第三話 影の支配者(アンダーコントローラー)
AGI(素早さ)のステータスを最大値の9999に固定した歩人は、最早、このダンジョン内では物理法則を超越した存在だった。
新:「五十嵐 歩人ノAGI値ハ最大値(9999)ニ固定サレマス」
彼の体は、光の残像となって石の通路を駆け上がり、たった数分で地下ダンジョンの最上層、そして王都の裏路地の出口にたどり着いた。
王都は賑わっていたが、歩人の視界では全てがスローモーションに見える。人々がゆっくりと動き、馬車が停止しているかのように見える中、歩人は影から影へと移動し、誰にも気づかれずに裏路地の暗がりへと消えた。
(まずは情報収集と、当面の資金確保だ。竜崎たちに見つかるのは避けたい。奴らが調子に乗って王都でトラブルを起こすのは時間の問題だろう)
歩人は、自分が追放されたことへの復讐心よりも、このチート能力がもたらす可能性にワクワクしていた。
「調停者の力があれば、俺は戦う必要すらない。この世界そのものを、俺の望むようにデザインすればいい」
彼はMPを使い切り、新たに「ルール介入」を発動した。
ターゲットは、王都の裏路地に転がっていた、錆びた古い鉄くずだ。この世界の一般的な価値観では、数十ギル(最安値)にも満たないゴミだろう。
歩人はその鉄くずを手に取り、そこに適用されている「価値」の法則を書き換えることにした。
「【ルール介入】、ターゲット:この鉄くず。『この物品が王都のどこかの店で売却される際、その売却額ハ、ランダムデ通常ノ100倍カラ1000倍ノ価値ヲ持つ』というルールを適用!」
新:「鉄くずハ、売却時、100倍~1000倍ノ価値ヲ持つ」—検証完了。新法則ノ適用ヲ開始シマス—
MPが再び0になったが、問題はない。歩人はその鉄くずをボロ布に包み、王都の目立たない場所にある買取店へと向かった。
AGI=9999のおかげで、移動は一瞬だった。
古びた買取店の老店主は、カウンターで居眠りをしていた。歩人は彼に気づかれないように、鉄くずをカウンターに置いた。
老店主がゆっくりと目を開け、鉄くずを見て鼻で笑う。
「なんだい、兄ちゃん。こんな錆びた鉄くず、せいぜい30ギルくらいだが……」
老店主が鉄くずに触れた瞬間、彼の鑑定スキルが発動した。
「なっ……なにごる!?」
老店主は飛び上がって叫んだ。鑑定結果の数字を、彼は二度、三度と目をこすって確認した。
アイテム:錆びた鉄くず 鑑定結果:9,250ギル 特記事項:古代製錬術の痕跡あり
「どうしたんですか、店主さん?」
歩人は演技で驚いたふりをする。
「いや、なんでもない!これは、その……希少な古代の製錬技術が施されているようだ!9,250ギルで買い取ろう!」
店主は震える手で金を支払った。彼はこの鉄くずを、鑑定士に売りつけることで、さらに大きな利益を得られると考えているのだろう。
歩人は、その「価値」が、自分の介入によって生まれたものだと知っていた。
(よし。これで当面の資金は確保だ。あとは、クラスメイトの動向を探るための情報源が必要だな)
歩人は、MPが回復したのを確認し、新たな法則の準備を始めた。ターゲットは、彼が滞在する宿の、ごく普通の「ノート」だ。
歩人は、王都で最も安価な宿にチェックインし、薄汚れた部屋でそのノートを開いた。
「【ルール介入】、ターゲット:このノート。『このノートに記載された事柄は、真実デアルカ否カニ関ワラズ、全てこの世界ノ人間ノ認識ニトッテ絶対的真実トナリ、周囲ノ出来事ヤ記録、記憶ニ影響ヲ及ボス』というルールを適用!」
新:「歩人ノ書キ記シタ内容ハ、周囲ノ人間ノ『真実』ヲ上書キスル」—検証完了。新法則ノ適用ヲ開始シマス—
ノートは、歩人にとって、「世界を操るための魔法書」に変わった。彼は早速、ペンを走らせる。
「まずは、情報源だ」
彼は一筆書きで、一つのルールを設定した。
『王城ノ秘密情報組織ハ、五十嵐 歩人ガ、行方不明ノ勇者デアッテ、影デ動イテイル事ヲ、既に認識シテイル。彼ラハ歩人ニ協力シ、情報ヲ提供スル』
これは嘘だ。王城の誰一人として、歩人を影の勇者とは認識していない。だが、このノートに書かれた瞬間、それは「真実」となる。
そして、歩人は、クラスメイトへの復讐への準備を始めた。
『狂戦士(竜崎 豪)グループハ、明日正午、王城デ重要ナ任務ニ就ク途上、重大ナミスヲ犯ス運命ニアリ、その原因ハ、彼ラノスキル『狂乱ノ咆哮』ノ暴走デアル』
歩人は静かにノートを閉じた。
(俺に手を出すとどうなるか、身をもって知ってもらう。俺は、お前たちを物理的に叩きのめす必要はない。運命を上書きするだけでいい)
彼は、この世界の「ルール」を操る、影の支配者として、第一歩を踏み出した。
どうも、筆者の【世界法則調整委員会】です。
第三話もお読みいただきありがとうございます! 歩人くんの【ルール介入】、いかがでしたでしょうか?
今回は、歩人くんのチート能力が、ついに「戦闘」から「経済」、そして「情報・運命」へと適用範囲を広げましたね!
AGI=9999で姿を消し、錆びた鉄くずの売却額を100倍~1000倍に上書きする!
『調停者』の強さは、殴り合いの強さではなく、この世界の根幹である「法則」を自由にいじれるところにある、というコンセプトがよく表現できたかと思います。
そして、登場しました。歩人くんのチートアイテム、『異世界日誌』です!
このノートに書き込んだことが、この世界の「絶対的真実」となるというルール。もう最強すぎて笑っちゃいますね。今後、歩人くんは物理的な苦労を一切せず、このノート一つで、クラスメイトや王国の運命を、まるでチェスの駒のように動かしていくことになります。
引き続き、ノリと勢いでお届けしていきますので、ご期待ください!
--- 世界法則調整委員会 ---




