第70話 見てしまったら守りたいな。
咲の尻が写った画像。
それを見た瞬間、イラッとした。
角度的に尻以外も写っていて本気で殺そうかと思った。
最終的に社会的な死を与えたから溜飲は下がったが、
「二次被害、三次被害が出る前に見つけようと思ったが」
「無さそうですね。一体、何処から?」
写したとされる場所が発見出来ずにいた。
「構図的にここら辺なんだがな。俺の足も写っていたし」
俺は画像を思い出しつつ大まかな場所を確認していく。
俺が不意に思い出すのは咲の尻だ。
「私のお尻でも思い出しているの?」
「ノーコメント」
「そこは……そうだって、言ってよ?」
「そ、そうだよ」
「ふふっ。良かった」
子息が元気になるが我慢しつつ調査した。
その際に足許から不可解な掠れ音が響く。
「今の、シャッター音?」
「シャッター音? 聞こえたの?」
「ああ。何処から響いて……」
足許を見ると妙に小綺麗な石畳があった。
「ここだけ石畳が新しいな」
「石畳? あ、本当だね」
俺は石畳の表面に触れてみる。
感触は本物か。
「またカシャって音が」
「私にも聞こえたかも」
音が響いた事でこれが問題品だと判明した。
気になった俺は石畳の周囲を観察してみる。
「隙間は……あ、あった。工具が必要そうだな」
「あ、ここ、何かが削れたような跡があるよ?」
「マジか。もしかすると定期的に何かしていたか」
「そうかもね。また鳴ったし」
それこそ自動撮影するカメラなのかもしれない。
証拠品を押収しようにも道具が無かったので、
「職員室にバールがあるはずだから借りてくる」
「う、うん」
咲に言い残して職員室に向かった。
借りて戻ってくる時は生徒会顧問も付いてきた。
「地面から物音が? それは本当に?」
「本当です。工具が無いと退かせないので」
会長達も咲と共に問題の石畳に触れていた。
「確かに音がするね。一分に一回の間隔で」
「本当なのね。この場所にカメラって……私達も通っているわよ?」
「でしょうね。先生方の下着も写っていたので」
「はぁ?」
被害者はなにも生徒だけではない。
写真には教職員も含まれていた。
当然ながら性別に関係なくな。
俺は隙間にバールを挿し込む。
「今から持ち上げます」
「「「「「ゴクリ」」」」」
全員で生唾ゴックンしなくても。
体重をかけて石畳を浮かせる。
中にあったのは握り拳大の穴と、
「ほ、本当にあったわね」
「これで撮影していたと」
「あの変態共は本物だったと」
「「度し難い!」」
防水タイプの小型カメラだった。
シャッターを押すだけの小型PCもあった。
これを用いて決まった時間に動かしていたと。
俺は手袋を両手にはめ、カメラを取り出す。
「バッテリー交換とメディア交換で定期的に取り出していたみたいだな」
カメラには画面も付いていたので画像を表示してみた。
直前の画像には俺達の顔が映っていた。
最初に戻すと真上を歩いた女子生徒の下着が映っていた。
「人によっては画像が鮮明に写るのか」
「会長達のように丈が長いと暗くなると」
「短い子の丈が長くなりそうね、これ」
「そ、そうですね」
怪我の功名ではないが短いスカート丈が長くなるきっかけにもなりそうだ。
「時刻的に……昼休憩後に交換しているっぽいな」
それこそ予鈴後に訪れて交換したのだろう。
誰もが次の授業に意識を割くから。
「私の写真は放課後に印刷したと」
咲の綺麗な尻がな。
「李香の写真は昼休憩前に何度か交換した奴だろう」
「酷いね、これ?」
「ああ」
カメラとPCを回収した俺達はバールと共に顧問に預けた。
あれが職員会議にかけるための決定的な証拠になるからな。
「報告書を渡す以前の話になったわね」
「あれだけの品が出てくると新聞部の顧問は何も言えませんよ」
「この件で責任問題にならなければいいけど」
「今回も男子生徒の暴走ですからね」
「仮に女子部員の証言を知っていたら見て見ぬ振り扱いになりそうですが」
こういう事をされていますと相談されていた。
顧問は「はいはい」と聞いて知らんぷりした。
顧問が動かないと知った女子部員は退部した。
問題が大きくなって気づいた時には……て感じだな。
「あの教諭、普段から事なかれ主義だものね」
「それが結果的に自分の首を絞める事態になったと」
一応、画像の内、女子生徒の写真は消しておいた。
写真を男性教師に見せるわけにはいかないからだ。
§
何はともあれ、翌日の写真販売会は中止に追い込まれた。
購入希望の男子生徒達は阿鼻叫喚となっていたがな。
「そんな!」
「掻き集めてきた金はどうしたらいいんだ」
「き、希望者共から殺される……」
あれは俺達とすれ違った男子の一人か。
一人一人に声をかけて代表で買ってくる流れだったのかもな。
「バッカじゃないの」
「男子達の頭の中ってお花畑なの?」
「死ね!」
女子達は希望者共へと冷淡な視線を向けるだけだった。
「俺は同類に見られていないよな?」
「明君は大丈夫だよ」
「そうか?」
いや、俺も咲の写真を持っているし。
流石に学校には持ち込まず、家の本棚へと隠しているが。
「あれは私が許した物だしね!」
「た、確かに」
それは咲から確保していいよと言われた品だ。
その写真には見えては不味い部分が鮮明に写っていた。
俺としては写真よりも直接見たい訳だが……おっと。
「夏季休暇中、見せてあげるから心配しないで」
「な、なぁ? なんで考えている事が分かったんだ?」
「ふふっ。明君の視線が刺さったから」
「おぅ」
俺はどうも無意識に見ていたらしい。
女子は視線に敏感だと改めて認識したな。
「あとは家でも自然と目で追っていたしね」
「……」
やばい、無意識にそこまでの事をしていたのか。
「私の格好がユルユルだから仕方ないけど」
ノーブラTシャツはいつもの格好だ。
ただな、下のパンイチは調理中にモロを喰らう事が多々あるのだ。
あれには凝視するなという方が無理だろう。
お陰でフライパンを焦がす事も多くなった。
無意識か計算か、注意すると慌てて隠すから無意識だろう。
「私も就寝中の明君を見ているから、お互い様なんだけど」
「え? ちょ、まさか、え?」
「ふふっ。明君が寝ている隙にちょっとね」
「寝ている隙だと? まさか、潜り込んできて……」
「内緒!」
内緒って可愛く舌先を出さなくても。
それはともかく、試験後も俺達にはそれなりの授業があって本日も眠くなる授業を受け続けている。
蝉が鳴く初夏の空気も相俟って皆の気持ちは夏季休暇にあったが。
昼休憩は涼みと称して学食に向かった。
「終業式まであと四日だな」
「そうだね。早いよね、夏休み」
学食では灯と市河さんが室内気温を引き上げていた。
熱々の雰囲気で冷房が無意味になっていたな。
熱すぎるから近寄らないでいたが。
「俺達は引き続き、登校だけどな」
「夏季講習と生徒会の仕事と」
この夏は予定が山積みで休みの定義を再考したよな。
一応、課題は初日を含めて三日で終わらせる予定だ。
俺一人の時は面倒だったから一日で終わらせたけど。
すると咲が、
「そうそう。父さんにお願いして自転車を買ってもらったよ」
卵焼きを咀嚼したのち嬉しそうに報告してきた。
それを聞いた俺はどの自転車か分からず問い返した。
「じ、自転車って……ママチャリか?」
「違うよ!」
ママチャリではない?
他に何かあったか?
「明君が乗っている奴」
「ふぁ? ロ、ロードバイクを買ったのか?」
「うん!」
お、おいおい。
いきなりそれは……冒険したな?
「一体、幾らしたんだよ」
「知らないよ」
「知らないって」
つまり、お義父さんが娘の事を思って買った品だろうから、普通に考えたら安物ではないよな?
色々付け足して、高すぎる自転車になっていそうな気がする。
「盗難保険は入っておけよ」
「勿論、入っているよ」
「それは良かった」
物が物だからな。
盗られないなんて有り得ないから。
俺でもスーパーマーケットで駐輪する時は厳重に鍵をかけているし。
本気で盗る奴はそれすらも引き千切って持っていくがな。
そんな咲の言葉を聞いた俺は、
「帰りにレーパンでも買いに行くか」
「レ、レーパン?」
「いや、ビブショーツがいいか。咲の場合」
「はぁ?」
持っていないであろう必需品を買う事にした。
そうしないと咲の白い尻が真っ赤に腫れてしまうから。
放課後は生徒会の仕事が無かったので少し足を延ばして駅前へ向かう。
「ここだ」
「ここ?」
俺達の前には沢山の自転車が所狭しと置かれている店舗があった。
「ここで咲のサイクルウェアを買うんだ」
「え? ジャージじゃダメなの?」
「ダメではないが。尻が腫れるぞ」
「は、腫れる?」
俺は咲と共に店内に入り、目的の品が置いてある場所へと向かう。
その道中、現物を示しながら進んだので咲の理解も容易いだろう。
「あの自転車はサドルがとても硬いからな」
「そ、そうなんだ」
咲は腫れると聞いて尻込みしているが、
「うわぁ!? なにこの品数!」
レディースコーナーに着くと大きな声をあげて驚いた。
この中から丁度良い品を選んで買う必要があるけどな。
「デザインや機能性で選ぶんだ」
「そうなんだ」
「価格帯も相応だから値札は見るなよ」
「え? あ、嘘!」
「何故見た?」
数を揃える必要もあるからそこそこの出費となるだろう。
俺も消耗品があったので選んだあとに追加する予定だ。
咲は商品を選んで気になる品を篭に収める。
「この感触、好みかも」
「機能性も高そうだな」
試着も簡単に行った。
用を足す時は少し手間だが、水着と大差ないと言っていた。
「水着。そうだな水着だよな。下に何も着けないし」
「ふぁ?」
「どうかしたか?」
「あ、あの。あそこにスカートっぽい物があったから追加していい?」
咲は恥ずかしげにピンク色のスカートを指さした。
俺が下に何も着けないと言ったからか。
(水着と同じなら、下着にも通じるか)
だからサイクルスカートをご所望と。
「いいぞ。身体の線も丸見えだしな」
「うん、ありがとう」
結果は相当な金額となったが致し方ないだろう。
俺の消耗品も入ったから仕方ないしな、うん。
「明君、これは?」
「ゴム」
「は?」
「チューブゴム」
「そっち?」
何だと思ったんだ?