少年は神を殺そうとしました 『戦闘シーン練習』
「神とは世界のシステムの一つにすぎないのだよ。強いて言うのならば他のシステムの管理職、とでも言おうかな」
白く何もない空間にはシミ一つ無く光る衣を纏う青年と、ボロボロの荒い布を身に巻き付けて剣を持つ少年。
「つまり私を殺しても世界は変わらない。いや良い方向には、だよ。システムが管理されなくなれば世界には矛盾と混沌、そして崩壊しかない。君が行っている行為は無駄どころか、世界に悪影響を及ぼすだけだよ。今なら許すから、去りなさい。ある程度の望みも聞こう。ここまで来たご褒美だ」
青年はニコニコと微笑みを絶やさず少年に向かってそう言う。対して少年は無表情で鋭い視線は青年を突き刺さる。
「不老不死とか、全ての知識を知るとか、神と同等またはそれ以上も駄目だね。でも世界最強の肉体とか、魔力無限とか、その辺りは出来るよ。二つ三つ程度なら叶えられるからさ、言ってごらん?」
「ンなモンはいらねェ。その程度なら努力さえすりゃいつでも出来る。まずンなことに興味はねェ」
少年は目を閉じて、剣を持っていない方の手で頭をガリガリと掻きながら、爪先で地面をトントンと蹴る。
「……へぇ、さりげなく凄いこと言ってるね、君。やっぱり生まれた頃からずっと見てきて正解だった」
ただ、ニコニコと青年は笑う。
少年は両手をダランと力を抜き、ジロリと青年を睨む。
「俺の家族を生き返らすことは出来るか?」
「無理」
青年が即答した瞬間、この空間に一陣の風が走る。それと共に少年の姿はない。青年が後ろに振り返ると、そこには剣を降り下ろそうとする少年がいる。青年が早口で何かを唱えると、赤い板が現れ少年の剣を止める。止められた力を使って爆転し、地に着こうとする足の裏に疾風を吹き起こす。素早く力強い突きに赤い板は割れる。正確には剣に纏っていた魔力によってもだが。
そのまま貫かんとする突きに青年はサイドステップで避ける。しかしその時見た、にぃ、と歪められた少年の顔を見て気づく。
……少年は巨大化魔法が得意だったな。
そう気づいた頃には少年の持つ先ほどの十倍はあるであろう剣によって上半身と下半身は分かれていた。
ゴロン、と転がり落ちる上半身を見て少年はほっ、と息を抜く。
パン、パン、パン。
後ろからは拍手の音がする。はっ、と後ろを振り返ってみれば、そこには自身の剣で二つに切った青年がいた。
「凄いね、君。分身とはいえ僕を殺すなんて。人間界にもそうそう居ないよ。あぁ、それとまだ待ってあげるよ。去るんだったら」
言いかけていると青年の身体は右と左に分かれている。
「早業だね、君」
少年の耳元で青年は言う。ブン、と空気を聞る音と鳴らし少年は青年の首を狙ってなぎ払う。剣は確かに首に当たる。しかし、
「ここからはもうワンランクアップだ」
にっこりと笑う青年の首には傷一つ無いどころか、傷一つ無かった刀身に大きな罅が入る。それに驚きバックステップで距離を置こうとする。
青年の手からは小さく赤い光球から光線が出る。横に転がり、自分が元いた場所を見ると空気中に舞っている塵やゴミが赤く焼けているのが分かる。
背筋に冷たい何かが走る。それを感じた瞬間、
「ほら、遅いよ?」
隣から青年の強烈な右ストレートが鳩尾に入る。
ごほっ、と口から空気が一気に吐き出されるのを感じながら吹っ飛ばされる。ガッ、ガッ、と何度か地面をバウンドして止まる。
少年の口からはヒュウヒュウと空気を求める音がする。
「ほら、立ちなよ。まだ終わってないんだから」
青年は微笑みを絶やさない。細く開いている目には何かが燃えている。
「君の復讐劇はまだ終わらない。君の家族を殺した盗賊を殺し、その盗賊を捕らえられなかった騎士団を殺し、盗賊を生んだ原因である大臣を殺し、その大臣を任命した王族を殺し、王族を生んだ真龍を殺し、そして」
その真龍を生み、何より世界を作った神である僕を殺す。
そう言った青年の首はいつの間にか地面に落ちていた。
「……うるせェンだよ、クズが」
「僕は神」
青年はどこからか、出てくる。
「あらゆる現象を「管理し「操る」
どこからともなく湧いてくる。
「世界を観察し「時には干渉し「時には滅ぼし「時には作り出す」
その数はいつの間にか百を越える。
「さぁ、君はそんな僕を」
『殺せるか』
その全ての顔は同じであり、表情も微笑みを持っている。違うのはただ一人、少年はただ一人である。
「……テメェら、バカだろ?」
少年の言葉に青年たちは首を傾げる。
僕がバカ?そんなはずがない。世界を作りだし、管理し、操り、滅ぼす僕が?
「殺せるとか、殺せないとか、そんな可能性の話じゃねェ」
すでに刀身が砕け散った剣、というより柄を投げ捨てる。手には限りなく圧縮させ剣に模した魔力の集合体を持つ。
「殺すんだよ」
少年の周りにいた十数人の青年の首が宙に飛ぶ。青年たちも少年と同じようなものを手に持ち少年に襲いかかる。
少年はただ、伐って切って斬る。その成熟していない身体には無数の浅い傷と黒い痣。すでに身に纏っていた布は落ちており、ズボンのみとなっている。その顔には笑み。それは狂気を思わせる。
青年たちは斬りながらも斬られ、転がり落ちていく。その顔には微笑み。それは歪みを思わせる。
少年は口でなにやら唱えると、空間に黒い穴を開け、そこから伸びる手で青年を掴み、引きずり込む。
「まだ「そんなに「魔力が「残って「いたのかい?」
「ンなこたァわかんねェよ。ここは魔力の底が分かンねェからな」
答えながらも青年を斬る手を止めない。青年は今もまだ増え続けている。
「そろそろ終いにすンぞ」
背中からは黒い翼と思わせる魔力の集合体。その魔力に触れた青年は青白い光になって消える。
「それは「人間の「域を「越えた「術「だよ?」
「終いだ」
そう言うと青年は黒い翼に飲まれて、消えた。
「やっぱり君は凄いよ。人間でもないのに天使の術を使うなんて」
「やっと本体が出てきたか」
そこには先ほどの青年と同じ風貌の青年がいる。しかし雰囲気が違った。
「成る程な、テメェぐらいになると魔力とか、ンなもンは使わねェのか」
「そうだよ。現象を操るからね」
少年の左足が塵になる。
「……っ!?」
「こんな風にね」
次は右手。
「君は凄いけどまだ早かった」
次は左手。
「その力をもっとうまく、そして強く使えるぐらいだったらまだ手傷を負わせることが出来たかもしれない」
次は耳。
「残念だよ」
次は目。
「本当に残念だ」
次は鼻。
「ようやく僕と渡り合える人間が見つかったと思ったらこんなに弱かったなんて」
次は右足。
「世界をまた滅ぼそう」
次は歯。
「次こそはきっと見つかる」
次は舌。
「僕と渡り合える人間が」
次は身体。
「次こそは」
そして頭。
少年の死と共に世界は消えた。
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