進む理由
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第七階層。
階段を上がった瞬間、むっとした熱気が全身を包み込んだ。
六階層と同じ濃霧。
同じ湿気。
同じ、濡れた床。
だが――違う。
構造が変わっていた。
広間ではない。
いくつもの小部屋と、それらを繋ぐ狭い通路。
視界は相変わらず数メートル。
そして。
霧の奥で、光が灯った。
――ブゥン。
低い振動音。
次の瞬間、白い霧を裂いて、青白い光刃が横薙ぎに走った。
「伏せろ!」
赤星の叫び。
光は、壁を焼き切った。
石が、溶けた。
霧の向こうに立っていたのは――
人間に“近づいた”マネキン兵士。
六階層の無表情な面とは違う。
目の窪みがあり、鼻梁があり、口元の凹凸がある。
まだ作り物だ。
だが確実に、人間へ寄せてきている。
その手には――
光の剣。
まるで映画に出てくるような、収束したエネルギーの刃。
「光線兵器確認! 白兵戦距離だ!」
ガーランドが吠える。
銃撃。
だが狭い通路では回避不能。
光刃が一閃し、米兵の小銃が両断される。
「ぐあああッ!」
血飛沫。
湿気と鉄臭さが混ざる。
「小部屋ごとに制圧する! 一室ずつだ!」
赤星は突入した。
狭い。
三体のマネキンが同時に踏み込んでくる。
動きは、もうマリオネットではない。
ぎこちなさは残るが、“踏み込み”がある。
学習している。
光刃が振り下ろされる。
赤星は転がるように回避。
足払い。
銃で受ければ溶断される。
その瞬間。
一体のマネキンの懐に飛び込む。
腕を掴む。
捻る。
関節が外れる。
光剣が床に落ちる。
赤星はそれを掴んだ。
熱はない。
だが凄まじい振動。
「……なるほどな」
踏み込み。
斬る。
光が弧を描く。
マネキンの胴体が、滑らかに分断された。
軽い。
まるで竹刀の延長。
その瞬間。
記憶がよみがえる。
――幼い頃。
汗の匂いが染み込んだ木床。
木刀の音。
「帝、足が止まっているぞ」
厳しくも優しい声。
上泉道場。
主の一人娘。
上泉紅。
長い黒髪を束ね、竹刀を構える姿。
勝てなかった。
何度も。
だが、笑った。
「また明日ね、帝」
その笑顔に、恋をした。
自衛隊に入隊してすぐ、俺達は結婚し。
娘が生まれた。
茜。
小さな手。
指を握る温もり。
「パパ、いってらっしゃい」
その声。
――帰る。
絶対に。
赤星の瞳に光が宿る。
「二刀流、か……久しぶりだな」
もう一振り、マネキンから奪う。
両手に光剣。
踏み込む。
斬撃。
回転。
連撃。
光が十字を描き、マネキンを次々と両断する。
「三尉が前を開けた! 続け!」
日米混成部隊が雪崩れ込む。
悲鳴。
血。
焼け焦げる匂い。
それでも一室ずつ制圧する。
別室。
ガーランド大尉が吠えていた。
手には、巨大な戦斧。
白兵戦用に改造された、重量級近接武装。
「邪魔だァッ!」
一振り。
光剣ごとマネキンを叩き潰す。
火花。
金属片。
豪快な笑み。
「来いよ、人形ども!」
背中を預け合い、進む。
上層階へ進む階段を探しながらも、死傷者は増えていく。
だが止まらない。
最後の部屋。
五体のマネキンが待ち構えていた。
赤星は深く息を吸う。
紅の笑顔。
茜の声。
守るべきものがある。
それが力になる。
踏み込み。
閃光。
連続斬撃。
一体。
二体。
三体。
ガーランドの斧が最後の二体を粉砕する。
沈黙。
霧だけが揺れる。
「……制圧、完了」
赤星が呟く。
部屋の奥。
霧の向こうに、下へと続く階段があった。
「八階層か」
ガーランドが肩で息をする。
「奴らは進化している。次は、もっと人間になるぞ」
赤星は頷く。
光剣を見つめる。
自分の手。
震えている。
恐怖ではない。
生きたいという衝動。
帰りたいという願い。
「行きましょう」
家族の元へ帰るために。
人類が進化の塔に飲み込まれないために。
二人は、八階層への階段へと歩み出した。
霧は、さらに濃くなっていった。
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