第十四話 守護者の嘆きと時空の亀裂
歩人の目の前に立つ、憎悪に燃える半透明な鎧を纏った神崎葵の魂。彼女の魂は『守護者』として再構築され、手に握る聖剣は赤黒い光を放っていた。
「調停者……貴様の、支配を、終わらせる!」
葵の魂から放たれる一撃は、かつての聖剣使いの比ではなかった。純粋なシステム維持の法則を体現したその力は、第十三区画の岩盤を容易く砕いた。
歩人は、AGI=9999でその一撃を紙一重でかわす。激痛に耐える詩織とルーメンから吸い上げた活力のおかげで、彼のMPは満ちていた。
「葵。無駄だ。君の魂は、僕のルールと、反転者のルールという二重の支配下にある。僕と戦うことは、君の魂を永遠に擦り減らすだけだ!」
「それが、私の……調停よ!」
葵の守護者としての攻撃は、歩人への愛着と、裏切られた絶望が混ざり合った、悲痛な叫びを伴っていた。彼女の攻撃が歩人に掠めるたび、歩人の支配に縛られている詩織とルーメンの体に激痛が走る。
「くっ!歩人様……葵の力が、私たちの、支配を、逆流させている!」詩織は呻く。
「舞!反転者の動きを追え!奴は、ただ葵を戦わせているだけではない!」歩人は叫ぶ。
舞は、自身の探索者スキルで、祭壇の周囲を高速でスキャンした。
「歩人くん、見つけたわ!反転者は、葵ちゃんの証をコアにして、祭壇の魔力を使って**『時空の亀裂』**を開こうとしている!ターゲットは……**元の世界(日本)**よ!」
反転者、金髪の青年は、冷たい笑みを浮かべていた。
「調停者。お前が世界法則を弄んだ代償だ。お前の故郷、元の世界に、このアストレイア大陸の**『システム崩壊』**の法則を流し込んでやる。世界を広げてやろう!」
反転者が開こうとしている時空の亀裂からは、異世界の魔力と、**不安定な『法則の波』**が流れ込んできた。この法則の波が元の世界に流れ込めば、日本の法則、ひいては地球全体の物理法則が崩壊する。
歩人は、自身の調停が、異世界だけでなく、元の世界をも巻き込む最悪の事態を引き起こすことを悟った。
「僕の調停は、ここだけに留まらない、か……!」
歩人は、もはやルールの上書きを試みる猶予はないと判断した。彼は、自らのAGI=9999を最大限に活用し、**「最終調停」**のための準備を強行した。
「ルーメン!詩織!君たちの全活力を、僕に注ぎ込め!祭壇への経路を、一瞬で開き、僕のMPを限界まで回復させろ!」
「はい、歩人様!私の命を、法則に!」ルーメンと詩織は、激痛と快感に顔を歪ませながらも、最後の活力を歩人に献上する。
歩人は、二人の肉体を通じて魔力を吸い上げ、その力を利用して、守護者・葵の魂の背後に回り込んだ。
「葵。許せ。君の絶望は、僕の調停を完成させるために不可欠だった」
歩人は、葵の魂を抱きしめ、彼女の魂に直接、**最後の『ルール介入』**を刻み込んだ。
「【ルール介入】、最終調整。ターゲット:神崎葵の魂。『神崎葵ノ魂ハ、召喚システムノ守護者ノ役割ヲ放棄シ、自身ノ存在ヲ『時空の亀裂ヲ塞グ**『楔』**トシテ固定スル』**というルールを適用!」
新:「神崎 葵ノ魂ハ、時空ノ亀裂ヲ塞グ**『永遠の楔』**トナル運命ニ固定サレル」
葵の魂は、憎悪の炎から、悲痛な青白い光へと変わった。彼女の守護者としての役割は消え去り、その魂は時空の亀裂へと吸い込まれていった。
「歩人、くん……ありがとう……これで、私も、貴方様の……調停の、一部に……」
葵の魂が楔となり、時空の亀裂は一瞬にして閉じた。元の世界への脅威は去ったが、その代償は、ヒロインの魂の永遠の固定化という、最も残酷な形となった。
「これで、障害は一つ消えた。反転者。今度は、君の番だ」
歩人は、絶大な魔力と、三人のヒロインの犠牲の上に立って、最終調停のルールを構築するため、聖痕の祭壇へと足を踏み入れた。
--- 世界法則調整委員会 ---




