異世界トリップ三日目その六
俺は自分の部屋から別棟の離れのような建物にある姫様の部屋に向かうがフーランさんに書いて貰った地図がなければ迷子になっていた。
この離宮は一種の迷路のように作られており恐らく侵入者に対する対策なんだろう
そして幾つ目かの角を曲がろうとした時だった。
ドン!
「うわっ!」
「きゃあ!」
「ゴメン 大丈…夫 !! 」
「申し訳ありません弟君様 」
/// カ――――――――ッ!!
ぶつかった相手はマッキーさんだった。
「いっいっいいえーー まっマッキーさんこそ おっおっお怪我は…ないですか?」
駄目だーー 緊張しすぎて吃音になってしまう~~~
かっこ悪すぎ俺
「はい、お気遣い有難うございます。それより弟君様は何処も痛みませんか」
うおぉぉぉーーーー なんて優しい人なんだ
気遣ってくれるだけでも天に舞い上がるように嬉しい
「っだっ大丈夫です! 」
するとホッとしように微笑む
その笑みは正に天使のようで、それだけで昇天しそう
「本当に御無礼を致しました。それでは失礼します」
そう言って優雅に会釈して直ぐに立ち去ろうとするので急いで呼び止める。
「あっあのーー 」
「はい 若君様」
「おっ俺の事は健斗って名前で呼んで下さい!」
「 ?? ケント様で宜しいのですか 」
ケント様! なんか萌える~~~~~
「はっはい それでお願いします! それじゃあ俺はこれで」
俺は恥ずかしさのあまり急いでそのまま廊下を走り角で曲がると立ち止まる。
「やったー マッキーさんと話せた!! ケント様だって~~~ 俺どうしよ~ 」
嬉しさで身悶える俺を誰かに見られれば確実の変な目で見られただろう。
俺の初恋は幼稚園の渚先生(巨乳)だと思っていたが今が本当の恋で第二の初恋と言っていいのかもしれない。
俺は鼻の下を伸ばしながらルンルン気分で姫様の部屋へ歩き出すのだった。
長い廊下と庭を通り過ぎ漸く着いた建物には入ろうとすると綺麗な女兵士さんが二人立っていて警備と言うよりは看守? 何しろ此処に来るまで誰とも会わなかったから姫様の建物だけ警備するのは可笑しいし本殿からかなり離れた場所
まあ… 衛兵さん達を脅すような姫だから当然か?
女兵士さんは俺を見た途端に片足を地面につき跪く
「姫様に会いに来たんだけど通っていいかな?」
「「 はっ お通り下さい 」」
何れもかなりの美人さんで胸もあるが何故かときめかない
俺って結構一筋な人間だったんだと知る。
やっぱ本気の恋は今までと一味違う
そして女兵士さんの間を通り抜けそのまま建物に入って行くのだった。
王妃との昼食会を終えたミョンミョグゥイは疲労と胸やけを起こしながら自分に宛がわれた離れに戻る。
一応は客としてもてなされてはいるが女兵士に見張られ、離れから許可がなければ出られず監禁に近かった。ケントからは直ぐに引き離されてこの離れに閉じ込められた時は戦々恐々だったが王妃との同席を許された上に婚約の破棄の約束も取り付けられ守備は上々
少しぐらい対応が悪くても幾らでも我慢できた。
離れに入り自分の部屋に入ろうとすると扉が開きウェアーグゥイが迎え入れてくれる。
「お疲れさまでしたミョンミョグゥイ様」
「うむ 本当に疲れたぞよ…」
「その御様子なら上手くいかれたようですね」
「当然じゃ。妾の愛らしい姿に王妃様はメロメロじゃ」
「それは宜しゅうございました」
主の内掛けを脱がしてから手早く畳み衣裳棚に仕舞、簡易な薄衣の上着を代わりに着せる。
「それで王妃様はどのようなお方でしたか」
「……容姿は絵姿通りの凡庸でその上に品性も知性のかけらもないただの人間の女じゃ。 とても王妃には見えぬ」
「ほぉ……どのように?」
「先ず良く食うのじゃ、あの細い体のどこに収まるのかと見ている妾はそれだけで満腹になりそうだったが次々に妾の皿に料理を載せるから何時もの倍は食べさせられ、妾の大っ嫌いな魚料理まで食べさせられた!」
「それは災難で御座いました」
「しかも妾の体を抱き締めベタベタ触りおるのだぞ!」
「いいではありませんかそれくらい。王妃様のお陰で婚約が無くなるのですから」
「うっ…… そうなのじゃが亀王陛下は何ゆえあのような者を王妃に据えたのじゃ?」
「私如きが陛下の御心を推し量るなど出来ませぬが、先程陛下がこの離宮に忽然と怒気の神力を放ちながらお渡りになった時は驚かせられ、噂通り王妃様に執着されているのは確か」
「アレは凄まじかった…亀王陛下の放つ神力を感じた時は死を覚悟したぞよ。 妾が生まれるより前から亀のまま動かれなかった陛下を動かせるのは王妃しかいないと言う事じゃな」
「そうです」
「ふっふっふふふ~ 妾にも運が向いて来たようじゃ。 王妃様を妾に夢中にしてやろうぞよ」
「しかし陛下の気持ちが少し分かるような気もします」
「何がじゃ?」
「私も王妃様に似た御容姿のケント殿に妙に心惹かれますから 陛下も王妃様の何処か不思議な魅力に惹かれていらっしゃるのでは無いでしょうか」
「そなたまだ諦めておらぬのか」
「姫様の標的は王妃様に変更したのですから私がケント殿を口説くのは自由」
「駄目じゃ! 」
「何故です?」
「そっそれは…… そもそもケントは胸のでかい侍女に現を抜かしておったわ! 今思い出しても腹の立つ、折角綺麗に着飾った妾に声もかけず侍女の乳ばかり見て鼻の下を伸ばしデレデレついておった。 ケントのくせに生意気じゃ!」
「ああ… あの侍女ですか。 ケント殿の好みはああいう女性 成程… 」
「男のそなたでは無理であろう」
「王妃様の弟君ですから無理やり襲う訳にも行きませんし此処は諦めた方が無難でしょうね」
「そうじゃ。 だからケントに要らぬちょっかいを掛けるではないぞ」
「はいミョンミョグゥイ様」
素直に返事を返す従者を胡散臭く見るが本心かどうかは伺えない
なにしろ今までの色恋沙汰を知っているので些か不安
ん?
何故妾はこんなにケントを気にしなければならないのかフッと不思議になる。
たかが人間の男で妾にとって雑草に等しい存在のはず、王妃の実弟だからその存在が気になるのに違いない。
それにどことなく憎めない雰囲気だし、あの小さな黒い瞳が子犬のように可愛い
!!
妾は何を考えておるのじゃ……
一人狼狽していると下女が扉越しに声を掛けて来る。
「あの…弟君様がお越しですが…」
この離宮には女官がおらず王妃様の侍女が二人と下働きの年老いた人間の使用人しかおらず妾につけられたのは中年の女が一人っきりでしかも掃除婦!!
ウェアーがいなければ世話をしてくれる者がおらず困る所であった。
おしかけた妾に文句など言えないので我慢するしかない
その下女がケントの来訪を告げるので慌てる。
「直ぐ お通しするがよい」
ケントが来るなら内掛けを脱ぐのでは無かったと後悔するがこのままで迎えるしかないだろう
ウェアーが扉を開けるとケントがニコニコと機嫌よさそうに入って来るがウェアーを見た途端に廊下に戻ってしまう。
「ケントよ そのように警戒せずともウェアーは何もせぬから安心いたせ」
そう声を掛けると
恐る恐る扉から顔を覗かせウェアーとの距離を開けながら用心深く入って来る様は何とも滑稽で笑いそうになってしまう
「よ! 姫様 退屈だから遊びに来た」
「なんじゃそれはー失礼な」
「あれ? さっきの綺麗なの脱いじゃったのか残念、とっても似合っていたのに」
「むっ 別段そなたに見せる為に着飾ったのでは無いわ /// 」
プイッとそっぽを向く
今さら誉めるなど遅いのじゃ、本当に気の利かぬ男
「だよな~ でも姉ちゃんは姫様にメロメロだったし、これで嫌な結婚は取り止めになって良かったな」
「はい、ケント殿のお陰でミョンミョグゥイ様も嫌な婚姻を逃れられ感謝しております」
ウェアーが余計な事を言うのでむっとする。
妾とてちゃんと礼ぐらい言えるぞよ!
「フン 一応感謝はしておるが妾がおらねばケントも姉である王妃様にこれ程早く会えなんだ筈じゃ」
どうじゃ、ちゃんと言えるであろうとウェアーを見れば呆れた顔をしている。
何故じゃ?
「ま~ やり方はアレだったけど姉ちゃんに早く会えたのは姫様のお陰だ 有難う」
そう言って妾の頭を撫で完全に子供扱いをされるが何故かその手を払い除けれない
「むぅー 妾を子供扱いするな」
「悪い 悪い そうだ皆でこれ食べようと思って持って来たんだ」
そう言って取り出したのは奇妙な袋だが食べ物が入っているのだろう
「昼にアレだけ食べてまた食べるか!?」
「おやつは別腹。それに此れすげー美味しいから」
ケントから貰った菓子は確かにどれも美味しい。妾の贅沢な舌を満足させる物ばかり
満腹だが断然興味が湧いて来る。
「ウェアー 茶を用意致せ」
「はい」
ウェアーが茶の用意に席を立つとケントはその紙とは違うツルツルとした材質の袋の封を開けると香ばしい匂いがした。
袋を広げ中から現れたのは丸い薄っぺらい丸い物が何枚も入っている。
「なんじゃこれは?」
「ポテトチップスて言うお菓子でジャガイモを薄くスライスして油で揚げて塩を振った物だ」
「ジャガイモ? 知らんぞよ」
「そうか この世界には無いのかな? 取敢えず食べてみて」
ケントの勧められ一つ取ってみるとパリパリとし直ぐ割れてしまいそう
先ず一口かじってみると香ばしく程良い塩けが口に広がり何とも言えない味
改めてポテトチップを一枚を口に放り込んで噛むとパリパリとした食感が堪らない。
「美味しいぞよ!」
するとケントは嬉しそうに満面の笑みを見せる。
「そうだろ~ 俺もこれが大好きなんだ!」
大好き!!!
なんだか妾に向けられたように感じドギマギしてしまい、つい
「ふん! そのような見苦しい笑顔を向ける出ない!」
何故か心にも無い事が口から出てしまう
流石にケントの気分を害したかと心配になるが
「ちぇっ これでも普通の心算なんだけど… 神様はレベルが高すぎるんだよな~」
レベル?
あまり気にしていないようなのでホッとする。
「別にそこまで不細工では無いぞ……」
「本当! なら俺にも可能性あるかな」
「なんのじゃ?」
「俺さー 侍女のマッキーさんに一目惚れしたんだけど振り向いてくれるかな?」
照れくさそうにそう告白するケント
キィーーーーーーーーーーーー 妾を目の前で抜け抜けと
「絶対無理じゃ! 亀族の女が人間など相手にする訳なかろう! 己が命を削る愚かものがいるか!」
怒りに任せて怒鳴りつけてしまう。
「そっか… そうだよな…… 俺は人間だし結婚すれば相手の寿命奪っちゃうんだよな…」
シュンと沈み込んでしまう
「そうじゃ。人間と婚姻を結ぼうなどという亀族はほんのわずかじゃ。 ケントのような容姿も何もかも並みでは無謀と言うのじゃ」
「確かにそうだけど……姫様は容赦ないな~」
苦笑いを浮かべるケント
それでその話は絶ち消えてお菓子の話題にになったので恐らくあの侍女を諦めたのだろうとホッとする妾
そこへウェアーがお茶を持て入って来て三人でポテトチップスを美味しく頬張りながらケントの世界の話を聞く
ケントは話上手で色々な話をしてくれ久しぶり声を出して笑う妾。ウェアーとも何時の間にか内解けてしまい部屋に入るまでの警戒心をすかっり忘れている。
全く呑気な男じゃ
思えばこのように笑いながらおしゃべりを楽しむなど初めてかもしれぬ。
州知事の一人娘として周囲から特別扱いされ同じ年頃の龍族の姫とも妾の言う事を何でも聞くようなどちらかと言う友達では無く侍女と言った方がいい
そんな歪な関係では心から笑い合うなど無くせいぜい追従笑い
ケントは人間ながら面白い奴だから友として側に置いても良いかもしれぬ
それに王妃の弟ゆえ利用価値があるのじゃ
だからこんなに気になるのじゃな
そうに違いないと思い込むミョンミョグゥイだった。