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目覚め

この作品を見つけてくれてありがとうございます。

楽しんでもらえたら、嬉しいです。

 白い天井だった。


 消毒液の匂いが、遅れて現実を連れてくる。


 赤星帝が目を覚ましたのは、脱出から三日後のことだった。


 身体は鉛のように重い。

 全身に包帯。

 呼吸のたびに、どこかが痛む。


 だが――生きている。


 「……ここは」


 かすれた声が出た瞬間、病室の扉が静かに開いた。


 入ってきたのは二人。


 スーツ姿。

 だが、その場の空気を支配する重みが違った。


 防衛大臣、岩倉勇。

 そして――内閣総理大臣、海堂佳子。


 赤星は反射的に身体を起こそうとする。


 「そのままでいい」


 岩倉が制した。


 総理が一歩前に出る。


 「赤星三尉」


 柔らかな声だった。


 だが、その奥にあるのは国家の意思だ。


 「まずは……生きて戻ってきてくれて、ありがとう」


 ほんのわずか、頭を下げた。


 総理大臣が。


 「そして」


 言葉が続く。


 「あなたに、そしてあなた方に……あのような任務を課したこと、心からお詫びします」


 赤星は何も言わなかった。


 ただ、静かに聞いていた。


 岩倉が書類を開く。


 「正式な通達だ」


 淡々とした声。


 「赤星帝三等陸尉は、本件における戦闘および指揮能力を評価し――三等陸佐へ昇級」


 一拍。


 「また、三雲健一三等陸尉をはじめ、殉職した全隊員については二階級特進」


 空気が重くなる。


 「遺族には、特別賞じゅつ金の支払いが決定している」


 赤星の視線がわずかに揺れた。


 三雲の顔がよぎる。


 血に濡れながら笑った、あの最後。


 「……そうですか」


 それだけだった。


 感情は、まだ奥に沈んでいる。


 総理がゆっくり頷いた。


 「本題に入りましょう」


 空気が変わる。


 国家の会議になる。


 「内部の状況について、あなたの報告を聞かせてください」


 赤星は目を閉じ、一度だけ深く息を吸った。


 そして語り始めた。


 「構造体は明確な階層構造を持っています」


 静かな声。


 だが、一つ一つが重い。


 「階層ごとに環境、敵性存在、戦闘様式が変化します」


 第一層。火力試験。

 第二層。連携と空間認識。

 第三層以降――段階的な適応試験。


 「敵は機械兵器ですが……進化します」


 蜘蛛型。

 マネキン。

 人型。


 「最終的には、人間と区別がつかないレベルに到達します」


 総理の表情がわずかに強張る。


 赤星は続けた。


 「さらに……十階層に存在する門」


 あの黒い鳥居。


 「それは、単なる構造物ではありません」


 一拍。


 「人間に“変化”を与えます」


 部屋の空気が止まった。


 岩倉が低く問う。


 「変化、とは?」


 赤星は答えず、別のものを指した。


 ベッド脇に置かれたケース。


 中には、二振りの光剣。


 赤い光を宿したそれ。


 総理が言う。


 「それについては、すでに分析が進んでいます」


 資料をめくる。


 「三種類の鉱石によるエネルギー機構」


 赤星は黙って聞く。


 「一つ目は温度制御」

 「二つ目はエネルギーを剣の形に固定する制御鉱石」

 「三つ目は蓄電――いわばバッテリー」


 岩倉が続ける。


 「微量の電流で高出力エネルギーを発生させる、極めて効率的な装置だ」


 総理が言葉を引き継ぐ。


 「色によって性能が変化する」


 青。緑。黄。橙。赤。


 「温度の上昇とともに、出力も上がる」


 視線が光剣に落ちる。


 「あなたが持ち帰ったこの二振りは、最上位に近い性能」


 総理はケースを閉じ、赤星へ差し出した。


 「返却します」


 赤星はそれを受け取った。


 重みが手に伝わる。


 それはただの武器ではない。


 この塔の“答え”の一部だった。


 「以上を踏まえ」


 総理が立ち上がる。


 「今後の方針は――」


 そのときだった。


 「待ってください」


 赤星の声。


 二人が振り返る。


 赤星はゆっくりと言った。


 「大臣、座ってください」


 岩倉が眉をひそめる。


 「何を――」


 だが次の瞬間。


 赤星の瞳が赤く光った。


 「座ってください」


 低い声。


 命令。


 「……ああ」


 岩倉は何の抵抗もなく椅子に座った。


 総理の目が見開かれる。


 「左手を頭に置いて、右手を前に突き出して」


 岩倉の身体が動く。


 指示通りに。


 機械のように。


 「……え?」


 総理が戸惑う。


 「大臣、何を……?」


 岩倉の顔に困惑が浮かぶ。


 「わ、わかりません……身体が勝手に……」


 赤星は静かに言った。


 「これが、私の能力です」


 部屋の空気が凍る。


 「門を通過した人間は、“異能力”を付与されます」


 一つ一つ言葉を置く。


 「能力はランダムです」


 ガーランド。


 「彼は巨大な熊に変身する能力を得ました」


 三雲。


 「三枚の浮遊する盾を生成する能力」


 そして。


 「中には、力に耐えられず暴走する者もいます」


 スチュワート軍曹の最期がよぎる。


 総理の声が低くなる。


 「……それは」


 赤星は続けた。


 「強制的な進化装置です」


 はっきりと言い切る。


 「この塔は、人類を選別し、進化させています」


 沈黙。


 重い。


 あまりにも重い事実。


 赤星はまっすぐ二人を見た。


 「装備と人員を再編し、再調査が必要です」


 その声は、もう一隊員のものではない。


 現場を見た者の、確信だった。


 「この技術は――」


 わずかに言葉を切る。


 「人類のあらゆる分野を、確実に進化させます」


 兵器。

 医療。

 エネルギー。


 すべてが変わる。


 総理と防衛大臣は、言葉を失ったまま立っていた。


 そして。


 日本という国家が。


 いや、人類そのものが。


 未知の領域へ踏み込んだことを、ようやく理解した。

この作品を見つけてくれてありがとうございます。

そして、読んでくださってありがとうございます。

もし、続きが気になった方はブックマークお願いします。

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