騎士な侍女と情けない若者
大理府長官の一の姫ミュンチュングゥイ様が去って行き漸く静かさが戻ると言っても部屋は黒こげで使いものに成らず王妃様に別室に移動して貰う
あれ程の目に遭いながらもにこやかに楽しそうなお顔の王妃様
あの女性を相手に一歩も引かず、それどころか助命したばかりか泣き崩れ意気消沈したミュンチュングゥイ様を立ち直らせるとは並みのお方では無いと見直してしまう
一方私と言えばミュンチュングゥイ様の毒気に中り少々疲労感が溜まっている。
まさか陛下の前側室様が王妃様に殴り込みを掛けて来るなど誰が考えるだろう……天災としか言いようがない
しかも王妃様の情報が筒抜けだと言う事は考えもの
流石に大理府長官と大物となると陛下の動きなど隠しようがないのだろう
丞相様もこの件で処分は保留されたようだが大理府長官に釘はさすとおっしゃっていたが、私にも釘を刺されてしまう
「次はありませんよ」
そう言い残し王宮に帰って行かれるが、その言葉で次の失敗で命が無い事を自覚する。何しろ知りたくも無い丞相様の弱味を知ってしまい気が重い。一体何時から丞相様はあの部屋での出来事を見ていたのか… 私でも感じられない程の手練れの者が常に見張っているのかも知れない。
王妃様の小さなお手を引き御希望の庭園が見渡せる部屋にお通しする。
そしてお茶をお出しすると
「ねー フーラン チョンマゲには子供がいるの?」
矢張り気になっておいでだったようだ
「安心下さいませ。陛下には今のところ御子様は一人もおいでません」
「そっか…… となると私への重圧が掛かってくるのか…… 十八人も側室がいて孕ませられないなんて種なし?」
種なし!!
どうやら違う方向で考えられていた御様子
王妃様は一見地味な印象の大人しい方と思ったら大間違いで良い方向で期待を裏切っている……異界のお方故に考え方が違うのかも知れないが理知的な女性でお優しい方
「王妃様、陛下は決してそのような理由で御子様が出来ないのでは無く神族にはありがちな話なのです。神族は神力が高い程出生率が激減する傾向が激しく、王ともなると生涯に一人も子を成せない事の方が多いのです」
「ええー それじゃあ王の血統はどうするの!?」
「王は血統では無く神力の高さで天帝様が任命するのです」
「ゲッ! あの性格破綻者が… だからチョンマゲが王様になったのか」
変な納得をされる王妃様だが
「まさか天帝様にお目もじされた事が御有りなのですか!」
「会ったも何もその天帝の所為で私はこの世界に落とされちゃったのよ! 酷い話でしょ」
頬を膨らませ怒っていらっしゃる姿もあどけなく普通の可愛らしい少女だが本当に驚かされる。
天帝様に会う事出来るのは各国の王のみ。 他の神族は生涯会う事が出来ない程の最高神であり創造神
「では王妃様は天帝様に選ばれたお方でもあるんですね」
「選ばれていないよ!ただの事故だから」
謙遜するなど奥ゆかしい
きっとこのお方なら陛下に御子様を授けて下さるに違いない
これは新たに心を戒めて王妃様にお仕えせねばと心に誓う
この方こそ生涯を誓う我が主
「ところでフーラン、 深紅の薔薇の君以外の側室だった人達も皆美人だたんでしょ! 全員と会いたかったな~~」
肩を落としガッかりされる……普通はお会いしたく無いものでは??
先程のミュンチュングゥイ様に対する言動といい王妃様は女性も守備範囲なのだろうか!?
本当に読めないお方だ。
「私は軍の方の所属で後宮の警備にも関わっていなかったので側室様達にはお会いできませんでしたので噂の方もとんと疎いものでうから、今日ミュンチュングゥイ様とお会いしたのも初めてです」
「そっかー でも深紅の薔薇の君は女王様のように綺麗であの巨乳羨ましい……せめてあの十分の一でもあれば」
そう言いながら自分の胸を見て溜息をつく
「王妃様はそのままでも十分お可愛らしいのですから、お気になさらずとも自然と大きくなるでしょう」
「そうかな……」
王妃様は痩せておいでだが、お食事をチャンとお取りになるのでその内肉を付けられれば人並みになるはずで、今だ成長途中なのだからお気になさる必要もないだろう
しかも陛下にあれ程愛された体は徐々に女らしく変化して行くのは必至
しかしながら、王妃様が気にされるのも頷ける。ミュンチュングゥイ様は確かに群を抜いてお美しいく、豊満な体の持ち主
ハッキリ言ってかなり好み
あの気の強さをへし折り快楽でグチャグチャにして綴り、征服欲を満たしたい
だが相手は大理府長官の一の姫
手の届かない高位の亀族
あの方が望めば王妃様の言う通り直ぐに相手が出来るだろう。 それに最近別れた恋人と色々有って当分の間色恋は十分、王妃様にお仕えするのに専念しよう。
それに私も生涯連れ添う相手が欲しい、それにはミュンチュングゥイ様のような女性では平穏な人生わ望めず何時かは別れを覚悟した関係になりがちだ。
だから次に恋人にするなら王妃様のような可愛らしく楽しい女性が良いものだと考えるのだった。
「ふわぁ~ なんだか眠くなって来た…… 」
そう言われたかと思うと直ぐさま寝息をたてて椅子に座りながら転寝をしてしまっている。
昨夜の濃い情事の跡をその細い体に所狭しと付けられ陛下と深く交わり、人間の体力では一晩お休みになったくらいでは癒されないのだろう
起こさないようそっと内掛けを脱がしてから寝台にお運びして横たえさせる。
あまりの軽さに王妃様の体が心配だ
恐らく今夜も陛下は王妃様を召されるだろう
少し手加減をして欲しいが侍女の身では口には出来ず、丞相様にお口添えして貰わねばならないだろう。
王妃様が眠る部屋に厳重に結界を貼りながら侍女の仕事は主が寝ている間も山とある。
しかもこの離宮にいる者達はあまりにも使えないのだ。
何しろ此処の管理を任されているマッカーサングゥイなる若者はあまりに頼り無い
それなりの亀族の出でそこの嫡子らしいがこの離宮の仮の管理者として在中している所をみると呈の良い厄介払いで此処の閑職を任されたのだろう
何しろ王妃様の為に建てられた離宮ながら後宮から一歩も出られない王妃様が此方を訪れるのは当分ないだろうと誰もが考え、一応は何時でも使用できるよう離宮内の掃除や庭の管理、補修を行うのを統括するのがマッカーサングゥイ
王妃様がミュンチュングゥイ様にお会いしてしまったのもあの青年が止めれなかった所為
今回の事でもっと閑職に飛ばされるであろうのは容易に考えつくが
新任者が来るまではもう少し確りするよう指導しよと思い立つのだった。
「ああ~~ どうしよう…… また失敗してしまった…… 」
自分の部屋でさめざめと泣く青年はマッカーサングゥイ
茶色の髪に赤い瞳の優しげな顔だちで、既に成人の儀を済ました百三十四歳の若者ながら些か童顔で背も低いく体つきも薄いので頼り無い外見と相まって性格も気弱な優しい青年だが、これでも頭脳は人一倍良く官吏の試験も上位の成績で受かり家柄も良く将来を嘱望された前途ようようの青年だった。
しかしあまりのお人好しと丁寧な仕事ぶりで時間がかかるのが災いしてウスノロ扱い、しかも同僚の仕事を押し付けられ残業をして終わらせても手柄は全て同僚に奪われる有様で厄介者扱い
幾つもの職場を回されとうとうこの離宮の管理官を任されたのだが呈の良い閑職
父親が大理府の役職を持つのでお情けで此処を任されたのだ。
決して無能では無く本当は有能なのだが、ついておらず自己主張をしないので上司達も気が付かなかった。
だがマッカーサングゥイは閑職ではあったがこの職場が気に入っていた。
此処で働く者は全て人間で年のいった者が多く、その殆どが掃除婦や庭師などと言った下働きの人間でマッカーサングゥイを孫のように可愛がってくれる。これまでの職場は仕事を押し付けられバカにされ信じた同僚に裏切られたりと散々な目に遭ってきたので、此処では家庭のような温もりすら感じていた。
マッカーサングゥイは家庭に恵まれていなかった
立派な父親は厳格で嫡子であるマッカーサングゥイに厳しく結果を求め、母親は正妻では無く愛妾の人間だった為に二十九歳の時には死に別れ、正妻の元では愛情も与えられず跡取りとしての義務だけで育てられ寂しい生い立ち
しかも茶色の髪が仇となり亀族の中では人間のようだと誹られ、人間には亀族だと敬遠されどちらとも馴染めない
そんな中漸く見付けた安らぎの場所だった。
「王妃様にご迷惑をかけてしまいきっと罷免される…… もう行く当てもないどうしよう……」
既に数々の失態で父親には勘当され、せめてもの情けで宛がわれた仕事
ある程度の蓄えはあったが帰る家は無かった。
「弟が生まれ私など不要な人間…… うっうっうう…… 」
そこへ誰かが扉を開けて入って来た。
「マッカーサングゥイはおるか!」
「ヒィーー はい居ります」
それは最も苦手なタイプの人間である王妃の侍女のフーラングゥイ様だった。
急いで跪く
「こっこっこっこのような場所に何の御用でしょうか」
するといらついたように怒る。
「私は侍女なので跪く必要はない。 立って確り顔を上げなさい!」
そう言われおずおずと立ち上がり涙を袖口で拭きフーラングゥイ様を見上げる。
女性ながら背が高く颯爽としテキパキとした仕事ぶりは正に自分の理想であるが一番苦手な種類の人間でもある。何故なら自分の行動が相手をいらつかさせてしまうようで怒鳴られる事が多いからだ
「泣いていたのですか!」
怒る代わりに驚くフーラングゥイ様
「申し訳ありません。ミュンチュングゥイ様をお止出来ず王妃様にご迷惑をかけました……此処は仕事を辞してお詫び申し上げます」
すると呆れたように溜息をつく
「はぁ……別に辞めずとも追って沙汰を待てば良いだろう」
「いいえ、多分ミュンチュングゥイ様がこの場所を知っていたのは私のせいなのです」
「何!」
目を向き睨まれ恐ろしいが正直に言おうと話しだす。
「私は父の命で陛下が此方にお出でになった時は直ぐ知らせるように言われたのです。父は大理府に席を置くものなのでその所為です。 でも決して陛下にも王妃様に背くつもりは毛頭ありませんでした……御免なさい うぇん…ぇえん……」
父の思惑も知らず私はバカだ
ただの使い捨ての駒だったのだ
情けなくも女性の前で泣いてしまう
きっと女々しい男だと呆れられ誹られるだろうが甘んじて受けよう
ところが意外な衝撃を頭に感じる。
ポンポン
慰めるかのよに頭を撫でられる。
「そなたに悪意が無かったのは分かったが例え身内にも仕事の内容を明かしてはならないのが基本。 これからは気お付けよ……それにそなたは今だこの離宮の責任者、罷免された訳ではないのだから王妃様の為に確り務めを果たしなさい」
優しいくはないが労るように諭してくれる。
こんな人は初めてだった
「良いのでしょうか、私のような者が王妃様にお仕えしても」
「良いも悪いも無い。そなたが此処の責任者であろう、確り務めを果たすのです。さあ王妃様の為に夕食の用意の采配をして来なさい」
「はい、有難うございますフーラングゥイ様。 頑張ってみます」
私は叱咤激励され少し元気が出る。
この仕事を辞めなければならないにしても後任者が来るまでは頑張って確り務めあげようと決心するのだった。
きっと一生懸命生きればきっと私の事を認めてくれる人がいるはず
出来ればフーラングゥイ様に認められるような男になりたいと思うマッカーサングゥイだった。