異世界トリップ三日目その一
翌朝は日が昇ると同時に起こされる事は無くゆっくりと寝る事が出来て壮快に目覚める。
「ふゎ~~~ 良く寝た……」
欠伸をしてボー――としていると
「お早うございます。 ケント殿 こちらでお顔をお洗い下さい」
「イッ!!」
声のする方を向けば変態従者が水差しを持ち洗面器の中に水を注いでいる姿
「何故 あんたがそこに居る!!??」
「どうか私の事は親しみを込めウェアーとお呼び下さい」
そう言いながら微笑む姿は美形だけあって男でも見惚れそうだが俺にはナメクジ男にしか思えない。
「勝手に部屋に入るなよ」
確か鍵は掛けて寝た筈なのに油断も隙もない。何しろ神様だから何でもありなのか
「そのように警戒されなくても何も致しませんから御安心を」
胡散臭く微笑む
「本当に?」
「王妃様の弟君に手をだす程愚かでは御座いません」
そうか…姉ちゃんは王妃だからそう簡単に手出しは出来ないかと思うが
問題は姉ちゃん
確か少し腐女子の気があるのでこの事を知れば反対にこいつを焚き付けそうで恐ろしい
高校生の頃はオタクの腐女子の友達もいたが思考が可笑しい!
自分の恋愛より近場の男子達で妄想を繰り広げた上にそれを漫画や小説化して楽しんだ上に実際にくっつけようと画策する恐ろしさ
俺の唯一のイケメンの友達の吉田も彼女の小説の主役を勤めその毒牙にかかる。
『 健ちゃん これ読んでみて感想聞かせて 』
そ言って彼女に渡された小冊子。 俺は純文学は無理だがBLは好きではないが相手役を女だと思えば読む事は出来た。
しかし読み進める内にその本を破り捨てたい衝動にかられる。
一応名前は変えられているがその設定が正に俺と吉田
『 なんじゃこりゃーー! 何で俺が受け!』
『 最近美少年飽きちゃって健ちゃんみたいな子ブタちゃんも良いかな~って。 因みに吉田君にも同じ本を上げておいたよ 』
そう言って微笑む彼女は小悪魔のように可愛いく小説のネタに使われてもつい許してしまう。
しかしそれから吉田の様子が可笑しくなり最初は避けられるようになったかと思うと次は嫌にボディータッチが頻繁になりその目が怪しく獲物を狙うオオカミ
だが気の所為だと俺は思った。
『 健ちゃん 私 吉田君に相談されちゃった 』
『 何をかな…… 』
『 吉田君 健ちゃんを好きになっちゃたんだって~ だからアドバイスしておいたから気お付けてね! 』
一体何をアドバイスしたんじゃ!
しかし 一応忠告してくれたのは彼女の最後の良心だったかもしれない
それにアホな俺はその忠告を無視して吉田の部屋に遊びに行ってしまった。
だって有り得ねだろ~~ リアルで男に襲われるなんて!
しかも吉田はイケメン! 隠れオタクではあるが可愛い彼女が数人いるモテ男
吉田が手に入れた18禁のエロアニメにつられ行ったところ見事襲われ必死に抵抗して命からがら逃げ出しそれ以来友達を辞めた。
だが彼女とは友達は続ける。
何故かって? 彼女は胸も大きくって結構タイプだったんだよ~付き合って貰えないが友達のポジションは捨てがたい
オタクな俺には貴重な女友達なんだ。
彼女には襲われた事を話すと嬉しそうにしていたが二度と俺をネタに書かない事を約束させ、自衛隊に入ってからも頻繁に会うけど恋愛には発展しない。
俺はネタには使わないが自衛隊の話を良く聞きそれをネタに自衛隊ものの同人誌を書いて結構売れてプロになる話も出てるらしい
腐女子の恐ろしさを身にしみて分かっている俺
絶対に、こいつの事は姉ちゃんに悟られてはいけないと心に決める。
そして俺は変態従者に用意した水で顔を洗いそして服を着替える時流石に嫌で昨日の宿の従業員の少年を呼んで着せて貰いながら着方を覚えるが今回は割かし簡易な服
ズボンも裾の窄まった物に上着も膝下辺りで動きやすい
朝食は部屋で一人で簡単に済まさせて貰いリュックの中を整理して出掛ける用意を済ませると例の如く変態従者が呼びに来る。
「ケント殿 出立の用意はお済ですか」
「ああ 何時でも出られます」
「先程聞くのを忘れたのですが乗馬はお出来になりますか」
「一応乗れる程度なら出来るけど」
姉ちゃんのアドバイスで乗馬クラブに入っていたので馬なら乗れる。
「ならば大丈夫ですね。馬を用意しましたので早速出立しましょう」
馬で行くなんて風情があっていいな~と最初思っていたのだが
奴に連れられ宿屋を出ると二頭の馬の前で待つ姫様
それを遠巻きにする街の住民達
「何おしておるケント! 遅いではないか妾を待たせるなど言語同断」
俺達に気付いた姫様は朝からテンションが高い
しかし女の子の方が支度に時間が掛かる物だが姫様は違うらしい
「姫様お早う~ 待たせて悪い。 今朝もとっても可愛いな」
一応誉めておく
「フン! 妾が可愛いのは当り前じゃ」
プイと横を向く
どうやらお気に召さなかった様だが俺にはこれが精一杯だぞ
そして姫様の背後の馬を見て慄く
何?? この馬??
はっきり言ってデッカい
正に北斗の拳のラオウ様が乗っている馬のように普通じゃない
肉食系の馬って感じで俺食べられるんじゃないかと言う迫力
「これ馬?」
「当り前じゃ 馬でなくなんじゃと言うのじゃ」
姫様は当然の如く言うが俺には恐ろしい猛禽類に見えるぞ!
馬は優しい目をしてるんだ!
決してこんな恐ろしい猛獣の目はしてねーーー
「この馬は天馬といい普通の馬と言う訳ではありませんよケント殿」
「天馬? 空でも飛べるの」
「いいえ 流石に空は飛べませんが走る速度は凄まじく一瞬で山を越えるほど」
「それって振り落とされない」
それってバイクより早いの?
通常の乗馬もそれなりに体力がいるのに更に早いって体が持つだろうか
「人間には無理ですが我々亀族なら乗りこなせます」
「それじゃあ俺どうするんだ……まさか……」
「ケント殿は私と同乗して貰い背後から確り支えますので御心配なく」
ひぇーーーーーーー!
そんなねっとりとした目で俺を見るな!!
真っ青に怯える俺を更に不穏な眼差しで見て来るのでマジ怖えーーーー
絶対無理~~~~
俺は断固拒否する!
「安心いたせ 妾と乗るが良い」
「有難う姫様!!」
思はず拝んでしまう。
それから馬に乗ろうとするが普通より高い位置に鞍があり男の意地で何とか一人でよじ登ると結構高く見晴らしが良く、普通乗用車とダンプ程の違いはある。
そして姫様は空中を舞うように飛び上り俺の前に簡単に跨ると手綱を俺に寄こす。
「そなたが操縦いたせ」
「えっえー 俺は普通の馬しか走らせた事無いんだけど」
「操縦は普通の馬と変わらん」
「それでは出発致しますよ」
変態従者がそう声を掛けて来ると周囲のギャラリー達が更に後ずさり広い道を歩く人々も両脇に下がり始める。
??
「サッサと走らせよ」
「ああ……」
姫様に急かされて足の腿で馬の腹を押えるとフット体が浮いたかと思った瞬間に視界が変わり麦畑を走っており後を向けば街が見える。
「なっなっなんだ????」
高速で風景が変化して行き街道を歩く人々が制止する横を避けながら走り去る馬
振り向けば突風に飛ばされ倒れそうになる旅人達が見て取れる。
かなりのスピードで走っているはずなのに何故かそんな気がしない
「どうしたのじゃ」
「何で風圧を感じないし風を切る音もない???」
全く体には空気抵抗など感じず少し揺れる椅子に座っているだけ様に感じてしまう
「妾が神力で消しておるのじゃ」
自慢げに言う姫様
「すげ~ 小さくっても神様なんだな」
ナデ ナデ
俺は感心して頭を撫でてしまう
「子供扱い致すな! ケントより年上ぞ」
いやだって見た目十歳だし
俺的に胸も無いのに大人扱いは出来ないぞ
何時の間にか前を変態従者が馬を走らせている姿は正に優美で絵になり俺とはえらい違い
女なんてよりどりみどりなはず
「因みにあいつは男が好きなのか?」
暇つぶしに聞いてみる。
「ウェアーか まさか興味があるのか?」
何故かムッとする。
「いや 被害に遭わない為の調査」
「それなら教えても良いぞよ。 あ奴は男色家で女は全く受け付けぬので側に寄らぬ方が良い。好みは美少年で特に生意気な少年を従順に調教するのが趣味じゃ」
「げっ……最悪な趣味」
美少女なら調教したい気もするけど調教なんて人間としてどうなんだろう
「しかし 美少年なら何故俺が狙われるんだ??」
「妾にも良く分からぬが何でもケントの怯えた表情が加虐心をそそるそうじゃ」
「はあ~? 」
俺のおびえた顔
よくわからないが奴の前でやたら怯えるのは止めておこう
「一応 妾が牽制しておいたが腹黒い男じゃから油断するでない… ウェアーに食われると男なしではいられに体にされるらしいぞよ」
「うっ それはエグイ」
十歳ぐらいの少女から語られる内容ではないがより一層おぞましさが増すのは何故だ
「あんなのが従者で良いのか?」
教育上良く無いような気がするんだが
「美しい妾には手をださない男として信用置けるし、アレで有能な男ゆえ重宝しておる」
嫁入り前の姫様に悪い虫が付かない為の虫よけでもあるのかも
反対に食われる男達が憐れすぎる
そして天馬が走るに任せていると街道から逸れて森に入って暫らく走らせ抜けると大きな湖に出る。
湖は美しい緑の湖面に太陽の光で輝き遠くに大きな平安時代の貴族の王宮のような建物が見えて来た。
「アレが離宮?」
「妾も此処に来るのは初めてじゃ。 亀王陛下の許しがなければ近ずくことすら許されん」
「エッ!? 俺達大丈夫」
「何の許可も無いのだから結構危ない橋じゃ。 ケントには感じられぬかも知れぬが湖全体に結界が張られておる」
「そんなんで俺は姉ちゃんに会えるのか??」
俺はてっきり亀族である姫様に付いて行けば簡単に会えるものと考えていた。
「亀王陛下の溺愛する王妃に会うにはそれなりの手続きやら色々時間が掛かってまどろっこしいのじゃ。 そもそもケントを他の亀族どもに会わせては奪われて妾は放り出され蚊帳の外。 折角天帝様が妾に遣わしてくれた切り札、おめおめ渡せぬわ」
「切り札? 姫様は何か目的があったのか」
「妾の目的も王妃様に会う事。ケントと同じなのだから別に良いであろ? お互い利害が一致しておる」
確かにそうだが十歳位の少女に言われると軽くショック
穢れを知らなさそうな可愛い顔からこうまで世俗にまみれた言葉が発せられると夢が壊れると言うかなんというか……
「でもどうやって結界を抜けるんだ?」
「結界の入り口を守る門番に直接交渉する。ケントの顔があればイケると思うのじゃが」
「門前払いされたらどうするんだ」
「強行突破じゃ!」
「マジですか~~~」
なんて無計画な
ヤッパリ子供の所為か???
此処は有能な変態従者が頼りだ
奴の後姿を見ながら姫様よりましな案をだされるのを願うばかりだった。