始まりは肥溜め
ここは四神国の一つ玄武国
亀王チョングゥイが治める平和な国で可愛い王妃を迎えてからは益々人々の暮らし向きは豊かになり、これも王妃様のお陰だと感謝していたが一向にその姿を現さず黒髪の可憐な少女であの神々しい亀王を魅了する程の愛らしさだと巷でも評判だった。
そして王都では王妃様の姿を想像した絵姿が出回り人気を博していたのだが
侍女のマッキーが下働きから聞いた話をうっかり王妃様に教えてしまい急いで買いにいかせた、その姿絵を見た王妃様は絶句
「ヒェ……なんなのこの絵姿はーーーー!! 」
ミユキはフーランに買って来て貰った自分の絵姿を見て一気に青褪める。
「恐れながら王妃様の絵姿です」
至極真面目な口調のフーラン
「嘘よ! こんなの詐欺じゃない! 全くの別人よ 一体誰の許可でこんな絵が出回ってるのよ! 肖像権の侵害 これじゃあ絶対人前なんかに出れない」
王妃の絵姿は黒い髪に黒い瞳の美少女
大きな零れんばかりの黒い瞳に薔薇いろの頬、愛らしいピンクの唇で十人中十人が目を奪われる美少女ぶり
それに対し王妃は黒い髪に黒い瞳ではあるが美少女ではない……普通の平凡な容姿の二十六歳の成人女性でこの世界では童顔でギリギリ少女に見えない事はない程度
この絵姿を見た後に実際の王妃を見た時の人々の反応を思うとミユキは今直ぐ元の世界に戻りたい衝動にかられる。
「私実家に帰らせて貰います!」
「王妃様 それは陛下が許さず不可能かと思われます」
「ヒィェエ~~~ン 」
王妃の実家
それは此処ではない世界、地球の日本に帰りたいからと言って気安く帰れない場所
帰るには夫である亀王の力を使わなければならないが王妃を溺愛する亀王が許すはずが無かった。
「お諦め下さい。王都でも腕利きの化粧師を用意致しますので安心してお披露目にお望み下さい」
お披露目
それの所為で王妃が此処までうろたえている理由だった。
王妃になり三年近くになるが極一部の重臣を除きまだ一度も王宮の家臣や国民にも姿を見せた事が無く周囲の亀族達からも不満が出て来たのだ
本来亀王も盛大な婚礼の儀を上げたかったが地味婚を望んだミユキの意を酌み天帝の前で二人で婚姻を結んだのだが亀王としてはミユキを一世一代に着飾り人々に見せ自慢したいという思いを引きずっていた。
そこで臣下や国民に王妃としてお披露目をしようと亀王は一月後の新年祝賀祭の祝いの席に王妃の出席を決意したが
ミユキにとっては大迷惑この上ない
亀王の目にはミユキは世界一可愛いく変換され脳に投影されているが一般の人々から見れば少し可愛い普通の女性でしかないのを本人は自覚していた。
だが王妃としての立場なので最低限の公式の場に出席するは務め
腹を括り自分の顔を晒すを決意した直後の姿絵騒動
動揺するのは仕方ないだろう
「ハッ!!!! これはもしかして私を陥れようとする勢力の陰謀?!」
「陛下の伴侶にそのような悪意を向ける者など存在しません」
侍女のフーランは王妃の妄想を直ぐさま否定する。
亀王に逆らう事は即死を意味し、独裁国家と言っていくらい亀王の神力は巨大で逆らう者などいないのだ。溺愛する王妃をおとしめるなどとんでもない行為
「じゃあ一体誰の嫌がらせなの!!??」
「私にも何故このような絵姿が出回ったのかは推し量る事は……」
言葉を濁すフーランだったが事の次第を知っていたが言えなかった。
全ての原因は亀王にある。
王宮でミユキが如何に清らかで可憐であるかを側近に毎日のように切々と説いており周囲は仕事がはかどらず迷惑この上ないのだがそんな事おくびにも出せない。その鬱憤を周囲や家族に漏らしそこから端を発し王妃の容姿が尾ひれをひき市井に伝わり現在に至るのだ
言えない…この事を王妃様が知ればどんな騒動が起こるか考えるだけで頭が痛くなるフーラン
最近では丞相様の苦労をヒシヒシと感じてしまっている自分
畏れ多いが親近感を持っている……ハッキリ言って持ちたくなかったが
これは王妃様が何かしでかさないか警戒した方がよさそうだ
なにしろ普段は素直で聞きわけが良いのだが思いがけず突拍子もない事をしでかすのがこの王妃様
油断できず人知れず苦労が絶えなかった。
「ううっ~~ こうなったらマッキーの髪と目を黒くして身代わりにしましょ!!」
「王妃様!!」
突然名前をだされ身代わりにされそうになり真っ青になる元男の侍女マッキー
「それは無理かと…… 陛下が王妃様以外をお側に侍らすわけがありませ」
フーランの言葉にマッキーは胸を撫で下ろし王妃は頭をかきむしらんばかり
「キーーーッ こんな事ならサッサとこんな顔潔く晒せば良かったんだわ……シクッシク……うぇ~ん……」
とうとう泣きだしてしまう始末
慰めて差し上げたいが迂闊に触れる訳にはいかないフーラン達
何故なら……
「ミユキーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
何処ともからなく現れる亀王
ガバッツ!
「チョンマゲ!!」
机に泣き突っ伏す王妃を抱き上げて抱きしめる。
「何を泣いているのだミユキ 誰かに虐められたのか」
「ちっ違う…… くっくっく……」
「く? 」
「僭越ながら陛下、王妃様が苦しがっておいでに…」
これもお約束の展開で侍女二人は慣れたもの
漸く王妃様が息も絶え絶えなのに気付き腕を緩めてフーランが差し出す椅子にドカリと座り膝の上に王妃を乗せる
「すまないミユキ……心配のあまり力加減を忘れた」
シュンと項垂れる亀王だがそんな事に構わず自分の泣いた原因を訴える。
「それよりこれを見て!」
王妃様は手に握りつぶしていた姿絵を亀王様に伸ばして見せる。
「誰の姿絵だ?」
「私よ! この絵姿が私だって王都中で出回ってるの!」
「何! これがミユキだと!!」
憤然と怒り出す亀王
「そうでしょ! こんなんじゃ人前に出れない!」
「確かにこれは酷過ぎる。 余のミユキはこれ以上に可愛いぞ!余の伴侶を侮辱するとは 即刻この絵師は打ち首だ」
「はっ??????」
呆気にとられる王妃様
完全に二人の意見はすれ違っているが侍女達には見えていた結果
「何言ってるのチョンマゲ! 打ち首禁止!! そんな事したら駄目」
「だがこのままではミユキの愛らしがこのくらいだと思われてしまう」
「う~~~っ 違う意味でこの絵姿通りと思われるのは痛いわ……」
「よし! 余が真実のミユキの姿を描き国中に配布しよう」
「えっ チョンマゲは絵が描けるの!?」
「余に出来ぬ事はない」
そう断言するだけはある。侍女に紙と絵筆を用意させたかと思うと小一時間で見事な精緻画が完成されそこにはミユキが見事に書き写されていた。
「凄いチョンマゲ、絵もプロ級なんだね」
あまりの見事さに感心する。
しかしミユキは意外だった。 チョンマゲの脳内で自分はかなり変換され別人のように認識しているとばかり思っていたのだ。
あの絵姿の美少女より可愛いと感じる感性が可笑しいのだと気付いた。
そしてミユキは決意する。
このまま偽の絵姿の自分が知れ渡りお披露目の公式の場で針のムシロニ座るより、チョンマゲが描いてくれた真実の自分の絵姿を配布してしまおうと……
噂など耳を塞げばいいだけ
配布したらかなりのガッカリした人々の顔が想像できるが自分の顔を偽れない
どうせ本当の私は知られてしまうのだ!
傷口は小さい内に塞いだ方が直りは早いのだと判断した王妃様
「フーラン、この絵姿を国中に貼り出して頂戴」
「宜しいのですか」
「言いも悪いもないわ…… 国民を騙す訳にもいかないし」
「その通り、 国民全てに真実の愛らしいミユキを知らしめるのだ」
思わず夫である亀王を殴りたい衝動にかられるが止めておく、王妃様も亀王様が真実そう思っていると理解しているので始末の負えないのだ
お披露目の当日は今より厚化粧をして少しは絵姿より綺麗に見せよう決意する。
そうすれば、アレ?王妃様って結構可愛いかも…と思われるかなと姑息な事を考えているのだった。
そして王妃様の絵姿は国中のありとあらゆる場所に貼られ、当初はあまりに普通な顔にがっかりする人々だが見れば親しみやすいお顔で少し可愛らしい。それに美しいと噂される中で敢て自分の姿を公表する姿勢が好感をもたれ、あの亀王様が亀の姿を止めて国の政治に力を入れ始めて豊かになったのも王妃様のお陰なのは確かで徐々に王妃様は好意的に受け入れられて行くのだった。
そして古い年が終わり新年を迎えようとする十日前の良く晴れた日の午後
突然王都の上空の青い空に赤い巨大な傘のようなもが落下して来る
「おお~~ すげ~~ 本当に異世界トリップ!! 」
それは黒い髪に瞳の青年が赤いパラシュートを装着して落下してくる姿
「異世界トリップが体験できるなんて、これで俺もハーレム主人公!?」
思わずにやける青年の容姿は地味で普通なこれと言って特徴の無い顔
屈折二十三年=彼女いない歴 つまり悲しき童貞
ここで人生最大のモテ期を経験できるかと思うと期待で胸がふくらみ、地味顔も少し華やいでいる?
眼下に見えるのは平安京を思わせる大きな都市に街を取り囲む豊かな森に右手には大きな湖が見えもっと遠くには田園地帯が広がっていた。
「待っててくれよ~俺のハーレム要員の女神達! 橘健斗参上ーーーー!!」
何とも痛い登場
そう…この痛い青年は橘深雪つまり王妃様の実の弟
何故、彼のような普通の何の力もない無力な青年がこの世界にトリップ出来たか
それは徐々に分かって行くのでここでは語らないが予想はつくと思います。
あの方が関わっているのは確実
そしてミユキの弟は王都の王宮に降り立つ予定で降下して行くがパラシュートの経験は少ないのと突風が突然吹き王都からドンドン離れてしまう
ビューーーーンンンーーーーーーーー
「ああ~~ 俺のハーレムが遠のくーーーー 」
そして情けない声と共に憐れな弟は王都から少し離れた畑の真ん中に舞い降りるのだった。
ボチャーーン!!
「ギャアーーーーーーー くっせーーーー なんだこれ?????」
しかも肥溜めの中
一応シティーボーイである健斗は肥溜めの存在を知らないので腐った泥水ぐらいの認識
幸い片足を突っ込んだだけだが凄まじい匂い
初っ端からケチがついたのか?
それともウンが付いたのか?
それが分かるのはこれから
二人の姉弟が繰り広げる異世界の物語はこれから始まり始まり
龍王の娘があるので更新速度遅めです。