表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
塩対応のクラス委員長が俺の嫁になるらしい。  作者: 白ゐ眠子
第三章・執着の恐怖を打ち払いたい。
83/96

第83話 巻き込まれ事案は御免被る。

 (さき)の寝相が一時的に改善出来たらしい。


「当分の間は同じ睡眠方法で安心感を与えないとな」

「与えてくれるなら、私としても心強いかな?」


 やはり、俺との繋がりが(さき)にとっての良薬のようだ。

 俺も似たり寄ったりだから人の事は言えないが。

 昔の俺にも覚えがあるからな。


「まさか、(さき)が同じ事を選択していようとは」

「何か言った?」

「いや、なんでも」


 俺達はいつもの時間より少し早めに家を出た。

 引っ越しで通学路が変化した事で、以前の住居との距離感の違いを把握する必要があったのだ。

 (さき)は早々に目覚め、朝風呂に入ったうえで朝食まで用意してくれた。

 俺が(さき)の寝相に巻き込まれていたから配慮してくれたようだ。

 本来なら早朝トレーニングもあったが、夏季休暇の間は中止する事にした。


(その原因が野郎だからな。早朝から蠢くゴミ虫を警戒するのは当然だよな)


 それもあってコースルートの選択も後回しとした。

 当分の間は自室トレーニングのみに尽力するしかないようだ。

 休日は自転車デートをしたりするから運動不足にはならないだろうが、そればかりというのも(さき)に悪いので、近日中に買い物デートをする約束をしている。

 そこでふと俺は気になった事を問うてみた。


「そういえばお義父さんから何か連絡はあったか?」

「父さんから? 無いよ?」


 返答はきょとんと首を傾げるだけだった。

 可愛すぎる仕草だろうに。

 (さき)を一瞥した俺は正面の信号機に意識を割いた。


「そうか、無いか」

「どうかしたの?」

「いや、侵入者が入るものと思っていたからな」

「あ、存在そのものを忘れていたよ」

「おい……と言いたいが、俺もだから仕方ないか」


 新居での生活に慣れる。

 その事が忘却の原因になろうとは。

 本当なら忘れていい存在なんだけどな。

 すると(さき)はスマホを取り出し、


「父さんに聞いてみる」

「歩きスマホはするなよ」

「信号が赤だから大丈夫だよ」


 お義父さんへと電話していた。

 メッセージを選択するかと思ったが奴の名前を画面上に残したく無かったようだ。

 徹底しているよな、こういう面は。


「おはよう、父さん。朝から? うん、少し気になってね」


 電話越しに聞こえる声音は少々忙しそうな感じがした。

 朝から出張の準備でもしているのかと思いたくなるな。


「あ、出かける時間帯だった? えっ?」


 (さき)はきょとんとしたと思ったら右頬が引き攣った。


「ワンコ達を警戒するのは仕方ないけど、それは……」


 ワンコ達、それは(さき)の家で飼っている番犬だな。

 子供の頃に見た時は大きすぎて泣きたくなったよな。

 十年以上も過ぎているから別の犬と交代していそうだが。


「じゃ、じゃあ、今から裁判所? そう、気をつけてね」


 裁判所? この単語の意味から察する事が出来るのは?


「まさかと思うが、入っていたのか?」

「それとは少し、違うかな」

「違う?」


 どうにも煮え切らない態度だな。

 何があったんだ?


「実家には専用の集積所があるのね」

「えっと、ゴミのだよな? 残飯を捨てる?」

「そうそう。そこにね……生ゴミ臭をさせた」

「あ、読めた」

「口に出したくないゴミ虫が、ね」


 潜んでいたと。

 奴にとっておあつらえ向きの場所だよな。

 分かった瞬間に笑いそうになったが(さき)は被害者なので我慢した。


「ゴミ虫が住処に居座ったか」

「居座ってほしくないけどね」


 発見したのは家政婦と回収車の担当だった。

 ゴミ集積所に人が潜んでいたら事件だよな。

 それも電波の受信機を所持した不審者だ。

 警察沙汰にすると面倒が降ってくるので内々で処理して裁判所に保釈違反があった事を報告するようだ。

 裁判は婦女暴行関連だが(さき)は別件での被害者だ。

 違反項目に該当するため俺が連絡を入れる前に飲兵衛が動く事になったと。

 なお、ゴミ虫の処遇は家令を通じて嫁が出張って連れて行ったらしい。


「奴は自滅願望でもあるのか?」

「どうだろうね。俺様ルールで動いているから、その願望すらも無さそうだけど」

「ああ、根底から非常識だったな」


 自分を中心に世界が回っていると勘違いしている花畑だもんな。

 ただな、その花畑には心強い味方が居るから困りものだった。


「不服申し立てしそうだな。弁護士が」

「集積所に居た理由を問われたら、何て返すつもりかな?」

「電波の受信機付きだからな。探偵の真似事をさせていましたとか言いそうだが」

「盗聴器があるからって? 通用するかな?」

「自分が調査依頼していたとかな。どだい無理な話だが」


 そもそも、(さき)の実家に盗聴器は無い。


「どういう事?」

(さき)の実家はマンションと同じなんだよ」

「ふぇ?」


 実家にはマンションと同じ盗聴防止が施されている。

 その実績を買って、爺さまが採用した。


「実験的に施しているらしい。警備会社のシステムにな」

「ほへぇ。それは知らなかったよ」


 経営者の家には産業スパイがわんさか訪れる。

 なのでお義母さん以外には教えていなかった。

 俺も説明を受ける際に初めて教えてもらったからな。

 その信頼に対してとても重く感じてしまうが。


「盗聴器が物理的に無い家に、その理由は当てはまらない」

「論破されるって事ね。弁護士がそれでいいのかな?」

「どうせあれだろ? 奴等と同じで不正取得とか」

「あー。納得だよ」


 やりかねないから始末が悪い。



 §



 学校までの通学時間は以前より十分追加される距離感だった。


瑠璃(るり)が遅刻ギリギリな理由が分かったかも」

「問題は途中の幹線道路だよな。時間帯によっては詰む」

「歩行者よりも自動車優先なのが、ちょっと困るよね?」

「あれは少しでも多くの車を走らせる必要があるからな」


 それが存在する以上は早めに通学する必要がある。

 これが送迎車での行き来であれば問題はないのだが。


「歩道橋も一応あったけど、一カ所だけって」

「遠すぎて使い物にならないよな」

「家選びは利便性も重要と」

「いい勉強にはなったな」

「うん」


 その勉強代は相当な金額になったけどな。


「ただ、(さき)にとっては実家から通っている体裁があるから」

「あ、そうか。口裏合わせも必要だね?」

「実家を出て俺の住んでいるマンションで生活を始めたと」

「仮に教えるとしても瑠璃(るり)だけになるけどね」


 家電に連絡してくるのはそう思っているからだ。

 普段はスマホへと任意転送されていたのだろう。


「何処から漏れ出るか分からないもんな」

「信頼出来る人って義姉さんくらいだし」

「最初の旅館で以下略だった将来の義姉さんだけか」

「あれは忘れようがないね。まだ耳に残っているもん」

「表沙汰には出来ないがな。一方的に信頼を裏切るから」

「だよね」


 ゴミ虫の回収が叶ったとしても脅威は未だに存在する。


「以前のマンションも把握されていた可能性があるしな」

「会長達と行き来していたから追跡の可能性が、ね?」


 そうでないと俺達の通学路に不審者共が現れなかっただろう。

 現れた地点はマンションの近隣。

 女性が多く暮らす場所の近くで野郎共の報復行為。

 一人だけ女が居た事を考慮すると、何らかの理由で集まったとしか思えない。


「元D組の女子が痴漢行為に遭った、犯人は俺って筋書きがありそうだな」


 それならば野郎共が報復してやるよと動いたとしても不思議ではないな。

 (さき)との婚約もゴミ虫の彼女を奪ったとか都合良く思っていそうだ。


「は? それなんて有り得ないでしょ?」


 (さき)は否定するが、


「有り得ないけどな。それくらいは捏造するぞ? 実績だけは無駄にあるし」

「実績かぁ。信頼のない実績だね」

「信頼のない実績だが周囲は簡単に信用する。あのマンションの住人なら特にな」

「男嫌い……そうだよ。それが居たよ。退去して正解だったね」

「だな」


 奴等には俺を貶める実績だけは無駄にある。

 捏造を無自覚に信用する者達の下地もあった。

 あの場で警察の名を出さなければ思い通りの事案になっていただろう。

 無手の相手に得物を振りかざす時点で警察がどう捉えるか分かるから。


(逃げた奴等の中に状況判断に長けた者が居た事が救いかね?)


 どちらにせよ大事にすれば住人が声を大にして騒いでいただろう。

 学校の昇降口に到着した俺達は大きな溜息を吐いた。


「この巻き込まれ事案、いつになったら解決するんだろうな」

「本当、いい加減片付いて欲しいよね?」


 願ったところで俺達に出来る事はあまり無い。

 現状は司法に委ねるしか、手が無いから。

 すると会長達が姿を現した。


「痴漢捜索に躍起になるのはいいけど、いい迷惑よね」

「本当ですね。誰が言い出したんだか?」

「どうせ、(さき)さんに恨みを持つ誰かさんでしょ」

「ああ、例の」


 会長と副会長の会話はついさっき話し合った捏造だった。


「なぁ?」

「うん」


 該当人物不在のマンションへと痴漢情報のリーク。

 騒ぎになるのは当然で飲兵衛の苦労が忍ばれるな。

 騒ぎの首謀者もお局様みたいだし。


「捏造を信じる下地が活動を始めたか」

「会話を聞く限り、住んでいる情報だけと」

「こうなるとファミリー層が退去しそうだな」

「だね。女性専用だけで食べていける訳ではないのに」

「結果的に自分の首を自分で絞めると」


 なんて話し合っていたら、


「飲兵衛からだ」

「なんて?」


 飲兵衛から緊急のメッセージが飛んできた。


「マンション経営辞めるってよ。逃げになるけど対応出来ないって」

「経営は副業だもんね。住人の対処まではどうあっても無理だよ」

「一旦、伯父に全権を移して、同じマンションに引っ越すそうだ」

「そうなんだ。結局、尻拭いは会長のお父さんと」


 もしかするとあのマンションは老朽化を理由に解体されるかもな。


「本格的に強制退去が現実味を帯びてきたな」

「捏造に踊らされた自業自得って事でしょ」


 解体後は駐車場か何らかの建物が建ちそうだな。

 あそこは優木(ゆうき)家の私有地だから。

 俺達は会長達から気取られる前に職員室に向かう。


「おはようございます。鍵を借りにきまし……た?」

「あれ? 先生方が居ない?」


 何故か誰一人として職員室に居なかった。


「温かいコーヒーがあるよ?」

「なら神隠しか? んなわけないか」

「椅子の向き的に全員で何処か出かけたとか」

「コーヒーを淹れてか?」


 これは一体、何が起きているのやら?




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ