行くか?」
「いや ケントちゃまと遊ぶ」
「お母さんが心配するぞ チョン…… 」
名前を呼ぼうとしてある事に気が付く
この壮絶な美貌にチョンが付く名前
まさか……
お義兄さんの子供!!!!
王様なんだから後宮には美女が一杯でその内の何人かが子供を産んでいても可笑しくないはず
姉ちゃん知ってるんだろうか
五歳くらいだからこの世界に落ちる前の事だからセーフだよな
だけどこの子が王子様ならなんでこんな所にいるんだ????
お付きの人は何をしてるんだろう
ここに来て数日の俺に判断出来るはずがないのでビーターさんに相談した方が良さそうだ
昨日のジョギングの後に会う約束をしていたがそれはお昼なので本殿に来るのはまだ時間がある。
お昼はピクニックのようにお弁当をおばちゃんに作って貰い外で一緒に食べる約束をしていたが、今は門を守って仕事だろうか
取敢えず門までこの子を連れて行く事にする。
「チョンルイ散歩するか」
「はい、しましゅ」
ニッコリ笑う顔は天使
あまりの可愛さにキュンとしてしまい抱きしめたくなる俺
ここへ来て美形は見馴れたがお義兄さんとこの子は別格だ
変態に見つかったら絶対に監禁されどんな目に遭うか心配
早く母親の元に戻さないと心配してるだろう
チョンルイを抱っこしながら門まで歩くがはっきり言って1キロはあるので結構大変なのだが
まあこれも運動だと思い抱っこし続けるが
「こら くすぐったいから止めろ」
何故か俺の顔をぺたぺたと触り終いには顔中にキスし始める始末
「やーだ もっとする」
ガキは嫌いではないがいい加減しつこいと鬱陶し
これがマッキーさんの唇なら100万回でもウエルカムなのだが
「少し歩け」
「やなの~」
嫌がるチョンルイを無理やり下に降ろし手を繋いで歩き出すとそれはそれで嬉しらしく楽しそうに歩きだす。
全く変なガキ
門が見えてくるや否や門の脇にある小さな戸が開けられビーターさんが血相を変えてこちらに向かって来る
どうして来るのが分かったんだ?
神様だからセンサーでもあるのかと立ち止り待っているが何故か5メートル手前で跪く
「ビーターさんどうしたんですか?」
「弟君様 その御子様は」
「このこ迷子みたいで俺の部屋に迷い込んで来たですけど母親は来ませんでしたか」
やはり王子様なのかビーターさんのただならない様子
「恐れながらお名前をお伺いしたいのですが」
「チョンルイグイてちゃんと名前を名乗ったけど」
そうだなと子供の顔を見ると
「チョンルイグゥイだよ」
「まぁ チョンルイでいいか」
姉ちゃん同様少し発音が違うようだ
「うん」
その名を聞いた途端ビーターさんは驚いたように固まる。
「この御子様は丞相様の御令息に間違い御座いません」
「丞相様? 偉い人」
「この国の政治における最高官位を勤める立派なお方です」
お義兄さんの子供では無かったらしい
「なんでそんな人の子供がここにいるんだ」
「私めにもさっぱり分りかねます」
「えっ?! ここから入って来たんじゃないの」
「いいえ 今朝から門は開かれておりません」
どういう事か本人に聞いてみるしかないだろう
俺は事情を聞く為にしゃがみ込んで目線を合わせて聞こうとするが
しかし綺麗な瞳だな~とつい見惚れながら
「チョンルイはどうやってここに来たんだ」
「一人でめいどうを通って来たんだよ」
少し自慢げに言うのが可愛い
めいどうって瞑道
お義兄さんが使ったどこでもドアのような力の事だ
結構誰でも使えるんだな
「へ~ 小さいのに凄いんだな」
誉めて頭を撫でると更に嬉しそうに顔を輝かせ子犬だったら確実に尻尾を千切れんばかりに振っていそう
「もしかして家の人に黙って来たんだろう」
そう指摘した途端にシュンとしたように目を伏せてしまう
「お母しゃまが王宮に行って寂しかったの… 」
うっ なんだこの愛くるしさは
姉ちゃんじゃないけど抱きしめてしまいたくなり父性愛が刺激されるのだろうか
だが幼児をいきなり抱きしめるのは危ない変態のようで堪える。
「そうか でも誰かに言ってから来ないと駄目だぞ」
「ごめんなちゃい」
素直にあやる態度は姫様と大違いで可愛い
多分、昔の姫様もこんな天使のように素直だったのかもしれないが
年月とは恐ろしい
「どうしたらいいのかな…ビーターさん」
「はい 取敢えず丞相様のお屋敷とフーラングゥエ様に連絡しますので自室でお待ち下さいませんか」
ビーターさんは平伏したまま顔も上げずに答えてくれるのは俺にというよりこのチョンルイに対してらしい
余程偉いところの坊ちゃんなんだろう
「お任せするんで部屋で待ってます」
「だっこ」
又しても抱っこをねだるチョンルイ
かなりの甘えん坊だな
母親がいないんで寂しいんだろう
「仕方ないな よっこらしょ」
「ケントちゃま すき」
ちゅっ!
抱き上げた途端に頬に感じる感触
「次したら降ろすから」
メッと軽く睨む。
子供だからといって頬に度々キスされるのはいただけない
しかも幾ら可愛くとも男…女の子ならまだ許せるけど
「やだー」
「なら大人しくしろよ」
「うん」
「それじゃあ ビーターさんお願いします」
声を掛けると何時の間にか顔を上げてこちらを驚いた顔で見ている??
偉い人の子供を俺がぞんざいに扱っているせいか
「御意に」
慌てるようにまた頭を下げるが変な感じ
まぁ~いいかとそのまま立ち去るのだった。
部屋に戻るが子供相手に何をすればいいのか分からない
取敢えずなけなしの飴で与えてみようかとリュックを漁り奥底に隠してあるのを取り出す最期の一袋
姉ちゃんの目を誤魔化して死守したイチゴミルクだ
「それな~に」
物珍しそうに覗きこんでいる
「これはアメだ 舐めるか?」
「うん」
俺はイチゴの包み紙を剥いてアメを取り出す
「ア―ン しろ」
。
チョンルイは可愛い口を空けるとそこにアメを入れようとしたが
パク
何故かアメと指ごと口にくわえられてしまう
「こら 俺まで食べるな」
クチュ チュプ ピチャ
直ぐに放すかと思えばアメごと指を舐められゾゾゾ――っと鳥肌が立ち急いで引き抜く
チャップン
チョンルイの目はトロンとして危ないぞ
「もっと」
もっとって…何がだよ????
そんな妖しい目つきは止めなさい!
それは変態さんの目付きだから~~~~~~~
なんなんだこの子はーーーーー
ズザッザッザッザ――――――
思わず身の危険を感じ1m程距離をとってしまうのは仕方がない
「どうしたの?」
チョンルイは少し傷付いたように悲しそうな顔をすると自分の考え過ぎだと思い始める
まさか5歳の幼児がそんな性的な意味あいの事をするはずがない
ただ単にアメが美味しかっただけだよな
「悪い それより指なんか舐めちゃ駄目だぞ。 バイ菌が一杯あるからお腹をこわすんだから」
「ごめんなちゃい」
「それよりアメは美味しかったか」
「うん」
「じゃあ3個やるから自分でなめな」
小さな可愛い手にアメを3個のせてやると食べずに懐にしまう
「舐めないのか?」
「お母ちゃまとお父ちゃまとミュンちゃんにあげるの」
おおぉーーーーーー
姫様と比べてばかりで悪いがなんて優しい子供
村の子供達同様に家族を思いやるなんて
両親が違うんだろうな…姫様の両親は亀爺に売ろうとするような人間だから
少し姫様が憐れになる。
「偉いなチョンルイわ。それよりミュンって言うのは妹か?」
「ううん。ミュンちゃんはミュンヒュングゥイで僕の弟なの」
「へー 弟もいるのか。 そう言えばチョンルイは何歳なんだ」
体から5歳だと判断していたが
「あと五月で一才」
「へ~ 5歳か」
「ちがうよ。まだ一才にならないの」
「えっ五歳だだろ~ 1歳に満たないなんてそれじゃ赤ん坊だぞ」
「ぼく 赤ちゃんじゃないもん!」
「そうだもうお兄ちゃんだもんな」
きっとまだ小さいので年が分からないんだろうと俺はその場を流しチョンルイにもう1個アメを剥いてやり口に放り込んでやる。
次は俺の指を食うなと前置きするのは忘れなかった。
二人で仲良くアメを舐めていると
「弟君様… お茶をお持ちしました…」
扉からおばちゃんの声が聞こえて暫らく待つが入って来ない?
何時もなら遠慮なく開けてくるのにと不思議に思い扉を開けてみるが居ない???
廊下に顔を出してみると青い顔で壁にへばり付いているおばちゃん
「おばちゃんどうしたの?」
「兵士様に言われてお茶を持って来ただけど足が竦んで入れないんだよ…悪いけど持って行ってくれないかい」
「いいけど…なんで?」
「中にいる亀族様の神気が恐ろしくって… 兎に角頼んだよ」
おばちゃんはお菓子とお茶の入ってお盆を俺に押し付けてソソクサと廊下の奥に消えていたのだった。
神気?
俺は全く感じないけど
それにあの可愛いチョンルイを見ればおばちゃんも怖いだなんて思わないだろう
それより今はお茶が冷めないうちに二人でティータイムを楽しむ事にするのだった。