Episode 14 :【〝TEAM・CATS〟】
「アタシらは、〝TEAM・CATS〟。
野良猫みたいに気ままに生きる、自由な奴らの集まりさ。
アタシがリーダーで、アンタにコーヒーを渡したのが、キョウカ。
で、あっちでポテチ食ってるのがマサルで、部屋の隅っこで大人しくしてるのが、アラタ」
「ああ……ドローンを作った子、だったか」
「そう。『僕なりに、みんなの役に立ちたいから』ってさ。しっかりした子だよ」
「……そうか」
アラタの方に視線を向けると、そそくさともう一人の少年・マサルの背中に隠れてしまった。
……どうやら、まだ警戒されているようだ。
パッと見の印象では、アラタは7、8歳で、マサルは10歳前後。
ということは、12歳ぐらいに見えるキョウカは、音葉の次にお姉さん……といった感じか。
「アンタが訊きたいであろうこと、先に答えといてやるよ。
まずは、『子供4人だけで、どうやって生活しているのか』、だろ?」
「……ああ」
5年前に起きた《2050DD》に、〈アフターエリア〉を常に襲う《ヒューマネスト》……。
保護者となるべき大人がいない理由に関しては、言うまでもない。
しかし、だとしても、彼女ら4人だけで、どうやって今日まで生きてこられたのか……。
「食料は、デパートとかコンビニとかから、ちょちょいっとお借りしたもの。
水分も充分にあるけど、一応念のため、煮沸した雨水も保存してる。
…ま、味は最悪だけど、命には代えられないからね」
肩をすくめて苦笑いしながら、音葉は続ける。
「んで、火を使うだけなら、マッチや100円ライターとかで、どうにでもなる。
寝袋や椅子だって、使えそうなものを集めれば、案外生きられるんだよ。なんてったって、お金が必要ないからな」
ニシシと誇らしげに笑う音葉。
成程。どうやら、ただのお遊び半分のキャンプではなく、最低限のサバイバルの知識はあるみたいだ。
その生活力は、称賛に値するが……それでも、肝心な疑問点が、まだ残っている。
「だとしても、《ヒューマネスト》が現れた時は、どうする?
まさか、あの催涙スプレーを使うわけじゃないだろう?」
「……いや、あれも一応貰ったやつだけど、そんなんじゃ意味ねーって分かってるよ。
だから――」
音葉が取り出したのは、何世代も古い機種の、〝Future-Phone〟だった。
「避難施設にいた頃、念のためにって、支給されたやつ。
本当に最低限のことしかできねー、ショボいケータイだけど……こいつのおかげで、《ヒューマネスト》が今どこにいるのか、どこに逃げれば安全かくらいは、一発で分かる。
だから、まあ……あの施設の奴らにも、その点では感謝しないとな」
「――避難施設に、《《いた頃》》?」
聞き捨てならない言葉だった。
「ちょっと待て。君は以前、避難施設にいたのか?
だとすれば、どうして今、こんな生活をする必要がある? そのまま施設にいた方が、ずっと安全だったはずだ」
その瞬間、さっきまでの快活さが嘘のように、音葉の表情から笑みが消える。
……どうやら、迂闊に踏み込んではいけない領域の話だったか。
しかし、ここで引き下がってしまえば、彼女の真意も過去も、何も分からなくなってしまう。
「どうして君が、避難施設を抜け出した、あるいは追い出されたのかは、分からない。
だが、こんな生活、いつまでも続くものじゃない。もっと安全に暮らせる方法があるはずだ」
「……んだよ。偉そうにお説教か?」
音葉の言葉に、棘が混じる。
「言っとくけどな、もう半年くらいは、この生活を続けられてるんだぜ?
みんなで知恵を絞って、ちゃんと今日まで生き延びてきたんだ」
「それはたまたま、運が良かっただけだ。
少しでも体調を崩せば、それが命取りになる。
君が拗らせているのだって、ただの風邪じゃないかもしれない」
俺の追及が激しくなるにつれ、音葉の様子には苛立ちが見え始める。
「あーあー、うっさいなぁ……!
結局アンタは、何が言いたいわけ?」
「成り行き上とはいえ、こうして君達に関与した以上、このまま無視するわけにはいかない。
手遅れになってしまう前に、〝ネスト速報〟を頼りに、近くの避難施設にまで、移動するべきだ。
道中が不安なら、俺が同行――」
――バンッ!!
言葉を遮ったのは、音葉が両手を机に叩き付ける音だった。
「……いいよ。もう分かった。アンタは、〝TEAM・CATS〟の仲間にはしない」
「音葉……」
「アタシは、何と言われようと、あそこに戻るつもりは、絶対にないから!」
感情任せに叫んだ音葉は、そのまま荒々しい足取りで、その場を離れていってしまう。
「ま、待って、ネコ姉……!」
そんな音葉の背中を、アラタは折り畳み傘を手に、慌てて追いかけていった。
……しまったな。初対面の分際で、あまりにも深く踏み込みすぎたか。
だが、俺の言った言葉は、感情よりも合理性を選べば、間違っていないはずだ。
それに、俺には「〈狭間交信局〉に向かう」という、絶対に果たさなければいけない目的がある。
だから、必要以上に、彼女達に干渉することはできない。
とはいえ、ここで出会えたのも、何かの縁だ。
できることなら、手遅れになってしまう前に、音葉達に出来ることを、精一杯してあげたい。
……自分でも、不思議に思う。
なぜ俺は、出会ったばかりの彼女に、ここまで肩入れしているのだろう。
酷な言い方になるかもしれないが、こういう面倒事は避けて、サッサと〈狭間交信局〉に向かう選択肢もあったはずだ。
そうしなかったのは、あいつの言動や雰囲気が、どことなく――。
《――「 」》
……誰かと、似ていた気がするから。
けれど……どうしても、思い出せない。
俺にとって、大切だったはずの、〝誰か〟。
なのに、どうしても――。
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《次回予告》
「お前、なにネコ姉のこと、いじめてんだよ!
お前、全然いいやつじゃないじゃん!」
「俺の方こそ、すまない。少し、熱くなりすぎた」
「……わたしたち、ネコ姉と同じ施設にいたんです。
でも、そこは……夏神さんが思っているような、いいところじゃありません……」
次回――Episode 15 :【居場所のカタチ】




