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玄武国物語 「私と王様」  作者: 瑞佳
第3章 弟襲来 
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異世界トリップ二日目その三






二人で暗い森の中を只ひたすら歩くがさっきの暴走で半分近い体力を使ってしまった俺は姫様に休憩を申し出た。


「姫様、俺は休憩したいんだけど」


「無理じゃ。チンタラ歩いていては街に着けぬ」


「甘いお菓子があるんだが残念だ」


「仕方がないのー 少しだけじゃ」


やはり女の子、甘い誘惑には勝てない


俺はリュックを下ろして中からどら焼きを取り出す。これは姉ちゃんの大好物でお土産に二十個持って来たのだが予定に反し直ぐに対面出来なかったから二個ぐらいいいだろう


ビニールで個別包装してあるのを一個渡すと繁々と眺めている。


「袋を破ってから食うんだ」


「それ位分っておるわ! ただ珍しい物に包んであるから見ていただけじゃ」


俺は地面に座り姫様にはリュックの上に座らせて二人で食べる。


俺が美味しそうに食べるのを確認してから恐る恐る一口食べるとあっと言う間に食べてしまう。


「まずまずであった。 妾はもう一つ所望する」


「悪いが姉ちゃんの土産の分だから他のをやるよ」


そう言ってイチゴミルクのアメを三個掌に載せてやる。


最初は不満そうにして受け取るが一つ口に入れると直ぐに機嫌を良くしあっという間に三個のアメを舐めてしまう。


「このアメは何処に行けば手に入るのじゃ」


余程気に入ったようだが買うのは無理、なんせ異世界のお菓子だからな


「玄武国では絶対に手に入らないから諦めろ」


「妾は亀族の姫、手に入らぬものはない」


「日本で売ってるから捜して見れば」


「日本? 初めて聞く地名だ」


「知らないのか?」


「妾に分らぬ事など無い!! 日本など造作もなく捜せるわ」


「うん 姫様なら捜せるはず。頑張れよ」


俺も性格が悪いと思いつつもからかってしまう。どうせ直ぐ分れる間柄だしアメの出所を話すのも面倒だ。


それに嘘では無い


ついでに水分補給をすると姫様の荷物は何も無く手ぶららしく水を1本分けてやるとこれまた大騒ぎ


「この器は何で出来ておるのじゃ? ガラスの様に透明でありながら薄く柔らかいとは不思議な素材」


「それも日本では珍しくないものだ。さっきのアメ同様簡単に買えるぞ」


「日本か! 絶対捜し出してやろうぞ」


「しかし水も食料も持たず良く此処まで歩けたな」


「妾は亀族ゆえ別段呑まず食わずでも一年以上は普通に生きられるのじゃ、人間の様な脆弱な体は持っておらん」


「でもまだ成長途中だろ、確り食べないと駄目だぞ」


そう言って頭をポンポンと撫でるとまた真っ赤な顔でプイッと顔を逸らす。


う~ん これはツンデレの初期症状だろうか……これ以上懐かれるのは危険だ早く撒こう。


この世界に来て子供ばかりに懐かれても嬉しくない!


幼児趣味のような極悪変態だけにはなりたくないもんな――姉ちゃんにもそっちに走ったら縁を切ると断言されてしまっている。


そもそも俺はおっぱいが重要で顔は二の次


向うのリアルではトコトンもてなかった俺


自衛隊の時も一応合コンも積極的に参加した。高校のポッチャリ体型の時ならいざ知らず自衛隊で鍛え締まった体と地味ながらスッキリした顔は普通レベルになりこれなら少しは需要があるはずと顔は二の次で胸だけで女の子を選んだが全て玉砕


なのに俺より不細工な奴が女をお持ち帰りってどうゆう訳だ??


俺のどこが悪いんだと悩んだすえ、やはり俺には異世界トリップしか無いんだと思い至った。


これだけの美少女が俺に懐き始めたのだから幸先は悪くないはずだ


「何を気色悪い顔でニヤついておる。サッサと出発じゃ」


「うっ そうだな…」


不細工やら気色悪い、歯に衣着せぬ言葉に俺の心は擦り傷だらけ。姫様の教育係に文句を言ってやりたいぞ


そしてトボトボと姫様の手を引きながら歩く事一時間あまり漸く森の出口が見え始め安心したその時だた


目の前に三人のガラの悪そうなオヤジが森の茂みから飛び出し立ちはだかる。


体格は俺より遥かに大きく手には剣を持っており顔も如何にも悪人面


「こりゃあ綺麗なガキじゃねいか。男の方も奴隷として売れそうだが珍しい黒髪に目か~細身だし娼館に高く売れそうだ」


娼館!! 何で俺がそんな所に売られる?? 男は買う方であって売れねえだろ!?


「怪我したくなけりゃあ大人しく捕まりな」


なんてお約束な展開だ


姉ちゃんに会う前に死亡フラグ発生


小銃の一つでもあれば切り抜けれるがナイフ一本で三人は無理


此処は森の中に逃げるしかない


「おい 逃げるぞ!」


手を引き森に入ろうとするがビクとも動かない姫様


「捕まったら売られるぞ!!」


「妾は逃げぬ! このような輩に背を向けれるか 妾は亀族が姫と知っての狼藉かー 許しを乞うて逃げるなら今のうちぞ」


「うっひゃあーひゃあーひゃー 大ボラふくなよガキ! どうせお前等二人はどこぞの亀族の庶子で家を追い出されたに決まってる」


「それとも売られそうになって逃げて来たのか」


「亀族の姫が御供一人でこんな所にいるはずないぜ」


男達は嫌らしく笑いながらジリジリと迫って来るが姫様は逃げようとせず真直ぐ男達を見据え怯えてすらいない。


仕方なく腰からナイフを抜いて構え一人ぐらいはやれるだろう


後は姫様の能力次第だが本当に大丈夫なのか


「最後の忠告ぞよ、手を引け下種共」


オイオイ 煽ってどうする!?


「このガキども たっぷり可愛がってやるぜ! 取り押えろーー」


ええっ~~  そういう意味でそれって俺も入るのーー??


三人の男達が一斉に掛かって来るので身構えるが


「死ぬが良い」


姫様は今までとは違う冷酷な笑みを浮かべながら掌を山族達に向ける。


なんかマジっぽいぞ!


掌が光り出すのを見て慌てる。


「止めろ!」


ガバ!!


ドウッカーーーーン!!!!


咄嗟に姫様の手を押えて下げさせると爆音と同時に砂煙と石の破片が降り注いで来る。


砂煙が治まると石畳の道に大きな穴が開いており向う側には三人の山族は真っ青な顔をしてガタガタと震え腰を抜かしていた。


「おい殺す気か!」


「何故邪魔をするのじゃ。このような輩は生きていても何の価値もない害虫と同じ」


まー確かにその通りなんだが、日本で生きていた平和ボケの俺には目の前で人が殺されそうになっているのに見過ごせないんだよ


しかし据え恐ろしい姫様


人間の命なんてこれっぽちも惜しんでいない


神族なんてそんなものなのか


「悪人だからと言って直ぐ殺しちゃいけないだろ。法で裁かれて罪を償う手続きが必要だ」


「まどろっこしい…… どうせ何人もの旅人の命を奪ってきた悪人で死刑は確実じゃ」


取敢えずこのまま山族を放置しては迷惑なのでリュックからロープを取り出してエビぞりの姿勢で男達を次々と縛りあげるが何の抵抗も見せず恐ろしげに姫様を警戒して震えている。


しかしオッサンを縛っても全然嬉しくない!


どうせならロリ顔巨乳を亀甲縛りに出来るなら死んでもいいぞーーーーー


想像するだけで鼻血が


「どうするのじゃ?」


「街で役人に教えて引きとって貰う」


「それまでこの体勢で放置か。ケントも案外えげつないの…… 」


そうだろうか? 命を助けてやったんだから優しいだろ俺


「俺って優しいよな」


山族達にそう問いかけると真っ青な顔ながら頷いてくれる。


言うなれば命の恩人だぞ


「それじゃあ役人が迎えに来るから大人しく待ってるんだぞ。暴れれば暴れるほどロープは締まるから一応忠告ね」


それに軍使用の特注ロープで滅多に切れない


「ケントは何が武術の心得があるのか? 結構人の扱いに馴れておるな」


「一応五年ばかり軍に居たんだ」


「軍に五年! 一体ケントは何歳だ?」


「二十三歳だが」


「何ーー!! 妾はてっきり十五歳くらいだと思っていたぞ」


十五才!!? 多少童顔に見られるがそれはないだろ


確かにリューリンさんも大人ぽかったが…もしかすると年下だと思われていたんだろうか


地味にショックだ


もしかして俺って女性に子供扱いで相手にされない


ガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン


意外な事実


失敗だーーーーーーーーーー!!


これなら後十年待った方がいいのか


それじゃあ三十三年間童貞で自衛隊で頑張るのもいやだぞー


防衛大でも卒業すればそれなりに昇進できるが一般曹上りでは先が見えてる。


とても明るい将来では無い


此処は異世界トリップの恩恵に縋るしかない


大丈夫だ 


あの洗濯板の姉ちゃんでさえ超絶美形の王様をゲットしたんだ俺にだってロリ顔巨乳美女が寄って来るはず


「信じる者は救われるんだ!」


思わず叫ぶ


「何を言っておる! 気でも触れたか?」


不気味そうに俺を伺う姫様


「いや…妄想していただけ」


そう言うと冷たい目で見られながら聞いてみる。


「そう言えば姫様は何歳なんですか」


「妾は三十二歳じゃ」


「俺より年上!!」


俺は三十二歳の女性の頭を子供扱いし撫でていたのか!


良く切れられなかったと思うが体に精神年齢が引きずられると言うし、姫様の仕草も話し方も時折子供っぽさを感じるからそれでいいのだろう


「亀族は人間の様に早く年老いて直ぐには死なぬ。 百歳で成人の体に成長すると更に老化はほぼ止まる故に人間の年齢で妾達を当て嵌めても無駄じゃ」


「亀族のお嫁さんになって貰うとすると全員年上なのか」


「ケントの容姿で亀族の姫を射とめられるはずがなかろう」


バカにしたように言われるが気にしないぞ


「仮定だよ仮定」


うるせ―― 確かにそうだが異世界トリップの恩恵を舐めるなよ~


亀族の姫から人間のロリ顔巨乳は全部俺のだーーーーーーー


と心の中で叫ぶ


それから山族達をその場に置き捨てて森から漸く抜け出るとすっかり日が暮れて夕焼けが広い麦畑に沈み反対方向には大きな街が夕陽で赤く染まり見えて来た。


それと街道の真ん中に一人の影


姫様はその姿を確認するや否や慄く


「しまった!」


どうやら知り合いで恐らくお迎えのようだ


そいつは歩き始めて近づいて来るとその容姿が顕わになると思わず息を飲んでしまう


それは壮絶に綺麗な男


紫紺の長い髪を後ろで束ね切れ長な目にはアイスブルーの瞳に高い鼻筋に薄い唇は酷薄につり上がり静かな怒りを感じる。


背筋がゾクゾクとして鳥肌が立つほどの殺気と低い声で俺に向かい 怒号する。


「人間如きがミョンミョグゥイ様のお手を取るとは許さん! 死してその罪を贖うが良い」


はぁ~ そんな理不尽な


俺は好きで手を引いている訳じゃないぞ!


どうせなら胸のある女性が希望だ!


「姫様 あいつなんか勘違いしてるぞーー 説明して誤解を解いてくれ」


俺は急いで姫様にお願いするが


「逃げるぞ!」


「はぁ?」


そう言うと俺の手を引っ張り元来た森に引き返し始めるが俺としてはあちらの美形に姫様を渡してこのままお別れしたい


「俺は街に行きたいんだ!」


「あ奴に捕まれば王都どころでは無い! 呈州に連れ戻らされる」


「そんな事情知るか!俺は関係ないぞ」


しかし姫様の力に敵わず引き摺られ森に行くが直ぐに行く手を阻まれる。


「さあミョンミョグゥイ様帰りますよ。その汚い人間は始末しますからお渡し願います」

人を汚物の様に言うな!


全く亀族は綺麗だが人間に優しくない


このまま死亡フラグまっしぐらなのか


「煩いぞウェアー、ケントは妾の愛玩動物じゃ。 手出しは無用」


「ええ~~ 俺ってペットかよ!!??」


何時の間にそんな事に??


しかも人ですら無いのか俺!!!


「ミョンミョグゥイ様…おふざけは程々に、しかし素直に宮殿にお戻り頂けるならその者の命は助けましょう」


おお~ なんて嬉しい提案


俺は巻き込まれただけの被害者なんだがこの状況から解放されるならどんな扱いでも許容しよう


「嫌じゃ! 妾はケントから離れぬ!」


そう言って俺に抱き付くお姫様


「ぬぅわぁぁぁ―――― 離れてくれ姫様」


必死に引き離そうとするが姫様の力は半端無い


怒れる美形は更に凄まじい形相になるり一気に死亡指数がアップ





姉ちゃん…


お元気ですか


俺は死にそうです。







美形は静かに近寄り…まるで鎌を振り上げる死神の様に近づく、そして俺はせめて最後くらい気丈に奴を睨みつけてやるのだった。









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