私と王様と卵
翌日はお忍びでルインさんのお宅訪問!
何しろチョンマゲが瞑道を開ければ一瞬でルインさんの屋敷の一室と繋がるんだから、正にドラ○もんの「どこでもドア」のような業で便利
普通だと何人もお伴を連れて馬車などに乗って時間を掛けて移動したり色々面倒くさそうだけど、瞑道を使えば人知れず移動が出来ちゃう!
先日来た牡丹の君も予めルインさんが渡した瞑道を開ける玉を使って移動していたようだ。何しろ私は王妃なので会うのにも本来は色々手続きが必要らしく滅多に会う事が出来ない存在らしい
だから牡丹の君もこっそりと会いに来るしかないよう。
それに一人だけと懇意にすると周りが贔屓だと煩く、私が色々な亀族との付き合いを広げていかなければならなくなり私の負担が大きく掛かって来るので今のところ人目を忍んだお付き合い
王妃って本当に面倒な立場
チョンマゲに抱っこされ暗い瞑道を通り出口に向かう
この真っ暗な深淵の何処かに私の世界と繋がっているらしいけど私には生命反応も光も何も無い闇でしか無い
「そう言えば私の世界に一度だけ戻りたいんだけどいい?」
「ミユキの気持ちは分かるが、向こうには天帝がおるので余はあまり関わりあいたくないのだが」
渋る気持ちはよく分かるけど私もあの性悪美少年…私に為り済ました天帝が家族に何かしていないか心配なのだ
「最後に家族にお別れを言うだけだからお願い」
「ミユキの頼みなら致し方がないが暫らく待ってくれぬか」
「うん 有難う!」
やったー これで家族にお別れが言えるしもう一人の私に注意し接近禁止を促せる。天帝は既に二年以上も私の世界に留まっている計算だけど此方に帰る気配は無いらしい
自分の世界を留守にして大丈夫なんだろうか?
「陛下、ミユキ様 よく御出で下さいました」
瞑道を抜けると牡丹の君が頭を下げて出迎えてくれていたので、直ぐさま飛び付きたかったがチョンマゲが私を確り抱っこしていた為に諦める。
「うむ」
「早速卵を見にお邪魔しちゃいました」
「有難うございます。陛下とミユキ様に祝福を受けるなど瑞祥の極み、夫に代わりお礼申し上げます」
艶やかな赤い衣装を纏いながら深々とお辞儀する姿は畏まっている。やっぱりチョンマゲがいる所為だろうか、一人で来ればよかったと後悔
「ルインさんはいないの」
「はい、夫は王宮に出仕しておりますので、代わりに十分お持て成しするよう言い遣っております」
チラリとチョンマゲを見ると何故か視線を逸らす。
そうやら休暇は貰ったのでは無くルインさんに押し付けたのだろう……なんだかんだと言ってチョンマゲには甘いのよねルインさん
「そうなんだ、今度はルインさんが休暇をとって牡丹の君とゆっくりして貰ったらいいんじゃない? ねえ~チョンマゲ」
「そうだな……」
「チョンマゲが今度ルインさんに代わってお仕事してくれるって。良かったね~~」
「ミユキ様そのようなお気遣いは無用です…我等は陛下の臣下なのですから」
「でも今までチョンマゲは何百年も仕事をサボり続けたんだから五日間ぐらいルインさんが休んでも大丈夫よね!」
「うっ……そうだな」
「牡丹の君! チョンマゲがルインさんにお休みをくれるって良かったね~~」
「ミユキ様……」
牡丹の君は戸惑っているようだけどこの際ルインさんに恩を売っておこう
ルインさんはねちっこく五日連続で励みそうだから二個目の卵が産まれるかも知れないし楽しみ
「それより牡丹の君の卵を見せて下さい」
「はい。今持って参りますので此方でお待ち下さい」
そう言って部屋を辞して侍女が出してくれるお茶をチョンマゲと二人で待っていると直ぐに籠を大事そうに抱えて戻って来る。
「お待たせして申し訳ありませんでした」
テーブルの上に置かれた籠の中にはメロン位の大きな赤いボールのような卵
想像した物とは大いに違っていてビックリ
とても卵には見えない
「これが牡丹の君の卵なんですか……こんな大きいくって産む時に殻が割れ無いんですか?」
なんだか殻を途中で割っちゃわないんだろうかと疑問
「/// 産まれる直前は殻も柔らかいので大丈夫ですの…」
恥じらいながら説明してくれる
成程と納得する。
「卵を余に渡すがよい」
珍しく牡丹の君に声を掛けるチョンマゲ
「はい、陛下。 宜しくお願いします」
牡丹の君が大事そうに卵を手に取りそっとチョンマゲに手渡す姿はまるで一枚の絵のように決まっており私ではこうはいかない
私とのあまりの違いにいじけそうだけど私は負けない!
ファイトよ深雪!
それより何をするのか気になる。
「卵に何をするの」
「余の神力を与える事で神力の高い亀族が産まれるのだ」
「へーー」
そう言いながらチョンマゲが両手で包み込むようにすると卵が仄かに光る。
「陛下がこのように卵に自ら神力を注いでくれるなど初めての事、きっと強い子が産まれるはずです」
嬉しそうに喜ぶ牡丹の君
いいなー 私も神力があれば分けてあげたいけど何も出来ないのが寂しい
「ミユキも抱いてやるがよい」
「私もいいの」
「是非ミユキ様も抱いて、祝福をお与えください」
チョンマゲに渡される卵を恐る恐る受け取ると、仄かに温かい
「祝福って何をすればいいのかな」
「ただ抱きしめて下さるだけでいいのです」
牡丹の君に言われるままそっと抱きしめると確かにそこに命が宿っているのが感じられ愛おしさがわいてくる。
思わず頬ずりしてキスをして見る
チュッ!
「元気で産まれて来てね」
するとフルッと卵が震えて
《 かわいい 》
小さな男の子の声が聞こえたような気がした。
「ミユキ! その卵を直ぐ置いて離れよ!!」
するとチョンマゲが低い声で私に怒りだすがその目は鋭く恐い
初めての態度で訳が分からない……私なんか悪い事をしたの~~
「えっえ?? 何で」
「ミユキ様、私にお渡し下さい」
牡丹の君が顔を青褪めさせて私から慌てて受け取り籠に戻すと一目散に部屋を出ていてしまい訳が分からない
チョンマゲはチョンマゲで不機嫌そう
「何があったの チョンマゲ」
「卵のくせに余の目の前で口説くなど許さん! ミユキも何故口付など致すのだ!!」
口説く? 卵がどうやって?
「だって卵でしょ??? 可愛いからキスしただけで他意なんてある訳ないし…もしかしてさっき聞えたのは卵から??」
確かに可愛いって聞こえたけど
卵が話したの??
「そうだ。僅か四日で思念を送りミユキを口説くとは据え恐ろしい……悪い芽は早々摘んだ方が」
何やら物騒な事を呟き始める。
「あのねチョンマゲ、卵に焼餅やくなんて変だよ。 それに私の好きなのはチョンマゲだけだから変な事を考えないで」
そう言いながらチョンマゲの膝に乗って機嫌をとるために夫の美しい唇にキスをする。
チュッ!
一瞬の触れるだけのバードキッス
「もっと」
どうやらこれだけでは満足しないよう
キスって自分からするのって苦手だけど、牡丹の君の大事な卵を守る為には頑張ろう
再びチョンマゲの唇に唇を重ねるだけのキスを数秒して離れようとするがガッシリと抱きしめられ離すのを許さず、恐らくもっと違うキスでつまり自分から舌を差し入れディープキッスをしろと言うのだろう
完全に足下を見られているが仕方がない
おずおずと自分の舌をチョンマゲの唇の隙間に差し入れると歯に当たるが開かれない
うっう……意地悪だ
仕方なく何時もされているように歯や歯茎を舌でなぞり刺激して行くが私の小さな口ではカバーしきれず巧く出来ないせいか微動だにしない
目を開けて顔を真っ赤にさせて睨むと、目を見張るようにギラついた目とぶつかる。
しぇ~~~ 呑まれる~~~ と思った瞬間にはチョンマゲの舌が私の口内に入って来て責め始める
うっう~~~ 苦しい~~~~
そして激流にのまれ溺れる猫のように溺れて気が付けば何時の間にかベッドの上で裸に剥かれて深く交わって啼かされてしまうのだった。
ぐうぅぅぅーーーーーーーーーきゅるきゅるきゅるーー
そしてお腹の虫の音で目覚めて見れば朝
お昼も夜御飯も食べれずお腹の虫が悲鳴を上げているのに満足そうに私を抱き締めて寝る夫の鼻を思いっきり噛んでやる。
ガブ!!
「!!」
目覚めた夫の耳にすかさず
「当分お預けーーーーーーーーーー!!!」
鼓膜が破れようと構わず大声で叫んでやる。
グラクラクラ~~~~
あああ……眩暈が……
それだけで再び気を失ってしまった私は二度と自分からキスはしないと誓うのだった。
ミユキがあまりに可愛く余の唇に吸いつくのでその姿を堪能していると真っ赤な顔で目を潤ませて見詰めた所為で理性が切れてしまった。
深くキスを交わしても足りずに急いで瞑道を潜り寝室に戻ってミユキを貪り尽くしてしまう……可愛すぎるミユキが悪いのだ
可愛くて可愛くて本当に食べてしまいたい……異常だろうか
余も天帝の事を言えない
ミユキに対して狂ってしまっているのかもしれない
卵を愛おしそうにキスする姿に思わず卵を叩き割りたくなり、しかもミユキに対して可愛いと囁く思念を聞いた時完全な殺意が湧いてしまったが、そんな事をすればミユキに嫌われてしまうのでおし留まる。
なんと忌々しい卵
しかし既に自我が芽生えているとは次期王の資質があり喜ばしいがミユキに興味を持っているのが気に食わない
余に夢中のミユキが子供などに目を向けるとは思えないが丞相の妻や元側室に目を奪われているのもたしか
今だ性別も分からない核しか出来ておらぬくせに、産まれて来るのは恐らく男子
しかもあの二人の子ならずば抜けた美形だ
百年後には立派な大人
不安がよぎりついついミユキを抱き潰してしまい少しやり過ぎたかと後悔
恐らく目覚めたら怒られるのを覚悟し当分お預けだろうかと又後悔
死んだように眠る妻に神力を注ぎ体力を回復させておけば少しは怒りは和らぐかと思いきや
「当分お預けーーーーーーーーーー!!!」
ガ―――――――ン……
「ミユキ……」
ぐうぅぅぅーーーーーーーーーきゅるきゅるきゅるーー
そして直ぐに気を失ってしまったミユキのお腹の中から聞こえる盛大な腹の虫を聞いて、急いで侍女に食事を用意させてミユキの眠る寝室に運ぶとその匂いを嗅ぎつけ目を覚ます。
「ご飯!」
以前から思っていたがミユキは食べ物に対する執着は並みならぬものを感じる。
普通は宝石や煌びやかな衣装を強請るのに其の辺には興味を示さず、美味しい物に目がなく幸せそうに食べる姿が気に入っている。
すかさず箸でミユキの前に料理を運ぶとパクリと小鳥のように啄み美味しそうに料理をお腹に納めていき徐々に機嫌も直って来る。
「チョンマゲ、もう自分で食べるからお箸頂戴」
少し元気が出て来たようだが、何時もミユキにやって貰っているが食べさせる行為も楽しい
「何時もは余がして貰っているから今はさせてくれ。 さっ ア―ンをするがよいミユキ」
そう言うと恥ずかしそうに頬を染めながらも食べてくれ、可愛くて堪らない
人に食べさせるのがこんなに楽しいとは知らなかった。
ミユキにもし卵が産まれたら毎日愛おしそうに卵抱きしめキスをするかと思うと腹が煮えくり返そうだし、子供に食事を食べさせる姿など見たくもない!!
子など要らぬ!
ミユキを誰かと分かち合うなどあり得ない
幸い子が出来る確率は殆どないと言ってよいだろう
丞相の息子が王になる器ならサッサと王位を譲り隠居して誰にも煩わされる事無く二人で暮らせるかもしれない
そんな事を夢みながミユキとの休日を楽しもうと思うのだった。