第78話 心身の徒労を実感した一日。
※ 微エロあり、修正が入るかも。
俺の嫁は一度決めたらどれだけ反対しても実行する。
時に迷う事もあるが、決めてしまえば、勢いでくる。
それを今日ほど、実感した事はないな。
「大きいね」
「ぶっ」
これは何を見て発したのだろうか?
隣に座る咲は一糸まとわぬ姿で俺の右肩に頭を乗せている。
横目で見ると湯で胸が揺れ、胸以外を両手で隠している姿は印象的だった。
露天風呂に入ってくる時も、月明かりに照らされた女神かと思った程だ。
それだけ印象的な咲。
俺が噴き出した途端にネタばらしした。
「月が大きいね」
「そ、そうだな」
そっちの意味かと安心した。
咲の視線を一瞬感じたから見られる事とはこういうものだと認識した。
なので礼と称して照れ隠しの一言を呟いた。
「月が綺麗だな」
「つっ」
俺は愛していると咲に発しているが、このシチュエーションで語る機会は早々訪れない。
互いにお湯の温度を感じて月を見上げるそれは、夫婦だ。
これも思い出の一つになっただろう。
「明君、卑怯だよ」
「初っ端から混浴を選択した咲に言われてもな」
「うっ」
俯いて恥ずかしげの咲。
両手が外れ、顔を隠してドキッとした。
月明かりで見えてしまったから。
ただな、
(見えた瞬間に思い出すとか……)
子息もそうだが俺の心も急に覚めてしまった。
隣の彼女は勇気ある行動で距離を縮めてきた。
今の俺には勇気ある彼女に応える義務がある。
なのに過去の出来事が傷つけたくない思いが暴走した。
(リサの事案がここにきて……)
今日ほど過去の出来事と決別したいと思った事はない。
俺は不安気なまま咲に問いたくなった。
「咲」
「どうかした?」
「こんな時に聞く事ではないが、少しいいか?」
「う、うん」
俺は傷つけたくない思いの原因を改めて語った。
「え? その人って以前聞いたアレク君の腐れ縁だよね?」
「ああ、どうしても、その関係の時って傷つくだろ?」
「あー、うん。聞いた限りだけど、凄い痛いみたいだね」
「それを聞いて、咲は恐くないのか?」
「相手によるかな? 痛くてもそれが一生の思い出にもなるし」
一生の思い出か。
一生の傷になる人も居たりするが。
「つ、続けてくれ」
「私だと明君以外は居ないから、明君から求められたら、どんなに痛くても耐えられると思う。今日みたいに自転車でお尻を腫れさせたのも、一緒の時間を過ごしたかったから耐えられたようなもの、だから」
「そうか」
女の子は男よりも精神的に強いよな。
見習いたいものだ。
「その人も辛いとは思うけど、大切だから離れたんじゃない?」
「大切、だと?」
「男性が恐い。でも、友達だから自分の行動で傷つけたくない。あとは足枷にもなりたくないと思って離れたのだと思う。私の見解だけどね」
「足枷、か」
気が強い反面、友達思いでもあったもんな。
すると風呂場に持ち込んだスマホが明滅する。
俺はカメラのレンズを隠して画面を注視した。
「ん? アレクから?」
「何かあったの?」
「リサが……今話した女性な」
「その人がどうかしたの?」
語っている最中に近況報告が届いた。
「結婚だと。良い出会いがあって大学近くで食堂を経営してるって」
「へ?」
これにはビックリした。
どうにか克服して結婚したのだから。
「これを知ると急にバカバカしくなるな。悩んで損した気分だ」
「あ、元気になったよ?」
「現金だな。俺の子息」
「本当にね」
原因は咲の胸が腕に当たっているからだと思う。
程よく温まった俺達は、
「あがるか。布団も敷かれているはずだし」
「うん!」
互いを気にせず露天風呂からあがった。
問題が解決したからといって空気に流される事はないが。
単純にそれだけでは拭えない部分もあるからな。
「ヘタレかもしれないが同衾までだぞ?」
「それは分かってるよ。ヘタレは私も同じだし」
「俺に素肌を魅せても?」
「魅せても。今はこれが限界だよ」
咲の腰を抱き寄せ、倒れないよう内風呂に入る。
「限界でも素肌は晒すよな」
「明君に対してはオープンで居たいもん」
「そうなると家でもオープンに?」
「生理の時は無理だけどね」
「流血沙汰は勘弁してくれ」
「血に弱いよね。男子って」
「稀にキモい奴も居るけど」
「それを思い出させないでよ!」
地雷が話題に出てしまったが、何故かこのやりとりが楽しかった。
意中の女子と裸でバカ騒ぎする、不可解な関係だが。
「不思議とエッチじゃないね」
「当然って感じがするな」
「幼い頃からの延長って感じ?」
「多分な。元気な点を除けば」
「私の身体で元気一杯だね!」
子供の頃は一緒に入っていたもんな。
肉体的な細部が違うだけで俺達の本質は変わっていない。
「そうそう。明君」
「どうかしたか?」
「身体、拭きあわない?」
変わっていないが変わって欲しい所もある。
子供の頃は同じ事をやっていたが。
「拭くのは無しだ。俺の理性が保たん」
「私のお尻は触ったのに?」
「あれは医療行為だ!」
「そうだったかなぁ?」
「棒読みするな」
思い出したら触りたくなってきたが、意思の力でねじ伏せた。
俺は身体の水分を拭って髪を乾かす。
「風邪引かないようにきっちり拭えよ」
「分かってるよ。あ、濡れてた。洗ってくる!」
「こういう所は明け透けだよな?」
段階的に緩んでいく咲。
俺の理性は保つのか?
「見て見て! 綺麗になった!」
「勢いで剃ってくんじゃねー!」
「昔みたいじゃん!」
「それはそうだが」
隣にきて裸のまま髪を乾かす咲。
途端に残念さが増した気がする。
「バスタオルくらい巻いたらどうだ?」
「恥ずかしいの?」
「眼福ではある」
「ならいいじゃん」
ただな。
この関係がいつまで続くか分からない部分もあってだな。
「咲が寝取られたら俺はどうなるのだろう?」
俺は不意に巻き起こった不安から呟いてしまう。
その一言が咲の本能を目覚めさせてしまった。
「明君。それ、本気で言ってる?」
「い、いや、仮定の話、だな」
「仮定でも止めてよね」
「うっす」
咲の中の獣、重い愛の主。
本性の一端が顔を出して凄んできた。
「私は明君以外に身体を許す事は無いから!」
「で、でも、寝込みを襲う外道も居るし」
「あのさ、私の寝相は知っているよね?」
「あっ」
咲の寝相は相当悪い。
近くで寝る相手によるが、幼い旬さんは股間を蹴られた。
柏餅は極技を喰らったらしい。
宿泊研修では咲だけ隔離されて寝たとの逸話もある。
それだけ寝相が悪く、昨晩の俺も襲われた。
最後は「お腹いっぱい」と呟いて離れたが、
「自覚はないけど私の寝込みは死を意味すると思うよ?」
「子種の死か」
それは漫画で読んだ寝ながら襲いかかる男子の女の子バージョンだった。
寝ている咲は獣と同じ。
よく考えれば襲った方が確実に死ぬ。
(寝相の所為で寝取られる心配は無いが、油断は出来ないよな)
外道の種類にも強弱があるからな。
浴衣を着て部屋に戻ると、
「なぁ、咲?」
「うん、準備が良すぎるね」
「持ってきていないブツがあるし」
「母さんに苦情を言ってくる!」
咲は部屋を出てフロントに向かった。
「咲の両親は気を回し過ぎだろう。そんなに孫が見たいのか?」
それこそ外孫より内孫に期待すればいいものを。
会長と旬さんなら割と早い段階で作りそうだ。
その証拠に、
「兄さん達が新婚旅行で隣の部屋に居たんだけど?」
「マジか」
何故か同じ宿に居た件。
「干からびないよう頑張ってって兄さんに言ってきた」
「妹から夜の心配をされる兄か」
それはそれで複雑な心境になっただろう。
俺達は少し早いが布団に入って横になる。
「というか父さんも人が悪いよね」
「だな。俺から聞いてその日に予定を立てるとか」
「二人も急に決まったって言っていたしね」
「どちらかに当たって欲しかったのかもな」
「当たって?」
俺は咲からのオウム返しに枕元にあるブツを取って示した。
「子供」
「あっ」
「用意された数が一枚とか、そうとしか思えない」
「そ、そうだね」
会長ならば何枚も準備している気がするが任期中の懐妊は避けたいだろう。
下手すると役職を解任されてしまうから。
「今から仕込めば三月か四月には生まれるが」
それも、直撃すれば、だが。
「そう考えると私達では無理だね。学校があるし」
「会長も無理だ。腹が目立ったら碌な事にならん」
「確かに」
そうでなくても後顧の憂いが存在するし。
校内には居なくとも校外には山のように居る。
「俺達は愛情を育む期間だから焦る必要はないよな」
「明君の温かみを感じながら寝るのも今だけだしね」
「今だけ、か」
今だけだ。
家に帰れば違う部屋。
咲が望めば同じベッドで寝るが滅多に無いだろう。
「すぅすぅ」
「寝たか」
さて、ここからが本番だ。
俺も覚悟して寝るとしよう。
(俺の理性……耐えられるのか?)
§
朝が来た。
会長の嬌声で目覚めた俺は隣室に繋がる壁を見る。
「徹夜かよ? ここが離れで良かったな」
隣を見るとこちらも元気一杯な様相だった。
乱れに乱れて素っ裸。
ここだけ見ると事後だよな。
咲の尻を移動させシーツを見ると無事だった。
「血痕なし。寝ている隙に襲われていないな」
それなら自分の子息を見ろと言われそうだが。
ツンツンと腫れの引いた尻に触れると身じろぎした。
「んんっ」
「おはよう。朝だぞ」
「ん? 朝? おはよう、明君」
「可愛い寝顔だな」
「ボフッ」
その一言で目覚めた咲。
「は、肌寒い……あ、えっと、粗末なものを」
「粗末ではないぞ。綺麗だったし」
「そ、そう? ありがとう」
浴衣が脱げて晒された身体。
綺麗と言わずしてなんと言う?
目覚めて出歩こうと思ったが、
「肌寒いなら入ってくるか」
「そうだね。一緒に入る?」
「もちろん」
朝風呂を提案した俺であった。
「気持ちいいね。あと元気だね」
「それは生理現象だ」
俺達が風呂に入って本日の予定を話し合っていると、
「元気だよね、あの二人」
聞いていいのか分からない恥ずかしい声音が響いてきた。
「羞恥を捨て去ったか?」
「多分?」
俺達は風呂からあがり、サイクルフェアで身を包む。
浴衣を畳んで、準備万端となった。
俺達は貴重品を持って朝食に向かう。
朝食後、部屋に戻ってくると嬌声が続いていた。
「まだやってるし」
「元気だね。会長」
会長、乙(´・ω・`)