異世界トリップ四日目その二
ビーターさんを背後霊のように着き従わせながら湖の散策道を歩く
何故背後霊かって
何しろ足音どころか気配がないんだよこの人
こんな巨漢が後ろから付いて来れば鬱陶しはずなのに風景を楽しみながら歩いていると存在を忘れてしまいそうなくらいなのだ
余程訓練をした兵士なんだろう
プロだ!
マジかっこいよな
マッキーさんがこういうのがタイプなら俺は望み薄い
そもそも皆が王妃の弟だから相手をしてくれるがその辺の町人なら見向きもされない存在だって言う事は分っている。
ここに来なければこれ程大勢の美形に会うチャンスすら一生無い
ましてマッキーさんほどの理想の相手を見つけられただけでも異世界トリップして来たかいがあると言うもの
振られても俺はこの恋に賭ける!
先ずは体を引き締めないと
姉ちゃんの食べるのに合わせたら絶対に元のポッチャリだ!リバウンドだけは避けたい。
軽く歩き体もほぐれて来たので早速ランニングだ
「ビーダーさん 体を動かしたいんで走っていいですか」
「はい 私に構わずご自由にして下さい」
ビーダ―さんの言葉に甘え走るには大袈裟な上着に着物を脱ぎ始めると
「弟君様何を!」
「えっ? 走るのに邪魔だから」
何故か俺の事を真っ赤になりながら見ている
??
もしかしてこんなとこで脱ぐのは拙かったのか
でも裸じゃあるまいし男同士
気にせず上着を適当に畳んでいるとビーダ―さんが見かねたように
「私が持ちしますので」
着物を引き寄せ手早く綺麗に畳み持ってくれる。
「ありがとう 一人で軽く走って来るんで此処で待っていて下さい」
なにしろビーダ―さんは全身を重そうな武装具で覆われているので一緒に走って貰うには気が引ける。
「いいえ それでは警護になりません」
「でも走り難いんじゃ」
「お気遣いありがとうございます。 されど武人として鍛えておりますので」
「そうですか それじゃあ一緒に走りましょうか」
そう言えば俺も重装備で良く走らされたもんだ
それに神様なんだから身体能力も半端無いのだろう
「はっ」
そして湖一周を目指しマラソンを始めるのだった。
湖を周回する道は舗装はされていないが綺麗に整備され所々に花も咲いており正にマラソンを楽しむには最適のコース
これから毎日走ろう
何時もよりゆっくりのペースで走り対岸に離宮が見えて半分ほど走った頃に後を振りかけると涼しげで汗一つかかず余裕のビーダ―さん
対する俺は既に汗をかき着物は湿っている
少し悔しいので少しペースを速めるが……
ゼェー ゼェーィ ゼェーィ ゼェーィ
早々に息が上がってしまい途中でリタイアしてしまう
とうとう意地も尽きその場に座り込むと一気に汗が噴き出して玉のように滴り落ちて来てしまうほど
情けねぇーーー
「これで汗をお拭き下さい」
「ありがとう」
差し出された手拭を受け取り有り難く汗を拭くが目の前には湖
拭くより水で流そうと立ち上がり水に近づきそのまま顔を洗うと冷たい水が気持ちいい
バシャ バシャ
「ふー サッパリする」
どうせ着物は汗でベッタリなので脱いで袴の様なズボン一枚になリ手拭を水で濡らして絞って体を拭くのを繰り返す。
「あ~ 気持ちいい」
「弟君様 冷えますのでこれを着て下さい」
「ありがとう」
拭き終わると直ぐさま俺の体にさっき脱いだ上着の着物を肩にかけてくれるので手を通し羽織る。
人心地してビーダ―さんを見れば何故か視線を彷徨わせ落ち着かない様子ながら汗一つ見せず疲れている様子はない
「ビーダーさんは全然余裕ですね。俺なんか一周余裕かと思ったんですけど無理でした」
「私は亀族ですので。 弟君様は人間であらせますが体力がおありな方ですよ。 何か武芸でもやっておられるのですか」
「一応向こうの世界では一兵卒でしたけど軍人だったんです」
「弟君様が! 少年が兵として闘うほど戦乱の激しい世界なのですか」
意外そうに驚く
少年……
一体俺は何歳だと思われているんだ
「俺の国は戦争はないんですが外敵からの防衛として軍隊があるんでですよ。 それと これでも二十三歳成人してますんで……」
「!! 申し訳ございません」
ガバッ
又しても土下座
「この世界に来てからそう見られがちなんで平気っす。 それより喉が渇いたんでこの水飲んでも大丈夫ですか」
「それならば此方をお飲み下さい」
そう言って腰につるしていた金属の筒状の物を渡してくれ、どうやら水筒のよう
コルクのよう栓を抜いて有り難く飲まして貰うと水だが甘くておいしい
売られている飲料水とは全然違う
ゴクゴクと一気に飲み喉を潤す
「ぷっはーー 生き返るー」
「宜しかったら全部お飲み下さい」
「じゃあ お言葉に甘えて」
汗をたっぷり掻いたので体が水分を欲しがっており遠慮なく最後まで飲み干す。
ゴクッ ゴクッ ゴックン
「助かりました」
空っぽの水筒を返すと両手で恭しく受け取ってくれる。
明日からは自分で用意しよう
足はずっとシューズを履いていたので問題ないがここの服装は運動に向かないので明日からはジャージだな
「明日も走りたいんですけど一人じゃダメでしょうかね…」
出来れば一人で気軽に走りたい
「それは無理かと 警護なら私が致しますのでお気軽にお声をお掛け下さって結構です」
「なんか仕事を増やしちゃうようで悪い気が」
「遠慮など無用です。弟君様に助けられた命 如何様にもして宜しいのです」
真剣な眼差しで見詰められ男なのにドギマギしてしまうじゃないか~~~~
女なら確実に惚れてるぞーーー
全く自覚ない美形は始末に悪い
しかしそこまで感謝されるとは
あれぐらいの事で一族ごと罪に問われたのかと今さらながらに申し訳ない
悪いのは姫様だけど
ここは好意を有り難く受け取ろう
「そこまで言ってくれるならお願いしようかな」
「はい喜んで」
なにやらやたら嬉しそうにされ悪い気はしない
休憩を終えて離宮までは歩いて帰る道すがら横に並んで話しながら歩く
他愛のない会話を楽しみながら少しづつビーダ―さんの態度も僅かだが堅さが少し抜けて来るのでホッとする。
俺みたいな一般人に傅く美形神様なんて逆転した立場
はっきり言って肩が凝る
姫様のよに好き勝手貶められるのも辛いけどそっちの方が気楽だと思ってしまうのだから平民意識化染みついているんだよな~っと再認識
そして離宮の玄関まで送って貰う
「それでは明日も同じ時間に此方でお待ちしております」
「あっ はい お願いします」
目礼をして颯爽と戻って行く後ろ姿を見送りながら早く部屋に向かう
こんなだらしがない恰好をマッキーさんに見られては拙い
相変わらず人気のない入り組んだ廊下を少し急ぎ足で歩いていて角を曲がろうとした時
ドン!
「わぁ!」
「きゃっ!」
又しても誰かとぶつかるが
まさか!!
一度ある事は二度ある!!
顔を見れば
「マッマッキーさん!!」
そこには大きな箱を持ったマッキーさんが天使のように立っておりオロオロしている。
急いで肌蹴ている着物を掻き合わせて走ってぼさぼさのくせ毛を整えるがなんて間が悪いんだ~
会いたい時には会えず
会いたくない時に会ってしまう
チクショウーーー
神様のバカ!
「ケント様 二度も申し訳ありません」
「い いい いいえ 俺の方こそすいません」
「私ってそそっかしいもので直ぐ誰かにぶつかってしまうんです」
ドジっ子属性ですか
益々俺好み
大好物っす!
「気にしないでもいいですよ。 俺になら何回でもぶつかって下さい」
「まぁ… うふっふふ ケント様はお優しいのですね」
「やっ そんな~~ 」
目の前で天使が俺に微笑んでいる!!
この場で死んでも悔いがないかもーーーー
「それより着物が崩れてますが如何なされたのですか」
「あっ 少し運動をして汗を?いたんで下のを脱いでしまったんです。 お見苦しい恰好を見せてすいません」
「それは大変 では直ぐに着替えを用意しますのでお風呂に入ってはいかがですか」
風呂!
どうせながら背中を流して―――などと冗談でも言えないが
風呂には入りたい。
「はい」
「案内しますので此方に」
前を歩き案内してくれるマッキーさんの後姿に見惚れながら付いて行く
思わずこっそりクンクンと匂いを嗅ぐと甘い良い匂い
香水か何か付けてるんだろうか
後ろ姿もなんて可憐
ほっそりとした華奢な体
胸はあんなに大きいが腰は細いしお尻も小さいそう
一度で良いから抱きしめたい
姉ちゃんは恋人がいないって言ってたけど本当だろうか
こんな可愛い魅力的な女性を男がほっておくはずがない
今はいなくても以前はこの華奢な体を誰かが抱いた可能性もある
きっと亀族の美形にあんな事やそんな事をされていたに違いない!
羨ましい~~
一人妄想していると
「ケント様 此方でごゆっくり湯浴みをなさって下さい。 後ほど着替えを持って参りますので」
はっ!
穢れの無い純真そうなマッキーさんになんて失礼な事を考えてしまったんだ
俺のバカ!!
絶対に処女だ
永遠の乙女に違いない
「 ///ありがとうございます」
そのままマッキーさんは立ち去ってしまう
折角のチャンスでもっとゆっくり話したかったが服も髪もグチャグチャでその上汗臭いので仕方がない
「俺って異世界に来てまでついてね…」
だが今回はあまりどもらなかったので良しとしよう
今度こそはバッチリ服装をきめて気のきいた話でもしないと
着物を脱いで籠に入れて風呂場に入ると大きな浴場
湯気が立ち込め目の前には湖が見渡せる大きなガラス窓が嵌めこまれていた。
「すげー 高級旅館並みだな」
25メートルプール程の木の浴槽には乳白色の湯が満たされて木の良い香りが立ち込めていた
寮の古い共同風呂もここの4分の1もないのに、それを貸し切りとはなんて贅沢な
「泳げるんじゃね~」
かけ湯もそこそこに湯船に飛び込むと深さは1mしかないが泳ぐには十分
「これは泳ぐしかないよな」
密かにお風呂で泳ぐのに憧れていた俺
勿論ここは泳ぐしかないだろう
湯の温度も温めだったので俺はつい考えもなく子供のようにはしゃいで泳ぎまくってしまうのだった。
バシャン バシャン バシャ バシャ
「ひゅ~~ 楽しい!!」
クロールから平泳ぎを一通り楽しんでいると徐々に逆上せて来てしまった俺はヤバいなと思った時は時既に遅し
「うっう…… 眩暈がする~」
なんとからお湯から抜け出たまではよかったが
バッタン
その場に倒れてしまうのだった。
「ケント… ケント様…」
マッキーさんが俺を呼んでいる~~
きっと夢だ…
良い夢だからもう少し寝よう
「ケント様 大丈夫ですか ケント様」
また呼んでくれている。
「マッキーさん~」
俺は枕を抱き締めると確りとした弾力で触り心地がいい
「きゃっ! 」
そして悲鳴
あれ…
俺何時寝たんだっけ??
風呂に入っていて逆上せて……
あれれ
なんかヤバいような~~~
目を開けて状況を確認しようとすると顔を真っ赤にさせ俺を見降ろしている激可愛いマッキーさん
これはどういう状況だ
頭の下はどうやらマッキーさんの膝の上
つまり憧れの膝枕!!!!!!
そして手はお尻の方を触っており一気に血の気が引き急いで体を起こして飛びず去る。
「すっすいませ――――ん」
飛び去るとひらりと白布が舞い上がり床にハラリと落ちた
そして俺は全裸で愛しのマイエンジェルに自分の愚息を全開で晒してしまう
ギョォエーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
急いでしゃがみ込んで謝る
「ゴメンなさい!! 決して痴漢ではありませしぇん~~~~」
うっう~~ 泣きたい
好きな女性の前で何たる失態
ところがマッキーさんは恥ずかしがるどころか平然としており
俺を慰めるように
「ケント様 落ち着いて下さい。 私は同じ男ですから恥ずかしがる必要はありませんから」
同じ男??
マッキーさんは今そう言ったのか
幻聴??
「へっ 男??????」
「はい 今はこんな体ですけど以前は男でしたから」
何でもない事のように言うマッキーさん
「……そうなんですか」
「でも驚きました 着替えをお持ちしましたら浴場で倒れていたので失礼ながら介抱させて頂きました」
つまり全部見られているんですね
でも同じ男だから気にする必要はないんだよ……な
「それは有難うございました」
俺は上手くマッキーさんの言葉が消化できず取敢えず前を布で隠しお礼を言っておく
「着替えはここに置いてありますがお手伝いしましょうか」
本当は有り難い申し出
「一人で出来ますんで」
だが訳が分からないが今は一人になりたかった
「それでは後で冷たいお飲み物でもお持ちしますね」
以前なら天にでも舞い上がるほど胸が弾んだであろう優しい言葉だが
今は全然胸に響かない
「あっ…… いいです。 一人で部屋で考えたい事があるんで」
「それでは私はこれで失礼します」
ニッコリと微笑みながらその場から出て行こうとする
「あの マッキーさん」
つい呼び止めてしまう。
「はい」
振りかえるマッキーさんはヤッパリ超絶に可愛い
「色々有難うございました」
俺は頭を下げて礼を言う
「はい??? とんでも御座いません。 御用があればいつでもお呼び下さい」
戸惑った様子のままそう言い残して脱衣場から出て行くのを見送るのだった。
取り残された俺は暫らく放心状態
マッキーさんが男?????
とても冗談や嘘を言っている顔では無かった。
つまりあの巨乳は偽パイ
シリコンなのか??
異世界にもニューハーフが存在していたとはとんだ落とし穴
俺のマイエンジェルが人魚姫の泡のように消えて行く
束の間だが良い夢を見させて貰ったのかもしれない
俺は正座をきっちりとして土下座する。
「マッキーさん 良い夢見させてもらいました。 アザッスーー」
幾ら好みでも男だけはダメなんだ
さらばマイエンジェル~~~~~~~~~~
俺はマッキーさんへの恋を涙を流し諦めたのだった。