空腹な私とKYな王様
グゥ~~~~~~ キュゥルルルッル~~~~~~
お腹が空いた。
空腹の所為で目を覚ますと私はチョンマゲに抱き込まれるように寝ている様だ。
なにせ部屋は真っ暗で夜
視力は両目共に1.5だけど流石に闇の中を見る事は出来ないのでホッとする。
目を覚ます度にチョンマゲの神々しい美顔はある意味凶器
心臓に悪い!!
見馴れるのに数年は覚悟しているけど一生無理なような気もするのは気のせいだろうか
でも目を覚ますとチョンマゲが側に居てくれるのが嬉しい
何しろ出会って強姦され目覚めた翌朝は一人取り残され強がっていたが実際はショックだった
あの時も空腹で目が覚めたんだっけ
今も凄まじい空腹感が襲っているが心は温かい
暫らくチョンマゲの体温を感じ匂いを嗅いでみるとオレンジのような柑橘系の甘い匂い!?
香水?
これが焼き肉やステーキや焼き鳥の匂いだったら確実に噛り付いただろう
美味しそうな匂いを堪能してから恐らくスッと高い鼻に手を持て行って摘んで見ると暫らくは無反応だったけど息苦しさでジタバタし始める。
どうやら神様も人間のように呼吸しているんだとチョッと吃驚
チョンマゲが起きたの様なので手を放した途端お腹の虫が無く
グゥーーーーーーーーーーー
色気も何も無い私
「ミユキ、お腹が空いてるのか?」
優しい声にドキリとするがお腹が空きすぎて堪らない
「うん、もう死にそう……」
お腹に力が入らず情けない声になる。
「死ぬ!!!」
すると何故かこの世の終わりのような悲壮な声を上げると急いで立ち上がると何処かに忽然と消えてしまう。
暗闇でよく見えない所為で正に一瞬で掻き消えた様に感じたのだ。
取り残された私は茫然とする。
「多分……ご飯を取りに行ってくれたんだよね?」
どうやら私の旦那様はかなりの粗忽者のよう
考えて見れば知りあって間もないのでそんなにお互いの事を良く知りもしないで結婚をしたんだから我ながら思いきった事をしてしまったと思う
チョンマゲの想いに流されたと言ってもいいけど決めてはヤッパリ顔だろうか
人間顔じゃないと思うけど
顔が良い事に越した事は無いと思うのが正直な気持ち
それに反して普通な顔の私
性格も至って普通だし一体どこに惚れる要素があるのかと不思議でならない
「多分地味専の貧乳好きという奴なのかな? うっ……考えるの止めよ……」
深く考えると落ち込みそう
私はチョンマゲの愛を信じるだけだ!
…………
所でここは何処??????
一方此方は丞相のお屋敷
丞相ルイングゥイはミユキ様が目覚めた事を愛する妻アンチョングゥイに知らせるべく早めに帰宅し知らせると我が事のように喜ぶ
「まぁーーー ミユキ様が目覚められたのですか!」
慎ましい妻が満面の笑顔を浮かべるのに些か気に食わないが最近沈みがちな妻が久しぶりに見せる晴れやかな顔に安堵する。
「ああ… 私も直にお会いしてないが陛下が昼ぐらいに一度目を覚まされたと言ってましたよ」
「それは陛下もお喜びでしょう。 私もミユキ様にお会いしたい… 」
途端に沈み込む
後宮に居るミユキ様に会いに行くのはそう簡単では無いのを分かっているのだろう
ハッキリ言って妻をミユキ様に会わせたくないが妻の喜ぶ顔を見たい気持ちに負けてしまう
「それならばミユキ様に会えるよう陛下に頼んでみましょう」
「本当ですか!」
「私がアンチョンに嘘を言った事がありますか」
「有難う貴方」
嬉しそうに私に抱きついて来る
そして良い雰囲気になりそのまま寝室に傾れ込む、王宮から使いを出し早めに帰るのを知らせておいたのでアンチョンも身を清めているはずなので湯浴みで中断する無粋な事にならないようにしていた。
「今夜のアンチョンもとても綺麗ですよ」
「貴方 /// ]
何時までも初々しい反応をする可愛い妻
ミユキ様のお陰で陛下が政務を少しするようになったので余裕の出来た私は最近子作りに励め充実していた。
そして灯りを消し事に及ぼうとした時だった
「ミユキが死んでしまうーーーーーーーーーーー! 相丞食事を用意致せ!!!」
「キャアァ――ー!!」
「へっ陛下!!??」
何故か陛下が私達の寝所に乱入して来る。
直ぐさまアンチョンに布団を掛け陛下目がけて鉄拳を奮う
鳩尾に手加減無く拳を打ちこむ
ドッス!!
「うっ!!」
「時と場所を選びなさい!! 夫婦の寝所に押し入るなど言語同断! 陛下とて許しません!」
お腹を押さえこむ陛下を引きずり隣室に連れ出す。
「それでミユキ様がどうしたのです」
忌々しい事にアレぐらい何時までもダメージを引きずる陛下ではない
「そうであった! ミユキが腹を空かせて死にそうなのだ~~ 助けてくれ!」
「はぁ…… 空腹だけで人は死にませんよ! だから侍女を付けろと言ったのです」
ギロリと睨むと項垂れる陛下
自分自身の面倒すらままならない陛下が人の世話をするなど無理だと思ったのだ
『ミユキが寝ている間、風呂にも入れたし着替えも全て余が世話をしていたのだから大丈夫だ』と言って連れて行った侍女を追い出したのは陛下
なまじ陛下は許さなければ結界を張ってあるミユキ様の部屋に入れないのだから厄介だ
「兎に角ミユキ様の元に行きましょう。目を覚まして見知らぬ部屋で困っておいででしょう」
全くこれでは最初の時と同じ
明日は絶対に侍女を付けようと心に決める。
「ハッ!! そうであった。 余は直ぐ戻るからそなたはミユキの食事を持って参れ」
来た時同様に瞑道を開けてサッサと帰ってしまう人騒がせな陛下を見送る。
昔から振りまわされてばかりでうんざりだが何故か見捨てられないので諦めていた。
「貴方… ミユキ様がどうされたのです」
心配げに部屋に入って来るアンチョン
「どうやら先程目を覚ましてお食事を所望されたようだから少し後宮に行って来るよ」
「……」
何やら言いたげな眼差しで私を見る。
「アンチョンもミユキ様に会いに行くかい」
これだけ迷惑を掛けられたのだから陛下に文句は言わさない。
「宜しいのですか!」
「私は食事の用意をして来るから着替えておいで」
「はい貴方!」
まるで恋人にでも会いに行くように喜ぶ妻に少し不安になるが多分アンチョンは寂しいのだろう
広い屋敷で使用人に傅かれ何不自由なく暮らしているが心を許せる話し相手もおらず相丞の妻としての付き合いは気の張る者ばかり
ミユキ様と話すアンチョンは本当に楽しそうだった。
少し嫉妬してしまうが全てはアンチョンの為に我慢しよう
家令に料理を適当に見つくろいお重に詰めるように手配しながら
ミユキ様が目覚めたのは良いが何やらまたひと騒動起きそうで不安が過ぎるのだった。