生還
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舞台の上に、血の匂いが漂っていた。
玉砂利の白は、すでに赤く染まっている。
狂戦士となったスチュワート軍曹の巨体は、胸をえぐられたまま倒れていた。
その上に、巨大な熊の足跡。
そして。
舞台の中央に、もう一つの血だまりがあった。
三雲三尉。
赤星帝とガーランド大尉は同時に駆け寄った。
「三雲!」
赤星が膝をつく。
三雲の身体はひどく壊れていた。
狂戦士の拳に叩き潰された衝撃で、肋骨は内側へ折れ曲がり、胸郭は歪んでいる。
呼吸をするたびに血が泡立つ。
ひと目でわかった。
もう助からない。
それでも三雲は目を開けた。
焦点の合わない視線が二人を捉える。
そして、安堵したように微笑んだ。
「……ふたりとも……」
かすれた声。
「無事……だったんですねぇ……」
血の泡が口元からこぼれる。
それでも笑う。
「よかったぁ……」
赤星の瞳が赤く燃えた。
「死ぬな!」
魔眼が輝く。
「三雲!!」
命令の力。
精神へ干渉する異能。
「死ぬな!!!」
だが。
三雲の肉体は動かなかった。
肺の奥から血が溢れるだけだった。
ガーランドは黙って立っている。
熊の姿から戻ったその身体は、すでに傷一つなかった。
再生。
それが彼の《ギフト》だった。
三雲はそれをぼんやり見上げた。
「大尉……すごいなぁ……」
苦しそうに笑う。
「あんな大怪我したのに……ピンピンしてる……」
息が浅くなる。
「俺も……」
目がゆっくり赤星を見る。
「人を……癒せるような力……欲しかった……な……」
その言葉を最後に。
三雲の瞳から光が消えた。
静寂。
玉砂利に血が滴る音だけが響く。
赤星はしばらく動かなかった。
瞳の赤い光も、やがて消えた。
舞台には二人だけが残った。
ガーランドが息を吐く。
「……さて」
腕を組む。
「どうする? 三尉」
天井を見上げるように言った。
「俺はまだ行けるが」
赤星を見る。
「どうやら君の方が限界のようだな」
その通りだった。
赤星は満身創痍だった。
腹の裂傷。
肩の切断寸前の傷。
出血。
立っているのもやっとだった。
赤星は答えなかった。
ただ。
門を見ていた。
じっと。
鳥居の形をした門。
その奥。
赤星が低く呟く。
「……大尉」
「ん?」
「ここから見る門の向こうの景色……おかしくないか?」
ガーランドは顔を上げた。
門を見る。
その奥にあるはずのもの。
無数に続く鳥居。
だが。
それは見えなかった。
そこに広がっていたのは。
淡く青白い光。
そして。
黒曜石のような床石。
見覚えがあった。
ガーランドの眉が動く。
「……あれ」
目を細める。
「第一階層だな?」
赤星がゆっくり頷く。
「今までの経緯をから考えたら、戻れるかもしれんぞ」
ガーランドは無言で三雲の遺体を抱き上げた。
軽くはない。
だが彼の腕はびくともしない。
もう片方の腕で赤星の肩を支える。
「歩けるか?」
赤星は苦笑した。
「大尉が支えてくれるなら」
二人は門へ向かった。
朱色の鳥居の下。
黒い門柱。
ゆっくりとくぐる。
予想通り、世界が歪んだ。
一瞬、視界が白くなる。
そして。
足元の玉砂利が消えた。
そこは。
黒曜石の床石が円形に並ぶ広い空間だった。
第一階層。
その瞬間。
眩しい光が弾けた。
「生存者確認!」
複数のライトが一斉に二人を照らす。
銃口が向く。
そしてすぐにざわめきが広がった。
「待て……!」
米兵の声。
「ガーランド大尉だ!」
無線が飛び交う。
「第一調査隊の生存者!」
別の兵士が叫んだ。
「ガーランド大尉ほか二名発見!」
「担架を早く!」
兵士たちが駆け寄る。
赤星の膝が崩れた。
意識が遠のく。
最後に見えたのは。
三雲の遺体を抱えるガーランドの姿と、眩しいライトだった。
こうして。
進化の塔・第一次内部調査隊のたった二名の生存者は、
十階層から――
生還したのだった。
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