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塩対応のクラス委員長が俺の嫁になるらしい。  作者: 白ゐ眠子
第三章・執着の恐怖を打ち払いたい。
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第79話 一緒に暮らす幸せと遠い目。

 二泊三日のサイクリング・デートから地元に帰ってきた。


「輪行せずに帰ったが、意外と走れたな」

「うん。私も自分の体力にビックリした」

「とはいえマンション直行だと遭遇するから」

「そうだね。私の実家に寄ろうか?」

「だな。向かうか」


 俺達は結構な距離を二人で進んだのだが意外や意外、問題なく走れた。

 一番の問題は時間帯だったな。

 時間的に少々遅めだった所為で男嫌い共の帰宅時間と被っていたのだ。

 そのまま帰るとあーだこーだと騒ぐことが目に見えていたからな。

 (さき)の提案で(さき)の実家へと向かう俺達だった。


「正直、逃げているようで、気が進まないが」

「仕方ないよ。あの人達はそういう人種だし」


 随分前にマンションの仕事で呼び出された時は何で男が居るって騒いだ。

 その時は高所だったので交換して欲しいなら自分でどうぞと言って黙らせた。

 だが、そこはLED電球だったので切れていなかった。

 呼び出した当人が電源を元から切っていただけというオチだった。

 あれも後で知った事だが飲兵衛の再婚が許せない嫌がらせだった。

 飲兵衛は気にしておらず放置しなさいと返してきたな。

 裏では色々調査して強制退去の手続きをしていたがな。

 祖父母の存命だった頃から住まう問題住人らしいから。


「そうなんだがな」


 毎朝の通学時間を思うと正直嫌になっていた俺だった。


「それこそ、この夏の間に引っ越ししようかと検討を始めたしな」

「え? 引っ越し?」


 そう、引っ越しだ。

 最近知った事だが学校の裏門から少し離れた場所に新築マンションが建っていた。

 雑木林と小高い山の所為で見えていなかったが、位置的に今から向かう高級住宅街の中間地点に存在していたのだ。

 今のマンションからの所要時間は半分だな。


「で、そこのオーナーを調べたら」

「調べたら?」

「俺の爺さまだった」

「はい?」


 俺の爺さま。

 相談役の仕事の傍ら不動産企業を経営していた。


「それでも一棟しか建っていないがな。可能なら上の方が買えたらなって思って」

「か、買う?」


 そこは飲兵衛のマンションに比べると高さはない。

 その分、耐震補強が加わった防犯設備が充実した新築マンションだった。


「俺達の住居だよ」


 当初の予定では老朽化が目立つ今のマンションを購入する事になっていた。

 だがな、それは少々冒険に思えたんだよな。


「えっと、マジ?」

「マジ」


 俺の個人資産だと一室くらいなら購入出来る。

 車を買う事が出来なくなるが、


「怯えて暮らすくらいなら、いっそ移った方がいいかなって」


 (さき)との新生活を考えるならそれが一番だと思った。


「あ、そういう」

「大手を振って生活したいだろ? 同じところに住み続けるならな」

「それを言われるとそうかも」

「流石に近隣住人を選ぶ事は出来ないが、今よりはマシだと思いたい」

「男嫌いの巣窟よりはいいかぁ」


 ただこれも、お義父さんの許可を得てからになるが。

 爺さまには早い段階で連絡を入れており『孫の頼みなら安くするぞ』と言われた。

 これは親族価格だろうな、きっと。

 タダにしない辺りは商売人だが。


「ある意味で怪我の功名だが、今回は助かったかもな」

「助かった?」

「帰宅報告とお嬢さんを下さいが出来るから」

「お嬢さんを下さいって私達は婚約済みだけど?」

「違う違う。今度は俺の名義は……出来ないから、親父の名義になるだろうが、正式に凪倉(なくら)家の家に嫁いでもらう形になるから」

「あっ! そうか。今の家だとウチの?」

白木(しらき)名義だからな。(さき)としてもそれがいいだろ?」

「いいと思うけど」


 ん? 煮え切らない反応だな。


「マンションなんて買えるものなの?」


 そっちの心配か。

 学生の立場だとそうなるだろうな。


「大丈夫だよ。親父が間に入って契約手続きしてくれるから。代金は立て替えになるが、爺さまもその点は了承済みだ。本日付で飲兵衛辺りに話が降りているはずだ」

「なるほど。そういう事だったんだ」


 丁度、俺のスマホに飲兵衛からメッセージが飛んできた。


(上客が逃げた? それなら男嫌い共を放置するなよな)


 俺は恩を仇で返す事態になっては困るので退去後の住人を紹介しておいた。


(お? 喜んでる。あとはこちらの許可を得るだけと)


 その住人はアレクの腐れ縁。

 結婚したリサだった。

 現在は仮住まいに住んでいて防犯面で安心出来る家を探している最中だとか。

 リサの家もそこそこの資産家だ。

 なので大丈夫だと思いたい。

 なお、結婚相手は同性だ。

 克服は出来たが男に触れられる事は苦手らしい。


「何してるの? 急に止まってスマホ弄って?」

「飲兵衛に次の住人を紹介した。幸い、男嫌いが居ても気にする必要がない相手だ」

「え? それってまさか?」

「そのまさかだよ」


 俺はペダルを漕いで(さき)に近づく。


「求める者にとっても安心出来る場所だろ?」

「そうだね。兄さんが戻ってきたら会長も退去するし」

「間のファミリー層には悪いが、我慢してもらおうか」

「こればかりはどうすることもできないしね」


 こうして俺達は(さき)の実家へと到着した。



 §



 (さき)の実家へと到着して……一泊した。

 お嬢さんを下さいをしたら大笑いされて宿泊を促されたのだ。


「どうしてこうなった?」

「父さんが言うには『そんな事だろうと思って手配しておいた』だって」

「なん、だと?」


 俺は(さき)の部屋に招かれていたのだが、その事実を知って驚愕した。


「どうも(あき)君のお爺さまが私のお爺さまに話を通して、海外のお義父さん達にも即日手続きするよう指示していたみたい。しかも明日には引っ越しが完了するって。手配した業者も人員を徹底調査して寄越した関係者だから心配無用だってさ。管理人さんにとっては寝耳に水を喰らったようなものだけどね」

「じ、爺さま達の先読みが、今回ほど恐ろしいと思った事はないな」

「分かる」


 だから泊まるよう言ったのか。

 今、帰っても家が無いから。


「俺達の旅行に合わせて動いたにしては素早いな」

「流石に準備はしていたんじゃない? 人員の調査とか時間がかかるし」

「そうか。終業式前に問い合わせしていたから?」


 そこからはスピード勝負で俺達の留守を狙って動いた。


「俺の予約に対して問い合わせてきたのも」

「会長達の新婚旅行を急遽立ち上げたのも」

「引っ越しを悟らせないための……すげぇわ」

「本当にね。会長の家はそのままらしいよ。優木(ゆうき)家が関与するから」

「披露宴は済ませても、八月初旬までは優木(ゆうき)家だからな」


 家に帰ってビックリ退去済みだった。

 宿で頑張りすぎたとか勘違いしそうだが。


「ウチの家令も現地で指示を出していたみたいだしね」

「あのやり手……副会長のお父さんか?」

「そうそう」

「母親は刑事、父親は家令って凄まじいな」

「そうだよね。名前でしか呼んでいなかったから私もビックリしたよ」


 副会長のお父さんこと家令は小鳥(ことり)(ろう)という名前だった。

 鳥篭の渾名で呼ばれていたんだろうな、きっと。

 すると廊下から声がかけられる。


『御嬢様、ご学友からのお電話です』

「電話? 内線へお願い」

『承りました』


 このやりとりを見ると(さき)が本物の御嬢様だと思えるよな。


「誰からだろう?」

「電話連絡する相手が居たのか? 家電直通は珍しいが」

「一応、数人は居るかな?」

「居たのか」


 (さき)は明滅する保留ボタンを押す。


『やっと繋がったぁ!』


 俺は声音から察してしまった。


「電話越しに響く声は一人しか居ないよね」

「だな。この超音波どうにかならんのか?」

「無理じゃない?」

『何が無理だって?』


 (さき)はスピーカーに切り替えて窓際に電話を置いた。

 ファンシーな装飾を施したベッドに座って耳栓を着けて会話を聞く準備を終える。


「あ、歩く街宣車かよ?」

「言い得て妙だね、それ」

『ちょ、聞いている?』

「聞いてる聞いてる」

『少し声が遠いのだけど?』

「気のせいじゃない?」


 声だけは(さき)の声しか拾えないよう指向性のマイクを使っていた。

 遠く聞こえたのは周囲がうるさいからだと思う。


柏餅(かしわもち)は何処に居るんだよ」

「さぁ? カラオケかもしれないね」

『ゲームセンターだけど?』

「補導されに行ったの?」

『補導されていないわよ』


 容姿的に補導されてもおかしくないがな。

 時刻は午後十一時、補導されてもおかしくない時間帯だ。


「それで急に実家へ電話してどうしたのよ」

『そうそう。忘れていたわ。奴が釈放された!』


 ん? 奴? 釈放?


「どういう事よ?」

『詳しくは知らないけど陽希(ようき)相手に大金を注ぎ込んで釈放した人物が居るみたい』


 なぬ? 陽希(ようき)だと?

 あの危険人物を外に?

 奴を擁護する弁護士なんて居たのか?

 裁判する以上は居るか。


「それって保釈金を支払ったのか?」

「釈放されたって言うから、そうかもしれない」


 保釈金は結構、高額だった気がするが?


「誰だよ。あんな危険人物を放出したのは」

「これは困った事になったね」

『本当よ。あ、彼が来たからまたね』

「あ、ちょ、ちょっと!」

「切りやがった。彼って事はアレクとデート中か」

「そうかもね」


 幸せな生活を送る準備が整った途端、降って湧いてきたゴミ虫の釈放話。


「幸い、保釈金を払っても決まりが多いから詰むのは奴か」

「だといいけどね」


 (さき)さんや、遠い目をして現実逃避するの止めないか?

 俺も現実逃避を選択したいが、今は確認が先決だ。


「いや、飲兵衛の話だと俺や(さき)、舎弟共に会うだけでもアウトだ」

「そうなの?」

「メッセージで聞いてみた。仮に停学中の兄貴といえどアウト判定だな」

「なるほど」


 裁判中に外へ出たからといって許された訳ではない。

 奴の認識だと報復する事に躍起になっていそうだが。


「もし、接触してきたら連絡を頂戴と言ってきた。奴の担当に話を通すみたいだな」

「通したら逆戻り?」

「そうなる」


 当面は要警戒なんだろうな。

 冗談抜きで面倒事になってきた。


「あ、続報が出た」

「続報?」

「飲兵衛の旦那が調査を終わらせてきたって。調査していたら関連情報にぶつかったみたいだな」

「へぇ〜。意外とやり手?」

「みたいだな」


 結果は我起(わだち)家の中にも弁護士資格を有する者が居たらしい。

 保釈金はその人物が用意した代物だった。


「「うへぇ」」


 何処までも邪魔するな? あの家は。




邪魔者共は馬に蹴られてしまえ(´・ω・`)

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