第五話 邂逅と調停の密約
王城広場での混乱から数時間後。夜の帳が降りた王都の裏路地。
AGI=9999で宿に戻っていた歩人は、王女ルーメンからの接触を待っていた。彼が『異世界日誌』に書き込んだルールは、既に発動済みだ。
王女は、歩人を捜索する騎士団を極秘裏に動かし、彼が潜伏する安宿の周辺を特定していた。
王女ルーメンは、騎士の制服に身を包み、たった一人で歩人の部屋の前に立っていた。彼女の顔には、王女としての威厳と、切羽詰まった焦りが混じっていた。
コンコン、と控えめなノック。
「五十嵐歩人さん。中にいるのはわかっています。王国の未来について、お話ししたいのです」
歩人は静かにドアを開けた。ルーメンは、かつて見下したはずの「ゴミジョブ」の生徒が、夜の闇に溶け込むような落ち着きを纏っていることに、一瞬息を呑んだ。
「王国の未来、ですか。僕にはHP=1の荷物持ちの役しか残っていなかったはずですが」
歩人は冷淡に言い放った。
ルーメンは深々と頭を下げた。
「ごめんなさい。あの時、私たちはあなたの真価を理解できていなかった。神崎さんは勇者として優秀ですが、今日の竜崎豪の暴走を見て、私は確信しました。召喚された勇者たちは、戦う力はあっても、世界を『調停』する力がないと」
ルーメンは顔を上げ、真剣な眼差しで歩人を見つめた。
「歩人さん、あなたが裏で何かを仕掛けたことは、私のスキルが感知しています。あなたが持つ『調停者』の力は、この世界のシステムそのものに関わるものなのでしょう?どうか、その力で、暴走する勇者たちと、魔王の脅威から、この国を救ってほしい」
彼女は、勇者たちを信じていないことを自ら明かした。
(よし。こちらから切り出す手間が省けた)
歩人は、ルーメンの焦りを利用することにした。彼は、利用価値のない自分から、必要不可欠な存在へと、ルーメンの認識をさらに上書きする必要があった。
「わかりました。協力しましょう。ですが、僕は聖国王家が推進する勇者システムには関わりません。僕は『調停者』として、影から物事を動かします」
ルーメンは感動したように頷いた。
「もちろんです!あなたには、誰にも縛られない自由を約束します。必要な資金、情報、隠れ家。すべて王国が極秘で提供します」
「一つ、条件があります」歩人は言った。
「なんでしょう?」
「僕のジョブは特殊すぎて、ステータスを上げるだけでは意味がない。僕には、この世界で最も希少な『古代の知識』が必要です。特に、魔王や異世界召喚の『真の法則』が記された文献を手に入れたい」
ルーメンの瞳が揺れた。古代の知識は、王族ですら一部しかアクセスできない秘匿情報だ。
「それは……大変危険な場所にあるものですが」
「僕にはAGI=9999があります。危険はありません。これが、僕があなたの国を救うための『調停報酬』です」
歩人は、王女に逃げ道を与えなかった。
「わか、わかりました。命を賭してでも、あなたが必要とする情報は用意します」
ルーメンは、歩人の冷静な要求と、彼が持つ圧倒的なチート能力に完全に魅了され、同時に畏怖していた。彼女の心の中で、歩人は「救世主」と「恐ろしい支配者」という二つの顔を持つ存在として定着した。
こうして、聖国王女ルーメンは、五十嵐歩人の最初の協力者(兼、監視役、兼、貢ぎ手)となった。そして、歩人の『異世界日誌』には、次なるターゲットの名前が書き込まれた。
それは、竜崎の暴走を止めた、もう一人のヒロインの名前だった。
『神崎 葵ハ、次ニ、歩人ガ求メル古代ノ文献ガ隠サレテイル場所ノ『鍵』ヲ持ッテイル運命ニアル』
聖国王女ルーメン(ヒロイン候補その2)は、歩人の能力に心酔し、彼に忠誠を誓った。
残るは、歩人の身を案じる神崎 葵だ。歩人は、彼女を道具として利用しようとしているのか、それとも別の感情があるのか。物語は、いよいよハーレム要素と王国の陰謀が交錯する局面へと入っていく。
どうも、筆者の【世界法則調整委員会】です。
第五話をお読みいただきありがとうございます!
今回は、いよいよヒロインの一人、聖国王女ルーメンとの接触と密約が描かれました。
歩人くんの戦い方は本当にスマートですよね。力で屈服させるのではなく、相手の欲望(国を救いたい)をルールとして固定し、自発的な協力を引き出すという、まさに「調停者」らしいやり方でした。ルーメン王女の心は、もう完全に歩人くんに奪われましたね。彼女は最高の情報提供者兼、資金源となってくれるでしょう。
そして、歩人くんの狙いは、魔王討伐ではなく、「古代の知識」、つまり「世界の真のルール」です。彼はこの世界を根本から理解し、支配しようとしている。ゾクゾクしますね!
次なるターゲットは、もう一人のヒロイン、神崎 葵(聖剣使い)です!
『異世界日誌』に書かれた「運命」の通り、彼女は歩人が求める鍵を持つことになります。歩人はAGI=9999を使って、葵の最も近くに潜入し、鍵を奪い取るのか?それとも、彼女の優しさと正義感を利用して、協力関係を結ぼうとするのか?
特に、クラスメイトの暴走に心を痛めている葵は、「世界を裏から調停する」という歩人のやり方に、戸惑いながらも惹かれていくことになるかもしれません。
次章も引き続き、ご期待ください!
--- 世界法則調整委員会 ---




