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第1話 プロローグ

 西暦20XX年。

 沖縄県・西表島の密林に突如として発生した“ゲート”は、人類の歴史を決定的に変える惨劇の幕開けだった。


 後にこう呼ばれることになる――

 第一次西表島暴走事件《だいいちじ いりおもてじま ぼうそうじけん》。


 当時、誰もがまだ「ゲート」を未知の研究対象程度にしか思っていなかった。

 軍も研究機関も「危険は限定的だ」と高を括り、最先端の兵器を投入すれば容易に抑え込めると考えていた。


 だが、それはあまりにも楽観的すぎた。


 開かれたゲートの奥から現れたのは、常識では説明できない怪物たち。

 戦車の主砲が直撃しても立ち上がり、ミサイルの爆炎を浴びても肉体を再生する。

 銃弾は皮膚をかすめるだけで、まるで豆鉄砲のように弾かれた。


「なんでだ……直撃だぞ!」

「弾が効かない! あいつら、どうなってるんだ!」


 西表島に派遣された自衛隊と米軍の混成部隊は、わずか数時間で壊滅した。

 炎上する装甲車、絶叫を上げながら蹂躙される兵士たち。

 遠く離れた本土のテレビやネットに、その光景は生中継で流された。


 画面越しに見守る人々は、ただ呻くことしかできなかった。


「……嘘だろ」

「兵器が、通じない……?」

「もう終わりだ……人類は、怪物に勝てないんだ……」


 国中が、いや世界中が絶望に沈んだ。

 人間が誇ってきた文明の力が、まるで意味を成さない。

 その事実が、戦慄をもって突きつけられたのだ。


 しかし――その時。

 混乱の最中に、突如として立ち上がったのはごく一部の人間たちだった。


 彼らは銃を持たず、己の肉体から溢れる“力”を振るった。

 剣を振り下ろせば大地を裂き、魔力を込めた炎は怪物の装甲をも焼き尽くした。

 その力は科学では説明できず、後に「覚醒者とうばつしゃ」と呼ばれるようになる。


 ――討伐者。

 人類が怪物に抗う唯一の希望。


 その存在は世界を救った。

 暴走は完全に止められたわけではなかったが、討伐者たちが怪物の進行を封じ、ゲートを閉じることに成功した。

 だが、代償はあまりにも大きかった。西表島は廃墟と化し、犠牲者の数は一万を超えたとされる。


 この事件以降、世界は変わった。

 ゲートは各地に出現し、討伐者の存在なくして人類は生き延びることすらできなくなった。

 彼らは国家に所属する「特殊国家公務員」として絶対的な地位を与えられ、軍や警察をも凌ぐ力と権限を持つようになった。


 そして日本にも――討伐者の頂点に立つ存在が現れる。



 東京・渋谷。

 スクランブル交差点を埋め尽くす巨大スクリーンには、一人の女性の姿が映し出されていた。


 銀色の髪を揺らし、鋭い双剣を振るうその姿。

 気品ある美貌とは裏腹に、彼女は戦場でモンスターを容赦なく切り刻む。

 鮮血を浴びてもなお一切怯むことなく進む姿に、人々は息を呑んだ。


 ――氷室アリス。

 その名は誰もが知る、日本最高峰のS級討伐者。

 国民からは「アリス様」と呼ばれ、メディアからは「血塗れの戦姫」と讃えられる存在。


「見ろよ……アリス様だ」

「やっぱり俺たちの希望はあの人しかいない!」


 雑誌の表紙、街角の広告看板、テレビの特集。

 彼女は今や、討伐者という存在そのものの象徴になっていた。



 一方その頃。

 別の戦場で、同じくS級の男が立っていた。


「篠崎烈火、暁ギルド所属――突撃するぞ!」


 彼の名は篠崎烈火。

 炎を纏う刀を振るうその姿は、まさに戦場の猛火そのもの。

 圧倒的な力をもってモンスターの群れを切り伏せ、仲間を鼓舞する姿は、同じS級である氷室アリスとはまた違ったカリスマ性を放っていた。



 こうして世界は、数少ない“英雄”たちの力に支えられていた。

 だが同時に――

 この時まだ誰も知らなかった。


 ごく平凡で、最弱と蔑まれた一人の少年が。

 やがてこの英雄たちと肩を並べ、あるいは凌駕する存在となることを。

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