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言葉の壁

この作品を見つけてくれてありがとうございます。

本作品はステアーズ~宇宙から飛来した巨大ダンジョンを攻略する者たち~のスピンオフというか、前日譚です、本編共々楽しんでいただけたら幸いです。


 第五階層は、それまでの階層とは明らかに異質だった。


 赤星帝は、ヘルメット越しに広がる光景を見上げ、言葉を失った。


 天井は見えないほど高く、淡い白光に満ちている。空間の中心には、巨大な石柱が円を描くように林立していた。一本一本が数十メートルはあろうかという高さを持ち、表面には古代文字のような刻印がびっしりと刻まれている。


 足元は整然と敷き詰められた石畳だった。まるで導くように、曲がりくねった一本道が空間の中央へと伸びている。


 その先――円形に並ぶ石柱の中心に、“門”があった。


 高さ二十メートルはある巨大な石の門柱が二本、何もない空間を挟んで直立している。扉は存在しない。ただ、そこに「通過するための境界」があると、本能が理解してしまう形をしていた。


 「……敵影ありません」


 隊員の一人が報告する。


 赤星も同意した。ここには、あの蜘蛛型機械の残骸も、敵性反応もない。


 静寂。


 それが逆に、不気味だった。


 背後から、低く落ち着いた声が響いた。


 「Beautiful… like Stonehenge.(美しい……まるでストーンヘンジのようだ)」


 振り向くと、ノーマン・ガーランド大尉が立っていた。二メートル近い巨躯に分厚い装備をまといながらも、その表情は穏やかだった。


 赤星は頷いた。


 「……非戦闘エリア、でしょうか」


 「Maybe. Or maybe this is something worse.(かもしれない。あるいは、もっと厄介な何かかもしれない)」


 ガーランドは冗談めかして笑ったが、その目は鋭いままだった。


 彼は振り返り、部下たちを見る。


 「Recon first. No one touches anything.(まずは偵察だ。誰も何にも触れるな)」


 「Roger that.(了解)」


 日米双方の隊員たちが、慎重に石畳の道を進む。


 空間の中心へ。


 門へ。


 赤星の心拍数が、わずかに上がる。


 理由は分からない。


 だが――あの門をくぐれば、何かが起きる。


 そんな確信があった。


 門の前で、両部隊は立ち止まった。


 高さ二十メートルの石門は、圧倒的な存在感を放っている。近づくほどに、空気が重くなるような感覚があった。


 「Radiation normal. Temperature normal. No EM spike.(放射線正常。温度正常。電磁波異常なし)」


 米兵が報告する。


 すべて正常。


 正常すぎた。


 ガーランドは赤星を見る。


 「ensign Akaboshi. Together?(赤星三尉。一緒に行こう)」


 赤星は一瞬だけ迷い、頷いた。


 「……了解です」


 ガーランドは笑った。


 「After you.(どうぞ先に)」


 「いえ、同時に行きましょう」


 赤星は答えた。


 ガーランドは満足そうに頷く。


 「I like you, ensign.(気に入ったよ、三尉)」


 二人は並び、石門の境界線の前に立つ。


 空気が変わる。


 音が消える。


 赤星は、無意識に息を止めた。


 そして――


 一歩、踏み出した。


 瞬間。


 頭の奥で、何かが弾けた。


 視界が白く染まる。


 鼓動が爆発的に加速する。


 無数の音。


 無数の声。


 無数の意味。


 理解できなかったはずの音が、意味を持って流れ込んでくる。


 英語。


 それだけではない。


 知らない言語。


 無数の言語。


 すべてが――理解できる。


 「――ッ!!」


 赤星は膝をついた。


 周囲でも隊員たちが次々と崩れ落ちている。


 「What the hell is happening?!(一体何が起きている?!)」


 誰かが叫ぶ。


 「……You ……俺の言葉が分かるのか?」


 ガーランドが言った。


 赤星は、反射的に答えていた。


 「…………はい、分かります、私には流暢な日本語に聞こえます」


 ガーランドの目が大きく見開かれる。


 「なんてことだ……私には君の言葉は英国人のようなきれいな英語に聞こえるぞ!」


 彼はゆっくり笑った。


 「五秒前まで、翻訳機なんてなかったはずだ」


 赤星も理解していた。


 これは訓練ではない。


 知識を思い出しているわけでもない。


 “理解そのもの”が、書き換えられている。


 


 

 そして――


 互いに顔を見合わせた。


 通じている。


 完全に。


 言語の壁が、消えていた。


 沈黙の中、ガーランドは石門を振り返る。


 「これは……」


 彼は低く呟いた。


 「俺たちを変えている」


 赤星も石門を見上げた。


 ただの石のはずだった。


 だが今は、それが“進化の装置”であると、本能が理解していた。


 この日。


 第五階層の石門は、後にこう呼ばれることになる。


 ――《バベルの門》。


 言語の壁を超える、最初の進化の証として。 その言葉が――翻訳なしで、理解できた。


 赤星は顔を上げた。


 ガーランドと目が合う。




 ☆☆☆



読んでくださってありがとうございます。続きが気になった方はブックマーク、広告の下の☆☆☆☆☆から応援していただければ励みになりますので、よろしくお願いします。


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