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塩対応のクラス委員長が俺の嫁になるらしい。  作者: 白ゐ眠子
第三章・執着の恐怖を打ち払いたい。
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第75話 別行動はマジで辛いと思う。

 俺は今、外道の後始末として、とある練習に参加させられている。

 どんな伝手を使ったか知らないが、我が校の自転車部まで巻き込んで、参加させられているのだ。

 俺はこの時、私立の財力を甘く見たと思った。


凪倉(なくら)にはこちらの才能もあったとはね。意外だったよ」

「せ、先生。俺は今回限りですからね? 願われても入部はしませんから」

「分かっているよ。私も優木(ゆうき)さんに睨まれては堪らないからね」


 それが分かっているならいいか。

 我が校の自転車部は男女合わせてそこそこの人数が在籍している。

 顧問は女子の体育教師。

 それも二年を担当する顔見知りだ。

 合同授業では女子の担当だが、相方の不在時はこの先生が一人で熟す。

 顔立ちは美人だと思う。

 だが、性格が残念で未だに独り身だという。

 どう、残念か知らないが男性教師が近寄りたがらない癖を持っているのだと思う。

 薄い胸を揺らして部員達の元に戻る先生。

 あれは脂肪ではなく胸筋だと思いたいな。


(飲兵衛の友達でもあるんだっけ。俺の噂は半信半疑で様子見していた勢の一人と)


 教師達は全員が全員、信じ切っていなかったって事かもな。


(さき)とのサイクリング・デートが一変、なんでこんな事に?)


 俺は遠い目をして遙か遠方に残る残雪に意識を割いた。

 本日の(さき)は休日ともあって会長宅で宿泊だ。

 いわゆる女子会、女子だけの集まりだ。

 参加者は干からびてもなおインターハイに出場した(あかり)の彼女。

 大玉メロンを抱えた市河(いちかわ)さん。

 シード枠で出発が数日遅れとなった市河(いちかわ)さんの妹。

 残りは副会長姉妹、主催者の会長姉妹だけだ。

 妹率が高いのはたまたまだと思うが、(さき)の寂しさを埋めるには丁度良い人選だと思う。


「おーし! 今日は凪倉(なくら)の走りをじっくり観察しよう!」

「「「「「はい!」」」」」


 それは数日前、俺がいつもの調子で走っただけなのに、区間記録が私立教師の目に留まり、速さの秘訣がどうのと問いかけてきた。

 元選手だった監督も含めてな。

 俺は自転車のポテンシャルと言い訳したが、俺の乗るロードが選手達の乗るロードと大差ない代物だったため、それは違うと言ってきた。


「……」


 なお、外道は強制退部になったのでこの場には居ない。

 気づけば我が校の顧問を巻き込んで練習合宿を組んできた。

 俺は部員ではないので練習試合には出ないが練習は強制参加だった。


(今思うと、(さき)のノーブラも、パンイチも、貴重なものだったんだな)


 不意に思い出すのは笑顔の(さき)

 揺れる胸、柔らかそうな尻、(さき)の残り香。

 俺は走り始めると同時に(さき)との同棲生活が恋しくなり自分の中の今すぐ(さき)に会いたい気持ちと愛おしい気持ちを再確認した。


(折角、課題を全て済ませて夏季休暇の予定を組んだのに……)


 どうしてこう、要らぬ邪魔が入るのか?

 これも結局、俺の自業自得なのかもな。



 §



 三日間の合宿から解放された。

 本来なら生徒会の仕事が入っていた本日。

 先生が生徒会顧問に許可を得た事で俺の仕事は会長が引き継ぐ事となった。

 いや、マジでお詫びしないといけないな。

 ロードに乗って宿泊施設から地元に戻る。

 俺は輪行を選択せず、車道をひた走る。

 実は今回、合宿があった場所はインターハイの開催地で駅は混むと予測したのだ。


(ま、選手達にとって良い刺激になったなら、出張った甲斐はあるか……)


 私立の自転車部はインターハイ常連の脳筋で今回は本番前の調整だった。

 我が校の自転車部も出場しているそうで、全員が調整だったと。

 それと強制退部となった外道は選手ではないが、ブランド名を利用して好き放題していた部員だった。

 ロードも横領で得た金を注ぎ込んで購入した物だったそうだ。

 それも何台も蒐集しているロードバイクコレクターの様相を呈していたらしい。


(それで自身の家の。会社の首を絞めていれば世話ないわ)


 (さき)のロードを欲した理由も飾る方に尽力していたみたいだな。

 そんな奴が自転車部に入った理由が不可解だよな。


(人並み以上の走力だけはあったから、入部が叶った?)


 いや、寄付をするしないで脅していたから、それで顧問を操っていただけだろう。

 入部の経緯は不明だが終わった事なので知る必要もないな。

 ひたすら車道を進み、地元の駅前を通過する。

 時刻は夕方で帰宅している学生が多かった。

 マンションに到着した俺はロードから降り、


「ふぅ。走行距離が半端ないな……」


 サイクルコンピューターを外して駐輪場に片付けた。

 結構、距離を走ったからロードも汚れている。


(これは近いうちにバラして洗う必要があるか?)


 エレベーターを待って最上階に向かう。

 幸い、女性達に出くわす事なく戻ってこれた。

 玄関の鍵を解錠して室内に入ると、


「え?」


 数日空けただけなのに無残な光景が目に飛び込んできた。


「えっと、(さき)も汚部屋の主だったのか?」


 俺は室内に入り、転がったブラとパンツを拾っていく。

 中には妙に湿ったパンツもあったが見なかった事にした。

 リビングに着くと、こちらはそうでもない。

 雑誌等が転がっているくらいだ。

 キッチンは空の作り置き容器が積み重なっている。

 食洗機で洗って放置しているだけだと思うが、な。

 俺は脱衣所へと向かい(さき)の篭にブラとパンツを放り込む。

 デイパックの着替えは空の洗濯機に放り込んだ。

 俺は不意に風呂へと入ろうかと思ったが、


『ふっ、ふっ、ふ〜ん』


 既に(さき)が入っていた。

 ここで遭遇すると後が恐かったので洗濯機を動かして出ようとした。

 扉の開く音が響き、俺が振り返ると背後に一糸まとわぬ(さき)が居た。


「え? あ? え?」


 こういう時、声が出なくなるな。

 普段は隠している胸が明るい脱衣所で丸見えだから。

 幸い、湯気が酷く(さき)の下半身が見えていなかった事が救いだった。

 (さき)は目元に涙を溜め、自身の状態を把握する事なく抱きついた。


「あ、(あき)君!」

「お、おい! 急に抱きつくなよ!」

(あき)君が帰ってきたよぉ!」

「おいおい、泣くなよ?」

「会いたかったよぉ」

「お、おう。そうか」

「本当に、本当に、(あき)君だぁ」

「いや、だから、汚れるぞ」

「そんなの気にしないもん!」

「気にしないって、洗ったあとだろうに。また洗う必要が出てくるぞ」

「洗ったあと?」


 これはいつぞやのポンコツが復活したのか?

 涙を流したままきょとんとする(さき)

 俺に抱きついたまま視線を下に向けていく。

 気がついて身体が白から赤に変化していった。


「あ……その、ごめんなさい!」


 真っ赤な顔で離れた(さき)は前を隠すように反対を向き、その場に屈んだ。

 ピンク色に染まった尻が視界に入ったが、見ては不味いと思い退散した俺だった。


(焦ったぁ。風呂は少しだけ待つか。着替えが出来なかったのは仕方ないしな)


 自室に移動した俺は妙な違和感を感じとる。


「ん? ベッドの布団が乱れてる?」


 出発前は整えていたはずなのにな。

 サイクルウェアからジャージに着替え、ベッドの乱れを直す。

 数本だけ妙に長い髪の毛があった。

 毛根は黒く、毛先は茶色の髪の毛が。


「あいつ。寂しいからって、俺のベッドで寝たのかよ」


 寝相が悪く床へと落ちるのによく寝られたよな。


「俺も恋しかったが、(さき)も恋しかったのか」


 そうとしか思えない乱れ方だった。

 若干、(さき)の残り香がベッドからも漂ってきたし。


「夏季講習は来月からだから、ダブルデート前に旅行に行った方がいいか」


 生徒会活動も数日は休みだ。

 これは会長に急用が出来たから。

 本当は(さき)の兄が帰国した事を(さき)経由で知ったから。

 副会長も彼氏が県外から帰ってくるとの事で喜んだらしい。

 この件は合宿中に(さき)から報された活動報告だな。

 するとTシャツにホットパンツの(さき)が姿を現す。


「旅行!」

「おぅ。聞いていたのか」

「旅行、行くの?」

「ああ。この際だから二人で泊まりでもするか?」

「!! やったぁ! お泊まりデートだぁ!」


 同棲している現状で泊まりも何もないと思うが。

 ま、(さき)が喜んでくれるならいいか。


「とりあえず、俺。風呂に入ってきていいか?」

「あっ。ど、どうぞ」


 風呂と聞いて先ほどの痴態を思い出す(さき)

 またもや顔が真っ赤に染まった。

 着替えを持った俺は忘れていた事を(さき)に告げる。


「あ、そうそう」

「ん? どうかした?」

「大変眼福でした。綺麗な胸と赤い尻!」

「! も、もう! そういう事を言わないでぇ!」


 下は見ていないので、あえて言わなかった。

 真っ赤に染まった(さき)を部屋に放置した俺は脱衣所に向かう。


(ようやく、帰ってきた感がするわ。俺の家はここに定まったのかもな)


 飲兵衛の家でも居候という認識があった。

 自分の家ではなく他人の家。

 気兼ねなく過ごせる家が俺にはなかったんだよな。

 海外にある家は仮住まいで、いつ引っ越すか分からなかったしな。

 両親も帰国しているが国内で過ごす時はホテルか爺さまの家に戻るだけ。


(建物ではなく(さき)の居る場所が俺の居場所ってだけか)


 俺もかなりの頻度で(さき)に依存、してるよなぁ。


(さき)は何がなんでも大切にしないと。俺にとって大事な女性だしな」


 俺はそう呟いて風呂場に入った。

 脱衣所の外でガタッと音が響いたが、聞かなかった事にした。

 風呂から出てリビングに向かうと嬉しそうな笑顔の(さき)が居た。


「ふふっ」


 久しぶりの生活が戻ってきたからだろう。

 数日離れただけで室内の一角が汚部屋に成り果てたからな。


「今晩は(さき)の好きな物で統一するか」

「好きな物!? (あき)君!」

「おいこら、なんでそこで俺が出る?」

(あき)君の成分が足りないから!」

「俺の成分って」


 これは後で知った事だが(さき)の部屋も汚部屋だったらしい。

 会いたくて会いたくて辛くて掃除する気力が無くなったとの事だ。

 それはそれでどうなんだって思うが仕方ないよな。


「「ごちそうさまでした」」


 洗い物はいつも通り(さき)が行い、俺は宿屋の情報を漁る。


「輪行前提で、観光が楽しめる場所は」


 いきなり自転車での遠出は(さき)に地獄を与えてしまう。

 尻が腫れて風呂どころではなくなるからな。


「温泉もありかもな」

「温泉!?」

「混浴はないが」

「混浴はなくてもいいよ。恥ずかしいし」

「あとは気軽に泊まれる場所がいいよな」


 こうして宿の予約を済ませた俺達は久しぶりの余暇を過ごした。




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