可愛い侍女と私
「リューリンちゃんお水を頂戴」
「はいミユキ様、ただ今お持ちします」
朝起きると酷い頭痛と二日酔い、一体私は昨晩どれだけ飲んじゃったの??
ハッキリ言って安い居酒屋の薄い酒を喜んで飲んでいた私には昨夜の高級酒のアルコール度数は薄めない分高いのを忘れ飲んでしまい産まれて初めての二日酔いを経験してしまう
リューリンちゃんは水差しからグラスに水を注いで渡してくれる。
「ありがとうリューリンちゃん」
受け取るや否や一気に水を飲み干しお代りを貰おうとグラスを差し出すと何も言わないでも気の効くリューリンちゃんはお代りを注いでくれる。
全く出来た子だ。
水を飲んで漸く一息つく……しかし昨晩は私は一体何を話していたんだろう?ハッキリって記憶があやふやだ
確か他人様の夫婦?事情に口出ししていたような気がする。
お世話になっているのになんて失礼な事を言ってしまったんだと今さらながら後悔
お酒を飲むと気が大きくなって口が滑ってしまい何時も失敗しているので気お付けていたのに~~~
追い出されたら路頭に迷ってしまう…どうしよう
真面目に働く事を考えよう
我が弟と違い賢いリュ―リンちゃんに私が働き口を捜そうと聞きだせば、何も話さないだろうからそれとなく聞くしかない
「ねぇ… リューリンちゃんは何時から此処で働いてるの?」
「はい、私は八歳の時に人買いに売られたのを運良くここのお屋敷の侍女頭のスイさんに買って貰い働かせて貰ってます」
嬉しそうにとんでもなくヘビィーな境遇を言うリューリンちゃん
「もしかしなくても売ったのは親?」
「はい、そうですが」
まるで当り前のように言う事は親が子を売るのが日常茶飯事と言う事、つまり一般人の生活はそれ程豊かではない事が推測できる。
多分、ルインさん亀族が支配階級の貴族であの強姦魔がその頂点の王様か
階級制度は仕方ないけど子供を売るほど生活をひっ迫させるのは政治が悪いのだ、あの強姦魔は無能な王に違いないわ、もしかするとリューリンちゃんは奴隷?!
「もしかして奴隷なんかいたりする」
「遥か昔にはいたようですが人間を不当に働かせるのは禁止されてますし、私もお給金を貰って家に仕送りも出来てこのお屋敷で働けて幸せです」
不当雇用では無いらしいけど何て健気な少女なんだろ!!
十四歳で既に家に仕送りをしているなんて十七歳で親の脛をかじりラノベを買っている弟は違う。もし戻ったらアルバイトをさせて少しは社会の厳しさを教えないといけない!
戻れたならばの話だけど……
「偉いんだね~ うちの弟に見習って欲しいわ! いや~お嫁さんに欲しいかも」
「そっそんな…私如きがミユキ様の弟君の花嫁など滅相もない!!」
弟君!!
そこを真面目にとらないで突っ込んで欲しいんだけど…それにどちらかと言うと弟の方がリューリンちゃんに勿体ない
「そう言えば女の子の結婚適齢期って何歳」
「大体十五歳から十八歳の間に結婚するのが普通です」
ガーーーーン!!
何!!!!!
それじゃあ、二十三歳の私は完全な売れ残りで賞味期限切れの廃棄処分じゃない!!!!
今のところ若さだけが売りだったのに……思わずたそがれる
「そっそうなんだ~ それじゃあリューリンちゃんにはもう彼氏いるのかな」
気お取り直しておばちゃん根性で聞いてみる。
「いいえ、私には弟と妹のために働いて仕送りをしたいので当分結婚はしません」
何て地に足のついた立派な言葉に感動してしまう。これで十四歳なんて、矢張り生活環境の違いだろうか? 弟の為にも私より異世界トリップして苦労すれば現実を確り見詰められる子になったに違いない
可愛い子には旅をさせろと言う諺もある。
「そうだわ!リューリンちゃんが早く結婚出来るようにルインさんにお給料を上げて貰うように交渉するわ」
気立ても良く器量よしのリューリンちゃんが往き遅れるなんて忍びない
此処はお姉さんが一肌脱がねば
「いいえお止め下さい! ミユキ様付きの侍女になったお陰でお給金も上りますから」
「えっ そうなの?」
「はい、ですから御主人様には何も言わないで下さい。叱られてしまいます」
必至な顔でお願いしてくる。
どうやらいらないお節介をしてしまったらしい、
「ゴメンなさい、リューリンちゃんを困らせて」
少し落ち込んでしまう。
「ミユキ様は私の為に仰って下さったので嬉しいです。これからもお世話をさせて下さい」
「リューリンちゃん 可愛い!!!」
ガバッ!
「キャッ /// 」
あまりの健気さで思わず抱き締めてしまう、現代日本でこんな十四歳の少女がいるだろうか…悲しい事に殆ど絶滅危惧種と言っていいかも
まっ…人の事は言えないんだけどね
しかしこの世界の人間は発育がいいよね。抱きしめるリューリンちゃんは161㎝の私とほぼ同じだが胸は確実に私よりあってお尻もふくよかでとても十四歳には思えず確り女の体だ。婚期は十五歳と言う話も理解できる。
お姉さんはショックだよ……
「ありがとう リューリンちゃん 成るべく迷惑かけないようにするから」
年下に面倒見て貰うなんて大人として駄目駄目でしょう。
「それは困ります。精一杯お仕えしますので何でも遣らせて下さい」
確かに私の世話が仕事だから、仕事を取り上げる事になり存在価値を否定するのと同じなのかも…そう言えば入社した当時は仕事が出来なくって肩身が狭かったのを思い出す。
庶民な私には侍女なんて面倒だがリューリンちゃんのお給料アップに貢献しなければ
「それじゃー 朝御飯をお願い」
「はい、ミユキ様!」
嬉しそうに返事をし、部屋を出て行く姿を見て可愛い妹を見るようで微笑ましい、実際妹が居たとしてもあんな可愛く育つはずが無いんだけど
しかし此のままでは上げ前据え膳着替えも手伝って貰い私は何をすればいいんだろう??
テレビも携帯電話も無い世界
暇つぶしとしてはアナログな本が妥当か?
この世界の知識を得る為にも本をリューリンちゃんに頼もうと考えるが、字が理解できるかが問題
言葉は翻訳されているが字の方は確認していない
最悪この年で字を覚えなければならないのかと思うと、二日酔いがより一層重く感じるのだった。
二日酔いながら、美味しくご飯も食べるとする事のない私はリューリンちゃんにお願いした本を受け取り表紙を見て既に挫折しそうになる。
表紙に書かれているだろう文字は漢字ではなくまるで記号のよう……地図記号に近い気がする。
このブレスレットは言葉を同時翻訳してくれるけど字までは解読してくれない、これ位のオプションを考えて欲しかったと気の効かない強姦魔に心で毒ずく
「リューリンちゃんは字が読める」
隣に控えているリューリンちゃんに聞いてみる。
「申し訳ありません」
十四歳で読めないと言う事は習わないのだろうか?
「学校とか無いの?」
「学校? 学問所の事でしょうか」
「そうそう、学問所は誰でも行けないのかな」
「はい、学問所に行けるのは街に住む裕福な家の子供達だけで私のような農村部の出の者は往く事も叶いません」
どうやら識字率が低い世界らしい、これは字を覚えれば働く時に有利かもしれない、一応ソロバンも二級だけど持っているからこれは武器になりそう! 小学校の頃にパソコンの時代にアナログなソロバンなど習わされたけどこんな時に役立つとは、産まれて初めて母に感謝したよ。色々滅茶苦茶でいい加減な母親で苦労し就職して家を出て解放されたけど今思っても当分会いたくない人物だ。
「誰かに字を教えて欲しいんだけどルインさんか牡丹の君に聞いて来てくれない」
何をするのにもリューリンちゃんを使うのは気が引ける。
どうやら私はこの離れから出る事を禁止されているので私からは母屋に居る二人に会いに行けない。言わば監禁に近い
引き籠りなんて嫌だけど、リューリンちゃんの事を思うと無理やり外に飛び出すわけにいかないので辛い、せめて今度庭の散策を許して貰おう
リューリンちゃんのような可愛い子を私の侍女にするなんて、これはルインさんの策略なのではないかと深読みしてしまう
お互い知り合って数日だがルインさんは絶対腹黒だ
この屋敷を抜け出すにしても常識と字ぐらいは覚えておきたいしそれまで御厄介になるしかない。
それらの費用は強姦魔に慰謝料代りに請求するようルインさんに書き置きを残せばいいだろう
「字を覚える前に金髪美少年のお迎えがあればベストなんだけど」
今だに無駄な期待を捨て切れずにいるのだった。
朝、目を覚ますと一人ボッチで寝台で寝ていた。
寂しい……
父上も母上も爺やも死んでしまって誰か側に居て欲しかったけど余に近寄ってくるのは気に入らない者ばかり
漸く見付けたミユキには嫌われてしまうし
「余は不幸だ……」
バシ!
頭を小突かれ見上げると鬼のような顔をした丞相が余を睨んでいる??
「私の方が余程不幸です! 陛下の所為で政務の全てを押し付けられて愛妻と過ごす事すら侭ならないんですよ」
「余の所為ではない、天帝が余を亀王にするのが間違っておるのだ。 本当は丞相に王位を譲りたいのに天帝が許さない」
「私では力が及ばないと言う事でしょ。それならサッサと次期亀王となりえる御子様をおつくり下さい」
「もしやミユキが許してくれたのか!?」
「今だご立腹のようです」
子供と意味深な事を言うから期待したのに更に落胆してしまう。
「一体何時になったらミユキに会えるのだ、そなたが取り持ってくれると言うから余は我慢しておるのだぞ」
何時もは不機嫌でも腹黒い笑みを浮かべているのに今日は隠そうともせず怖い顔をしている。
「流石に陛下が見染められた女性、 どうやら一筋縄ではいかない御様子なのでこの際無理やり会って婚姻を結んでしまいましょう」
丞相らしからぬ乱暴なやり方にいぶかしむ。
「何かあったのか?」
「ミユキ様が陛下に心を傾けるのは難しいと昨夜の会話で良く分かり、小細工を弄しても無駄。 たかが人間の身寄りのない小娘など力で押せばどうとでもなります」
「嫌だ! 余はこれ以上ミユキに嫌われたくない」
「大丈夫です、陛下はミユキ様にこれ以上嫌われ無いくらい嫌われております!」
あまりの言葉に絶句し、悲しくなり泣きたくなる。
「うっううう…… ミユキ…… 」
「泣きたいのはこちらです……妻が朝からミユキ様ミユキ様とかなりミユキ様に傾倒しているのですよ!! 何なんですかあの女は我が愛妻を口説こうとするんですよ」
「何?? ミユキはそっちの方だったのか!! では余が女になれば良いのだな!」
バシ!
「バカですか陛下は」
「余は王だぞ! 」
「女一人をものに出来ず何が王ですか。近日中に我が家で宴を開きますからそこで必ずミユキ様をものにするのです。 分かりましたね」
あまりに無礼な振舞いの数々だがミユキに会える事になったので取敢えず許そう
……チョッと怖いし
「わっ分かった」
丞相の妻の溺愛ぷりは有名な話だったが嫉妬に狂った顔を見て改めて認識した。
「朝食はそちらに用意さてありますのでちゃんと召し上がって、仕事に励んで下さい」
「それより昨日言っていたミユキの使用済み 「ありません!」 そっそんな~~~ 」
「私も忙しいのでこれで失礼します」
冷たくそう言い捨て呼び止める暇も無く瞑道を開けてサッサと出て行ってしまう。
一体ミユキは丞相に何をしたんだろう????
あの丞相を此処までいらつかせるとは余以上かもしれない
取敢えずミユキに会える事になったので嬉しい!!
そして、矢張り女になった方がミユキの心をつかめるんではないかと色々考えるのだった。