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導かれるままに…

 白い反転ののち、帝たちの身体は叩きつけられるように床へ降り立った。


 着地と同時に違和感を覚える。


 ――広い。


 第二層の迷路とは違う。


 遮蔽物がほとんどない。


 半径数百メートルはあろうかという円形空間。床は鈍い銀色。天井は高く、薄暗い。光源は見えないが、全体が灰色の薄明かりに包まれている。


「……開けすぎだろ」


 三雲の声が、やけに響いた。


 嫌な予感しかしない。


「全周警戒。固まるな、間隔を――」


 言い終わる前だった。


 床面が、波打つ。


 円形空間の外周部、同時に十数箇所が膨らみ、裂けた。


 現れたのは――


 蜘蛛。


 いや、戦車だ。


 全高一・五メートルほどの装甲胴体。そこから八本の脚が伸び、低く構える。


 胴体上部には二門の回転式銃身。


 脚先は光刃。


 第二層と同型。


 だが――数が違う。


「……多すぎる」


 索敵担当の声が裏返る。


「熱源二十以上! まだ増えてる!」


 床がさらに裂ける。


 機械の蜘蛛が、次々と這い出してくる。


 包囲。


 完全な包囲。


「撃てぇッ!!」


 銃声が重なる。


 5.56ミリ弾が装甲を削る。


 だが止まらない。


 蜘蛛型の砲塔が旋回。


 火花。


 乾いた連射音。


 味方の一人が、胸部を撃ち抜かれ、仰向けに倒れた。


「被弾! 一名ダウン!」


「医療――!」


「無理だ! 前に出るな!」


 蜘蛛が跳ぶ。


 脚の光刃が盾を切り裂く。


 盾持ちが悲鳴を上げる。


 血が飛ぶ。


「隊形維持! 中央に寄れ!」


 帝は叫ぶ。


 だが遮蔽物がない。


 第二層のように柱もない。


 ここは、純粋な火力戦の場。


(試されてる……)


 第二層で連携を試し。


 第三層で、持久と火力を試す。


 塔は段階的に難易度を引き上げている。


「三雲! 左の個体、脚を狙え!」


「弾がもたないですよこれ!」


「止めなきゃ全滅だ!」


 至近距離。


 蜘蛛の一体が砲塔を向ける。


 帝は横へ転がる。


 床が弾ける。


 衝撃で鼓膜が軋む。


 立ち上がりざま、脚関節へ三連射。


 火花。


 脚一本が吹き飛ぶ。


 バランスを崩す。


「今だ!」


 集中射。


 胴体装甲に亀裂。


 内部から白い閃光。


 一体、沈黙。


 だが――


「弾倉、空です!」


「こっちも!」


 銃声が、途切れ始める。


 残弾警告。


 マガジンを交換する手が震える。


 汗で滑る。


 蜘蛛型の数は、まだ十以上。


「後退は!?」


「階段、見えません!」


 逃げ場はない。


 また一人、撃ち倒される。


 頭部。


 即死。


 三雲の隣で、同期が崩れ落ちる。


「……くそっ」


 怒りより先に、冷たい現実が胸に落ちる。


 このままでは、終わる。


「隊長代理は俺だ!」


 帝は叫ぶ。


 隊長は第二層で失った。


 ここで止まれば、全員死ぬ。


「弾がある者は脚を狙え! 止めろ! 動きを止めれば――!」


 言葉の途中で、衝撃。


 帝の腹部に弾丸が掠める。


 装甲が割れる。


 息が詰まる。


 視界が赤く滲む。


 蜘蛛が迫る。


 脚の光刃が振り上げられる。


(ここまでか――)


 その瞬間。


 世界が、わずかに遅くなった。


 音が遠のく。


 蜘蛛の動きが、読める。


 脚の軌道。


 砲塔の旋回角度。


 弾道。


 すべてが線となって、視界に浮かぶ。


 身体が、勝手に動いた。


 半歩踏み込み、最短距離で脚関節へ射撃。


 最後の弾丸。


 装甲の隙間を、正確に貫く。


 蜘蛛が転倒。


 その下敷きになりながらも、帝は叫ぶ。


「近接で仕留めろ!」


 残った隊員が吶喊する。


 銃剣。


 爆薬。


 手榴弾。


 至近距離での破壊。


 轟音。


 白光。


 耳鳴り。


 やがて――


 静寂。


     ◇


 立っている者は、七名。


 出発時、二十五名。


 死亡十四名。


 重傷二名と衛生兵二名


 弾薬、ほぼゼロ。


 三雲が、呆然と呟く。


「……これ、三階層ですよね?」


 その問いに、誰も答えられない。


 床の中央が、ゆっくりと開く。


 せり上がる構造物。


 現れる階段。


 第四層への導き。


 まるで当然のように。


 帝は血に濡れた手で、銃を握り直す。


 身体の奥が熱い。


 さきほどの“感覚”。


 あれは偶然ではない。


 反射ではない。


 進化。


 塔が与えた、何か。


「……行くぞ」


 それでも、足は階段へ向かう。


 仲間の亡骸を背に。


 弾の尽きた銃を携え。


 第三層。


 それは、人類に初めて“死の壁”を突きつけた階層だった。


 そして赤星帝は、まだ知らない。


 ここから先が、本当の選別であることを。

この作品を見つけてくれてありがとうございます。

そして、読んでくださってありがとうございます。

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