異世界トリップ三日目その四
それから改めてお茶を飲む為に姉ちゃんが呼び鈴を鳴らす。
チリリーーン
もしかしてマッキーさんだろうかと襟元と髪を素早く整える。
ガチャ
扉を開けられ入って来た侍女を見ると
「お呼びでしょうか王妃様」
しかし現れたのはフーランさんの方
マッキーさんに会えると思ったのにガッカリしてしまう
「新しいお茶をお願い。それとマッキーにあの二人を呼びに行かせたんだけど」
「陛下がお戻りになった様なのでまだ別室に控えさせたままです」
「まだ誰かおるのか?」
「健斗を此処まで連れて来てくれた亀族の二人連れよ」
「何者だ」
「呈州の州知事の娘ミョンミョグゥイとその従者を勤めるウェアーグゥイと名乗る者達ですが、門番を脅して侵入し些か問題がありますのでこの場に呼ぶのは御一考された方が宜しいかと」
そうだった~衛兵さん達の事を忘れていた。
俺の所為で責任を取らせては可哀想
「あの~その件なんですけど門番さん達は全然悪く無いんで不問に付して欲しいんですが……全面的に俺達が悪いんですいませんでした」
本当は俺だって悪く無いと言いたいが、それでは姫様達がお咎めを食らいそうで仕方なく一蓮托生…まぁ…姉ちゃんに頼ろうと言う甘い考えがあるからする。
三人に注目されながら王様にペコリと頭を下げるが
「どうやらあの者達は弟君様に剣を向け脅した模様です」
うわ~~フーランさん余計な事を言わないでくれよ
「俺です。俺が無理やり入る為の狂言だったんだ」
何とか誤魔化そうと全ての罪を俺が被る。
俺ってなんて良い奴なんだ……
「そんな悪い子達には見えないかったし、私も健斗に会えたんだから皆を許してあげて」
姉ちゃんナイスフォローだぜ
「ミユキがそう言うのなら全員許そう」
すげえ姉ちゃん……鶴の一声
これなら王様を操ってこの国を牛耳れるんじゃないか
「僭越ながら陛下 あの者達とお会いになさるのは丞相様のお耳に入れてからの方が宜しいかと」
「うむ 暫らくその者達をこの離宮に滞在させ様子を見よ…不審な動きをすればそなたの好きにいたせ」
「御意に それでは新しいお茶を御用意して参ります」
うっう~ なんかカッコいいな~フーランさんて
なんか男の俺でも憧れちゃう理想の男?って感じかも
「私は会っちゃ駄目? 偶には他の話し合い手が欲しいの」
「まあ…姫の方ならば会っても構わぬが今の侍女を常に側に付けよ」
「うん!有難うチョンマゲ」
チョンマゲ…
聞き間違えかと思っていたがヤッパリ王様をそう呼んでいるがその容姿と名前のギャップが激しすぎる!
「お義兄さんの名前はチョンマゲって言うんですか?」
何気なく聞くと
キョどる姉ちゃんと嬉しそうな顔をする王様
「 本当の名はチョングゥイだが、チョンマゲはミユキが付けてくれた余の愛称なのだ」
「 …… へー そうだったんですか。 お義兄さんはその意味を知ってるんですか」
「ミユキの国に伝わる伝説の美男の名前で男性に対する最高の美辞麗句なのであろう」
姉ちゃんを見やれば必死に黙っていろとその目で訴えかけている。
「その通りですよ! いや~ 俺もチョンマゲと呼ぶにふさわしいと思っていたんですよ― アハハハ…」
酷いぞ~姉ちゃん
こんな綺麗な人に嘘を言ってチョンマゲ呼ばわりするなんてどんな神経
どんな経緯があるかは知らないけれど本名で呼んで上げて欲しいと切実に思う
それから上機嫌な王様は王宮に戻っていく。何でも新年の用意で忙しいらしくお茶もそこそこに王宮に戻って行った。
その時に壁にポッカリと穴が開きそこを潜る王様を見送る。
「あの穴って何?」
「空間と空間を繋いでるらしいわよ。所謂どこでもドアね」
成程 だから王様が突然現れたのかと納得
「ところで姉ちゃん お義兄さんにチョンマゲは無いんじゃないか?」
本当の意味を知ったらどうするんだよ…
「仕方ないでしょ。チョンなんとかって舌噛んじゃうし、最初は強姦魔なんかそれで十分だと思ってたらそのままズルズルと~何時の間にか固定しちゃって」
テヘッっと笑って誤魔化すが強姦という言葉に息を飲む
「っ…… 無理やりだったのか 」
「言葉が通じなかったから意志疎通が出来ない所為もあるんだけど異世界トリップでは良くある事でしょ」
あっけらかんと言う姉ちゃんだが俺は些かショックを受ける。
あくまでも小説はフィクションであって実際にあった事ではないから楽しめる
だが実の姉がそんな目にあったのかと思うと今はラブラブらしいが複雑な感情が生まれる。
「くっそ 俺が代わりに落ちてれば 」
俺なら男だしそんな目に遭わなかっただろうし女の子に襲われるなら本望だった。
「バカね~ 私が落ちたのはチョンマゲの上よ。 健斗が落ちてたら確実にチョンマゲに一目惚れされて掘られてたわよ」
楽しいそうに笑いながら言う姉ちゃん
好きだよな…そう言うネタ
「うっ! 俺みたいな男を襲う訳ないだろーー 男に襲われるのは美少年と相場が決まっているんだ!」
「知ってるのよ~」
意味深に哂う姉ちゃん
「なっ何を…」
嫌な予感
「麻乃ちゃんから聞いたわよ。イケメンのお友達に襲われたって」
麻乃ちゃんとは俺の腐女子な友達
「何で姉ちゃんが彼女を知っているんだ!?」
「たまたま実家に戻ったらあんたの本を返しに来た麻乃ちゃんと意気投合してメアド交換してから時折メールし合う仲だったの。 可哀想に吉田君はあんたに避けられ女遊びが激しくなて可愛い女の子を食いまくって被害者続出だって」
なんだそれわ!
全然可哀想じゃ無いじゃないか!!
一人も女の子を食えない俺の方が余程可哀想だ~~
しかし知らなかった…腐女子の情報網を舐めてはいけない
「俺はノーマルだから男は絶対に無理」
「でも彼女出来ないんなら彼氏でもいいじゃない」
とんでもない発言をする姉ちゃん
「それなら一生童貞のままでいる!」
思わず口が滑ってしまう。
「童貞…やっぱり… でも痩せて締まった体してるし顔も不細工じゃないんだから頑張れば彼女の一人ぐらい出来そうだけど?」
「知るか! 俺だって合コン頑張ったんだ」
「より好みし過ぎたんじゃない?」
「する訳ないだろ。胸で選んで顔は二の次で攻めたんだけど全敗……俺ってそんなにイケてないのかな…」
落ち込んでくる
「相変わらず巨乳好きね。 その合コンメンバーって何時も同じ?」
「いや大体違うけど そう言えば女の子を引っ張るのに餌にしてるイケメンが何時も居たな」
「仲良かったの?」
「俺イケメン嫌いだから挨拶する程度」
吉田の件以来イケメンの友達は作らないと決めた。
「つまりそのイケメンが女の子を一人占めしちゃうから」
「いんや… そいつ結構世話好きで女の子と他の男の間を取り持ったり、その場を盛り上げて皆で和気あいあい楽しむタイプだから合コンで引っ張りダコ でも今思えば俺には一人も取り持ってくんなかった。 そう言えば一度だけ合コンの帰り俺が狙っていた娘とホテルに入って行くのを目撃した時は爆死しそうだったけど……」
ああークッソーーー あの大きな胸に顔を埋めたかった~~~~
途中まで上手くいって手応えを感じてたのに…トイレに行った隙に他の男と話していて結局一人もゲット出来なかった俺は一人寂しく寮に帰る途中に運悪くそれを目撃してから二度とこいつの行く合コンには出まいと決意したのに何故かいるんだよな?
「ふ~ん そのイケメンとは他に接点は」
「全く部隊も寮も違うし会うのは合コンぐらいか? 何でそんな事聞くんだ?」
「それって間違いなくそのイケメンがあんたの邪魔してたのよ」
「はっ? 何のために」
「勿論そんなの健斗を好きだったからよ! あんたって男受けがいいから!」
ぎっく~~
確かに男から数度狙われたが何れもマッチョ系な男達であいつはイケメンスポーツマンタイプで女と寝ている……否 待てよ 俺を襲った吉田はチャラ系イケメンで数人の彼女が居たな
ハッ! そう言えばトイレに行くと必ずあのイケメンと鉢合わせになっていたような
まさかな……
違うよな?
絶対違う事にしておこう……
「姉ちゃんの思考は偏ってるんだよ。 それって腐女子的願望だろ」
「まあね~ そうだったら面白いなって妄想よ」
「俺をネタにするな!」
「ゴメン ゴメン …… でも良いわ~ こういう他愛もない会話 」
「?」
「王妃なんて大層な立場だと気軽な会話って楽しめないのよ。 会う人間は制限されるし自由に街も歩けないんだからストレスが溜まるちゅうの」
確かに王妃様なんて姉ちゃんの柄じゃないだろう
「そうか… 俺で良ければ何時でも話相手になるよ」
「有難う。 それより何時まで此処に居るの?」
「嫁さん捜しが目的なんだけど人間の嫁さんなら日本に帰るけど亀族の嫁さんならこの世界に住む心算なんで宜しく。 因みに向こうの姉ちゃんと親父達とも話はついているから」
「其処まで考えていたの… ハーレム作る心算なら叩きだそうと思ったけど 真面目な婚活なら協力はしてあげる」
「 …… アリガトウ… 」
ヤバかったーー
ハーレムなんて言ったらマジで叩き出さるとことだった。
姉ちゃんはやると言ったらやる人だから怖い
それからもお互いの近況を話し合い会話を楽しんでいる内にフーランさんが昼を知らせにやって来る。
「王妃様 昼食の御用意が出来ましたが如何致しますか」
「もうそんな時間。 今から食べるけど チョンマゲのお許しも貰ってあるからあの姫も呼んで」
「はい分りました」
そう言えば姫様の存在をすっかり忘れてしまっていた。
姫様の婚約相談を頼まれていたが今より昼食後にでも一緒に相談した方がいいだろう。
姉ちゃんと姫様
一体どんな会話が繰り広げるのやら
姫様も結構強かだしあの容姿を使えば姉ちゃんはメロメロだろう
昔から綺麗なお姉さんや可愛い女の子には目が無い人でレズ疑惑を俺は疑っていた
しかも悔しい事に俺より恋愛シュミレーションで難しいキャラを簡単に攻略してしまう腕前
無駄な特技だけど
そうだ!
婚活を応援してくれるらしいので、この際マッキーさんの攻略法を指導して貰おう
ラノベだと絶対俺に惚れるはずだが
リューリンさんの時もフラグが見事折れてしまった例もある。
やっぱり現実はそう上手くいかないのだろうか
そうなると異世界トリップは無駄?
いや! マッキーさんに巡り合っただけでも価値はあった。
可能性は無い訳では無い
きっと異世界トリップの恩恵はあるんだと思い込むしかないのだった。
男の子をメインに持ってくると腐女子的になってしまう…一種の病気のようなものなので治りません。