王様と弟
今日は驚くべき事が起った。
まさかミユキの弟が異世界より訪れるなど誰が考えようか
ミユキが落ちてきた同様天帝が落としたらしいが自分から望んでやって来たようだった。
初めはミユキの側に見知らぬ気配を感じたのだ
それは丞相と新年の二日目に王都でミユキの愛らしさを広める為に共に馬車に乗り祝賀の行列を執り行うのだが、その予定経路で揉めていた時だ
「陛下 この経路では丸一日掛かってしまいますので私が立てた予定経路で執り行います」
そう言って渡された王都の地図には王都の中心を通る大公道を皮切りに王都を周回する環道のみ
「却下だ! これでは王都の全ての民に愛らしいミユキを見せてやれないではないか!」
「 …… 無理です。そもそも全ての主要道を凱旋するなど気違いですかー 王妃様は人間ですので一日中馬車に乗るなどお疲れになります」
ミユキの事を言われると弱い
ミユキは華奢なので何時も抱く時は細心の注意をしている……心算だがつい我を忘れがちに暴走してしまい翌日はミユキは足腰が立たない程に攻めてしまうが最近では結構体が付いて来ているから大丈夫かと思うのだが
あまり負担を掛けない方がいいかと思い直した時
「仕方ない…… !! 」
「どうしたのですか陛下?」
「ミユキの側に知らない気配がする!」
「はぁ? 陛下…何時もそのように王妃様を探るような事をしておいでなのですか……」
「煩いー ミユキにいらぬ虫がたかったらどうするんだ!」
「はぁ……」
丞相ルイングゥイは内心立て食う虫は陛下ぐらいだと呟く
「こうしては居れぬ! 暫し休憩だ、この案儀は保留ししておけ」
そう言って瞑道を開けるや否や瞬く間に消えてしまうのをヤレヤレと見送る丞相だったが一体誰がミユキ様の側に居るのだといぶかしむ。
侍女に据えたフーラングゥイは有能で職務に忠実で信頼に足る人物
そのフーラングゥイが何の報告もなくミユキ様の側に近づける人物とは誰だと興味は湧くが何の連絡もなかったのも問題
「少し気が弛んでいるのでしょか…少々活を入れないといけませんね」
そう呟きながら山積みの書類を前に溜息をつきたくなるのを我慢するのだった。
そして急いで瞑道を出るとそこには男に抱きつき「健斗! 愛してる」と叫んでいるミユキ……
ガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン
あまりの衝撃に意識が飛びそうになるがその前に間男をこの手で縊り殺さねばと近ずくがミユキが庇うのでより一層嫉妬の炎で目の前が真っ赤になり間男の首に手を掛けようとした時
目の前に突然愛らしい幼子の絵姿
一目でそれが幼き日のミユキだと分る
髪を短く肩までしか無く紺色の奇妙な襟のついた上着と短い丈のひだのついた布を腰に巻いておりそこからほっそりとした生足が見えて何やら赤い鞄を背負っていて何とも愛くるしい
次々捲って行くと徐々に成長して行くミユキが現れ
こっこれはーーーーーーーーーーー ///
殆ど裸同然のあられもないミユキが(ワンピースの水着姿)
なんと破廉恥な!!
この絵を描いた絵師は即刻死刑だ!
夢中で見ているとミユキが返せと騒ぎ出し本物のミユキと絵のミユキどちらかを選べと言われれば仕方く泣く泣くミユキに返すがせめてもう一度目を通したかったが残念
意気消沈していると間男だと思っていたミユキの弟が何やらコッソリ渡して来るので見れば小さな紙片
「?…!!」
受け取り見てみるとミユキの国の言葉でもう1冊あると書いてあり一気に歓喜に変わり、良く見れば面差しがミユキに似ており可愛い少年
こんな可愛い弟なら大歓迎とばかりに茶を一緒に楽しんだ。
それから暫らくして王宮に戻るがあの絵姿集が手に入るかと思うと仕事がはかどり、ついつい時間を忘れてしまう。何しろミユキを玄新年に武国中に披露する大事な儀式
婚姻を盛大に祝えなかったのでミユキの晴れ姿を存分に見れ、きっとミユキも喜んでくれるだろう
しかしあのミユキの姿絵を描いた絵師は誰なのだろうか…出来ればミユキの着飾った姿を描いてほしいので向こうの世界から呼び寄せてもいいかも知れない
弟に相談してみようと考えながら仕事を片付けている内に何時の間に夜が更けてしまい離宮に戻ると寝台で本を広げたまま寝入るミユキ
本を読みながら待っていてくれたのだろう
起すのが可哀想なので本を片付けて布団を掛けるが寂しい
きっとこのまま抱いても怒らないだろうが昨夜も致したばかりだから無理をさせたくない
こうなると弟が持っているミユキの絵姿集が欲しくなり、心を躍らせながら弟を尋ねてみようと思い立ち直ぐさま瞑道を開けて弟の部屋に行く
しかし部屋は真っ暗で寝台でいびきをかいて横たわっていた。
「弟も寝てしまっていたか…」
だが見たくて堪らないので取敢えず肩をゆすり起してみる。
ゆさゆさ
「弟よ起きよ」
「むにゃ… マ…キィ… す… 」
なりやら寝言をを言いながら余の手を掴み頬を擦り寄せて来て驚くがまるで子犬が擦り寄って来るような愛らしさ
流石にミユキの弟、可愛いではないか!
黒い髪を撫ぜてみると短いがフワフワのくせ毛が柔らかく本当に子犬のよう
「 …… ん … ?? … 」
弟が薄っすらと瞼を開けた
「弟よ起してすまぬが…」
言葉を続けようとするが悲鳴で掻き消される。
「!! ぎゃぁーーーーーーーーーーーーーっ!!」
ズッザザッザーーーーーーー
ドッスン!
余程驚いた様で、飛び起き余から距離を取った所為で寝台から落ちてしまう
「大丈夫か?」
「俺は女が好きなんだーーーー! 変態!」
???
女が好き?
何やら勘違いしているらしく今だ真っ暗な部屋では人間の弟には見えないと思い至り直ぐに灯りを点ける。
「余だ弟よ」
灯りを点けて呼び掛けると寝台から恐る恐る顔を覗かせるが丸い黒い目が子犬のように此方を伺う
「おっお義兄さん!?」
「起してしまい済まない」
眩しげに余を見る弟は慌てふためき謝りだす。
「こっちこそすみません! 寝ぼけて…また夜這い来られたかと…」
どうやらミユキに似た愛らしさの所為で度々男に襲われているらしい
こんなに怯えて可哀想に
「そうであったか。心配せずともこの宮に余の弟に不埒な事をする者などいない。いたとしたら余が消し去ろう」
「ありがとうございます… アハハハハ… 」
可愛らしく(引き攣っている)笑いながら礼を言う
「それよりお義兄さんは今仕事が終わったんですか」
「ああ 新年の儀があるので準備で急がしてく今夜はミユキと食事もとれなかった」
「大変ですね… あっそうだ疲れているならこれ食べませんか」
そう言って何やら袋から取り出して余に勧めて来る。
それは四角い小さな粒で色取り取りの紙が巻かれた物を二十個ばかり寝台に並べる。。
「なんだこれは?」
「チョコレートって言うお菓子で疲れた時食べるといいですよ」
「ほー どれが一番美味しいのだ」
「俺のお勧めはこのミルク味です」
弟は小さな粒を一つ取り紙を剥くと余の口元に差し出す。
「はいどうぞ」
別段嫌では無く余はそのまま口を持って行き弟の指から直接食べるが……
もしかし余は誘われている?
口に濃厚な甘い味が広がり口に融け消えて行く
「初めて味わうが真に美味い」
「そうでしょ! 変わった新商品よりやっぱり定番が一番美味いんですよね~」
そう言ってニコニコ笑う弟の目には何の色も無く邪気もない
うーーむ… 本人にその気はないようだが何とも無防備で危なっかしい
ミユキ同様目が離せない
「それよりミユキの絵姿集を受け取りに来たのだが」
「あっ そうでしたね。 待って下さい」
菓子が入っていた袋を再びガサゴソと漁りながら本を取り出す
「どうぞお義兄さん」
早速受け取りじっくりと一枚一枚ゆっくりと捲り見始めるがどれも精巧に描かれている。
「おおおぉーーー このような素晴らしい土産は初めてだ」
「いや~~ そんなに喜んで貰ったら作ったかいがあります~」
「なに! これは弟が描いたのか!!」
「違います。 えーとですね… あっちの世界にはカメラと言う機械があってそれがあれば誰にでもこういう風景や人物そっくりに写し取る事が出来るんです」
「向こうにはそんな便利な機械があるのか!」
「はい 持って来ているんで実際見せますね」
またもや袋から奇妙な箱のような物を取り出す
そしてその箱をいじりながら丸いガラスが嵌った面を余に向け始めると何か音がする。
カシャッ
それから今度は以前ミユキの部屋で見して貰った小さなテレビが嵌めこまれた面を見せてくれる。
「ほらお義兄さんが映っているでしょ。 ……あれ? なんだか発光してぼやけてるな なんでだ?」
確かにぼやけているが余の姿を瞬時に写し取るなと正に不思議
「おお 余が映っておる!」
「本当はもう少しくっきり綺麗にとれるんだけど変だな? まっいいか~それにこれだと動画も撮れるんです」
「動画? 絵が動くのか!?」
「そうなんです。ようは連続した絵を撮って繋げて記録させて再生すると動いた映像になるんですよ。 こっちの姉ちゃんを撮って向こうの両親に見せようと思って持って来たんです」
何たる事だーーー これこそ余が求めていた物!
これがあれば色々なミユキを記録できる。
「弟よ! 」
「なっなんでしょう」
「この機械を余にくれぬか。代わりにそなたの望むものなら何でも遣わそう」
「なんでも!」
暫らく逡巡していたがガックりと肩を落とす。
「 魅力的な提案ですけど、これって電気が無くなると動かなくなるんでバッテリーにある電気が無くなれば写真も撮れなくなるし、写真を印刷する機械も再生する機械もないんでこれだけあっても使えないんですよ…」
良く分からないがこの世界で難しいようだ
「そうなのか…… だが電気とやらを我国で作れるならいいのだな」
「うーーん 太陽発電の装置をこっちに持ち込めば可能かも知れないけど向うの姉ちゃんが怒るかも」
「向こうの姉ちゃんとは天帝の事か?!」
「へーー 姉ちゃんって天帝様なのか~ 」
「何故天帝が怒るのだ」
「あっちの世界の技術は毒だからあまり知識をばらまくなって言われてるんで」
「そうであるか……」
天帝の意志を無視すれば余とて唯では済まないので諦めた方がいいだろう
「でも個人で楽しむだけなら向こうの姉ちゃんも許してくれるかも、今度掛け合ってみますよ」
「弟よ!」
ガバッ!
なんて可愛いんだろうと思わず抱きしめてしまう
抱きしめてみるとミユキとは違い細身ながら筋肉質な堅い体で矢張り男なのだと納得してしまうがツイツイ背中やお尻の方を撫でてしまう
「ヒィェェェ~~~~ お義兄さん 止めて下さいーー!」
余の腕の中でジタバタ暴れ出す弟
嫌がられると何故かムラムラと来てしまうのが男
少し悪戯心も働くが本気で嫌がっている様なので体を離すが普通なら男女関係無く嬉しがるのだがミユキ同様余の魅力が通じないのだろうか
「あまりに可愛いかったのでつい触り過ぎた 許して欲しい」
「 可愛い…… アハッハ…… 」
ガックリと項垂れるが直ぐさま顔を上げる。
「別段減る訳では無いんで…」
ヘちゃ~ と笑い許してくれるが疲れた顔をしており、睡眠の邪魔をしたのを思い出す。
あまり長居しても悪く、何よりミユキの姿絵を早く見たい
「それでは余は戻ろう。 ゆっくり休むがよい」
「はい。お休みなさい あっ 良かったら此れ食べで下さい 」
渡されたのは小さなお菓子達
それとミユキの絵姿集を大事に持って瞑道を潜る。
もう少し話したかったが二人きりだとどうも可笑しな気分になってしまうので早々に退散したほうが良さそうだ
しかし余は愛らしい妻と可愛い弟が持てなんと幸福なのだろう~~
来年は更に良い年になりそうだ。
手に持つ絵姿集をじっくり見る為に秘密の部屋と向かう亀王の姿は瞑道の暗闇の中でも更に眩く輝いていたのだった。